第38話 見えない鍵、忘れられた誓い
その夜、俺は自宅でノートPCを開き、異世界で使っていた記録媒体──いわば“記憶の写し”にアクセスしていた。
千尋の話を聞いて、心に引っかかっていたものがある。
「鍵……か」
柚葉の報告。
リリィという精霊の声。
そして、千尋の兄の失踪──すべてが今、ひとつに繋がろうとしていた。
俺が戻るとき、神は言った。
『お前の魂は変わった。そして、お前の力も……まだ、お前の中にある』
もしかしたら、その“力”こそが──鍵なのではないか?
だが、それをどう使うのか、まだわからない。
「──リクさん」
スマホが鳴る。
画面には柚葉の名前。
『リリィの声、さっきまた聞こえました。今度は──“誓いを思い出して”って』
誓い……?
その瞬間、脳裏にざらりとした感覚が走った。
映像のように、どこか懐かしい景色が、夢のように浮かんでくる。
……古代の祭壇、祈るように差し出された小さな手、そして──笑っていた誰かの声。
(これは……まさか……俺が……)
ほんの一瞬だけ。
だが確かに、心の奥から“思い出しかけた”感覚があった。
「封印された記憶……?」
言葉にしたその響きが、自分でも意外だった。
だが、それが“鍵”である可能性は高い。
リリィという存在──柚葉が受け取ったその声は、俺にとっても決して無関係ではない。
俺は立ち上がった。
答えは、たぶん俺の中にある。
思い出さなくちゃならない。
異世界で何を背負い、何を託され、ここへ帰ってきたのか。
(続く)




