第29話 お弁当を買いに行ったらスライムがいた
昼休み。
会社のビルを出て、少し離れた裏通りのコンビニへと向かう。
社内のレンジは壊れ、冷蔵庫は封鎖。
唯一信頼できるのは、コンビニ飯。
──そう思っていた。
だが、その帰り道。
「……スライム、か?」
俺の視線の先。
側溝の中で、ぷるぷると揺れている何かがいた。
透明で、水色で、明らかに“ただの水たまり”ではない。
動いていた。跳ねていた。
「嘘、だろ……」
冗談で済ませるには、あまりにも“異世界的”すぎた。
俺はそっと《魔力視》を展開する。
視界の中に、青白くゆらめく魔素の残光が浮かぶ。
(間違いない……スライムだ。異世界の──)
瞬間、スライムはぴょんと跳ね、マンホールの隙間へと逃げていった。
「おいっ、待て!」
思わず声を出してしまった。
周囲の人々は、こちらを振り返るが、何も見えてはいないようだ。
当然だ。魔力視がなければ、ただの幻影にしか見えない。
マンホールには、見慣れぬ紋章が刻まれていた。
それは、異世界の王都近郊で見た“転移封印陣”によく似ていた。
(……ここが繋がり始めている?)
冗談でも、偶然でもない。
この世界に、あの世界の“裂け目”が、確かに存在している──
俺はその事実を、初めて“この目で”確信した。
(続く)




