第2話:スキル、漏れかける。上司は止まらない。
登場人物
※敵ポジ課長※
榊 圭一
年齢:40代前半
ポジション:営業課長
性格:高圧的・マイクロマネジメント体質、結果主義
特徴:自分は仕事ができると思っているが、部下の功績を横取りするタイプ。リクの覚醒を見抜けず警戒。
定時5分前──会社というダンジョンの“扉”が開くと、
俺は、今日も一歩目で足を挫きそうになる。
社内の空気が妙に重い。
昼間に比べて酸素の質が違うんじゃないかと思うくらい、濁っている。
デスクに座るなり、俺は肩で息をついた。
「お疲れ、高野くん」
背後から聞こえる声。
嫌な予感しかしない。
この声は──
「例の提案書、できてるよね?」
課長、榊圭一。
管理職という名の怪物。
時間と人の感情を、完全に無視して生きているタイプ。
「はい。ただ……クライアントが提示した条件が想定より変わってて、少し修正を──」
「は? “ただ”じゃないよね?」
「予定より変わった? 言い訳はいらないよ。結果だけ持ってきて」
笑顔だ。
怖いくらいに。
俺の中で、何かがチリッと音を立てた。
感情の揺れが、魔力に触れる。
(やば……また来る)
視界が、一瞬ゆらめく。
榊課長の動きが、スローモーションに見えた。
《時制操作》──漏れかけている。
「落ち着け、リク……深呼吸……!」
心の中で自分をなだめる。
だが、異世界ではこれくらいのストレスで魔力暴発なんてしなかった。
むしろ、仲間がピンチの時こそ冷静だった。
──じゃあ、なんで今こんなに“制御”できない?
「君さあ、昔から詰めが甘いよね?」
「人当たりだけ良くて、芯がないっていうかさ」
「異動の話も来てるけど……わかってるよね?」
……は?
次の瞬間、目の前に赤いウィンドウが浮かびかけた。
《魔力抑制限界値を超過──》
あぶねえ!
俺は右手を拳にして、自分の太ももを殴った。
バチンと音が鳴る。魔力の暴走がギリギリで止まった。
「すみません、やり直してすぐ出します」
課長は鼻で笑い、どこかへ去っていった。
──こっちは、魔王倒してきたんだぞ?
お前みたいな“中ボス”に翻弄されるわけにはいかない。
それでも。
魔力も、スキルも、英雄の誇りも──この世界じゃ何の証明にもならない。
俺は深く椅子に座りなおし、PCを睨む。
(……くそ、魔王のほうがまだ話わかるわ)
だけど──
それでも俺は、この世界で生きると決めた。
「だったら、やるしかないよな」
魔力を抑えるように、そっと息を吐く。
この世界で戦うために。
まずは、この“提案書”からだ。