『第4話:異世界帰りの俺、ツッコミと無表情に囲まれる』
登場人物
※後輩ヒロイン候補※
■ 葛城ユイ(かつらぎ・ゆい)
年齢:28歳
ポジション:同じ部署の後輩。庶務兼営業アシスタント
性格:冷静・合理主義だけど、リクにはなぜか興味を持っている
特徴:一度だけリクの“異変”を目撃し、それ以来ちょっとずつ距離を詰めてくる
会議室を出た瞬間、俺は椅子の上に座ったままの勢いで魂も抜け落ちそうになった。
「なあ、リク。お前、最近どうした?」
隣で肩肘ついて歩くのは、同期の村田ジュン。
社内随一の“口撃スキル持ち”。
いや、異世界でこいつがいたらボスの詠唱全部遮ってたと思う。
「どうしたって、何がだよ……」
「今日の会議中だよ。“我が秘奥義”って聞こえたぞ?」
「まさか中二病、遅れて来た?」
「……夢だろ。全部夢だよ。忘れろ」
「あ、やっぱお前……異世界行って帰ってきた系?」
「やかましいな」
内心ドキッとした。
だが村田の言葉に深い意味はなさそうだった。
この男の直感だけは鋭いから怖い。
俺が黙っていると、ジュンはにやりと笑った。
「ま、安心しろ。今の俺には“真面目モード”のユイちゃんのほうが怖い」
「え?」
「……ほら来た」
振り向くと、そこに立っていたのは──葛城ユイ。
後輩、庶務担当。社内で“氷の秘書”と呼ばれる女。
「お疲れさまです、高野さん。会議、おつかれでしたね」
無表情。だが声色にわずかな皮肉が混じる。
「いえ……大丈夫です……生きてます……多分……」
「さっき、何か“秘奥義”って言ってませんでした?」
「えっ」
俺の声、裏返った。
マジで聞こえてたのか。あれ。
「うそです」
「……ただ、“ちょっと浮いてるな”とは思いました」
「ほら、やっぱバレてるじゃん」
横で村田がツッコミを入れる。
「でも大丈夫ですよ」
「社会人って、大体どこか壊れてますから」
「急に優しいこと言ってるようで、それフォローになってないよな?」
そのやりとりに、ユイが初めてクスッと笑った。
なんだろう、この数分間で……異世界より気を使う。
「それにしても、今日の高野さん──なんか、いつもと違いましたね」
「……目つきが、“殺意”ありました」
「え、それ誉めてる?」
ユイは返事をせず、くるりと背を向けて去っていった。
なんか……最後の言葉だけ、ちょっと気になった。
「なあ、リク。お前……ほんとに何者なんだよ」
「さっき異世界とか言ってたのお前だろうが」
──だが。
その“冗談”を、いつか笑って流せなくなる日が来るかもしれない。
だって今も俺の中で、魔力が、わずかにざわめいている。