表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/96

第30話 地下に広がる、もうひとつの世界

マンホールの下──


 そこには、俺の知っている“日本の下水道”ではありえない空間が広がっていた。


 コンクリートの壁ではない。

 自然石を組み上げたような、迷宮じみた通路。

 壁にはうっすらと青白い苔が光り、湿った空気には魔素の匂いが漂っていた。


 ──間違いない。

 これは、あの世界の“残響”だ。


 そして俺は今、その中に足を踏み入れてしまった。


(ここが……日本の地下? いや、繋がってしまったのか……)


 足音を殺しながら、奥へと進む。


 スライムの姿は見当たらない。

 だが、足跡のような粘液の痕が、通路の先へと続いていた。


 この道の先に何があるかはわからない。

 だが──確かめなければならない気がした。


 再び異界が、この世界に触れようとしている。


 通路の突き当たりには、異世界の王城地下で見たような、古びた石扉があった。


 扉に刻まれた紋章は、かつて魔王が使っていた封印文様と酷似している。


 右手に力を込め、《魔力視》を展開。


 扉の向こう側に、反応がある。

 何かが、確かに“存在”している。


(これは……ただの残滓じゃない)


 喉が、ごくりと鳴った。


 そのとき──背後から、ぴたりと気配を感じた。


「……来てしまいましたか、高野さん」


 静かに、しかし確かに響く声。

 振り向いた先にいたのは──水科社長だった。


 白髪混じりのスーツ姿。

 表情は穏やかだが、その瞳の奥には冷たい光が宿っていた。


「ずっと探していたんです。……あなたのような“本物”を」


 俺は無言で距離を取る。

 反射的に、体が異世界仕様で構えを取っていた。


 空気が変わる。


 まるで、魔王と対峙したあの瞬間のように──

 現実の皮が一枚、剥がれていく感覚。


「……何が目的だ」


「この世界が、変わろうとしている。

 あなたが扉に近づいた時点で、それは始まった」


 水科の視線が、ゆっくりと扉へ向けられる。


「開けるか、封じるか。

 いずれにせよ、あなたの意思が鍵になるでしょう」


「……俺は、ただ戻ってきただけだ」


「ですが、向こうの力は、あなたの中に宿っている」


 扉の前に立つ俺の足元で、空気が震える。

 魔力が、呼応している。


 これは──選択の場だ。


 会社員・高野陸。

 異世界帰還者。

 その二つの顔が、交差しようとしている。


(続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ