第25話 電子レンジに魔力を込めてはいけません(常識)
俺は、社内の給湯室に立っていた。コンビニ弁当を片手に、レンジの前。
時間指定は600Wで2分。でも──
「……MPでいけるんじゃないか?」
ふと、そんな考えが脳裏をよぎった。
異世界では、火属性の魔力で調理なんて朝飯前だった。焼くも煮るも、指先ひとつで済んだ。だから、たかがコンビニ弁当くらい──そう思ってしまったのが間違いだった。
「……ちょっとくらいなら……スキル《温度制御》……」
指先に意識を集中し、ごく微量の魔力を流し込む。
じんわりと、湯気が上がり始める。
「……お、いけるかも……」
その瞬間だった。
──ピピッ……ボンッ!
小さく警告音が鳴ったと思った瞬間、電子レンジの中で青白い閃光が弾け、室内に焦げたコンビニ弁当の香ばしい……いや、煙たくて鼻に刺さる匂いが広がった。
「……やったか?」
「やってんじゃねぇよ」
背後から冷静な声。
振り返れば、葛城ユイが腕を組んで立っていた。
「高野さん。今、電子レンジに魔力……じゃなくて、なんかヘンな技術使いませんでした?」
「い、いや……その……加熱のアシストというか……節電的な……」
「機械には、普通の電気エネルギーだけで十分です」
睨まれて返す言葉が見つからない。
「給湯ポットの異常も、コピー機の誤動作も、全部あなたが関係してるとは思いたくありませんが……念のため、給湯室への出入り、控えていただけます?」
「反省してます……」
タイミング悪く、村田ジュンが冷凍チャーハンを持って登場した。
「おっ、リク。レンジ空いた?」
「いや……今ちょっと、不可抗力で……」
「また何かしたのか。……って、おい、なにこの張り紙」
冷蔵庫の横に、見慣れない注意書きが貼られていた。
【給湯室注意】機器への不可解な干渉を禁止します。
※温度操作、時間制御、謎の力による加熱行為を含む。
「……これ、俺宛てだよな……?」
「さあ? でも、内容に思い当たる節があるなら、反省した方がいいんじゃない?」
ユイはいつもの無表情で言い放った。
──異世界から帰ってきても、現実社会の方がとてもつらい。
《続く》




