第39話 仕組まれた揺らぎ
翌朝、出社した俺を待っていたのは、会社の端末への奇妙なアクセス制限だった。
社内サーバー内に保管していた異世界関連の資料──魔素のログ、扉の図案、千尋との共有フォルダ。
それらが軒並み「アクセス権限なし」の表示になっていた。
「……昨日まで見られたはずのファイルが、全部閉じられてる」
しかも、編集履歴には“上書きされた形跡すら残っていない”。
まるで最初から存在していなかったかのように、綺麗に削除されていた。
「高野、これ……普通じゃないな!」
村田がスマホで別ルートからも試すが、同じくロック。
誰かが──異世界と扉に関するすべての情報を、“封じた”のだ。
「でも、どうして? 誰がこんなこと……
……もしかして、本城???」
だがその名を口にした瞬間、俺は首を横に振っていた。
「いや、違う。あいつは止めようとしてる側だ。こんなやり方はしない」
沈黙。
そのとき──俺の脳裏に、ひとつの顔が浮かんだ。
──水科。
都内の中堅IT企業「ミズシナテック」の社長。
俺たちの部署と取引のある企業のトップで、最近になって頻繁に社内にも姿を見せていた。
不自然なほど現実に疎くない。
“魔力”という単語にも眉ひとつ動かさなかった。
──あれは、知っていた顔だ。
俺は記憶を思い出す、
……水科って人、何か気になることなかったか?
……たしかに、ちょっと変な感覚が……
言葉では説明できないけど、“魔力の揺らぎ”みたいなものがった様な……
俺の中で、確信が生まれる。
(こいつだ。水科──あいつが扉を開けようとしてる)
そして、もしかすると──すでに“鍵”に手をかけているのかもしれない。
(続く)




