『第3話:会議室という名のダンジョンで、俺はスキルの暴走を防げるのか』
登場人物
※ツッコミ担当の同僚※
■ 村田ジュン(むらた・じゅん)
年齢:32歳
ポジション:同期社員
性格:軽口を叩くムードメーカー/だが仕事はできる
特徴:リクの異常行動(魔王発言や時間停止の片鱗)を真っ先にツッコむ役。バディポジションにもなれる
定時ちょうど、営業フロアに緊張が走る。
理由はただ一つ──朝イチの週次会議だ。
「全員、資料は頭に入ってるな?」
榊課長が腕を組んで威圧をかけてくる。
スーツはピッチリ、顔はパリッとしてるが、精神攻撃の使い手である。
俺──高野 陸は、いまだ全快しきらない頭を抱えながら会議室に入った。
なぜなら……まだ魔力の制御が不安定だった。
(……ダメだ。満員電車のダメージが残ってる)
(さっきもエレベーターのボタン押したら、指先からちょっと光漏れたし)
しかも、今日の会議は資料未提出者の“公開処刑タイム”つき。
空気が濁る。言葉のナイフが飛び交う。
その圧力に、またしても──スキルがざわつき始めた。
「では、次……高野、君のターンだ」
俺の体がピクリと反応する。
全員の視線が一斉にこちらを向く。
その瞬間だった。
……カチリ。
時間の流れが“鳴った”気がした。
《時制操作──微発動》
(やべっ……また来る!)
目の前の資料が歪む。
榊課長の口の動きがスローになる。
同僚のコーヒーが空中で止まった。
「あの……ちょっと、電波おかしくないですか?」
隣の席の村田ジュンがスマホを見ながら首をかしげる。
その言葉に空気がゆるみかけたが──
「……ふ、ふふふ……」
俺の口が勝手に動いた。
この“セリフ”は、明らかに異世界の俺が出てきてる。
「今こそ、我が秘奥義を解き放つ時──」
「……《時制加速・第二段階》」
「……は?」
静まり返る会議室。
「おい高野……何言ってんだ?」
榊課長が眉をひそめる。
村田が俺の肩を軽く小突いた。
「お前、眠いなら寝ろ。会社ごと加速させるなよ」
俺は一瞬で我に返り、魔力の流れを断ち切る。
空間がゆらめき、止まっていたコーヒーが「ピチャ」と音を立てて落ちた。
「……すみません。ちょっと徹夜で幻覚が」
「ったく、しっかりしてくれよな。真面目なのはわかってんだからよ」
課長はまだ不信顔だったが、資料だけはまともだったようで、その場はなんとか切り抜けた。
会議が終わる頃、俺は机に突っ伏していた。
「……魔王の方が、よっぽどマシだった……」
続く