第20話 “扉”の向こうに、まだ俺の答えがある(水科視点)
──夜。
都心の高層マンション、その最上階の一室。
スーツを脱ぎ、ワイシャツのままの俺は、暗い部屋の中でモニターを眺めていた。
画面には、円形に配置された魔方陣のような構造体。
正確には、電磁場と脳波パターン、空間粒子干渉──
だが、本質的には“あの世界”に通じる構造と同じだ。
……あれから十数年。
帰還した瞬間、俺はすべてを忘れようとした。
だが無理だった。
記憶も、身体感覚も、魂の震えも──俺の中から抜けなかった。
異世界の真実は、この世界では“妄想”として処理される。
だが、俺は信じている。もう一度“接続”できる方法があると。
「次元の揺れは、確かに高まっている」
モニターを見ながら、独りごと。
ある地点の気流データ、時間加速度の乱れ。
そして──“あの男”の存在。
高野 陸。
異常な安定魔力波。
そして、反応パターンが“時制操作”に近似。
彼はまだ自分の存在価値に気づいていない。
だが、いずれ──必ず、導火線になる。
「……それでも」
俺は静かに、机に置かれた一冊のノートを開いた。
そこには、かつて異世界で自らが記した“門”の構造図が描かれている。
「扉の先に、救いがあるとは限らない。
だが、俺は……まだ、あっち側で終われていないんだ」
その瞬間。
部屋の気圧が一瞬だけ揺れた。
空間の奥、薄く、青白い揺らぎが走る。
「……始まったか」
再接続の前兆。
──そして、今度は一人では行かない。
俺は画面に映った高野の名前を、指でなぞった。
「お前が、鍵になる。
“扉”の開閉を決める……最後の存在だ」
◆ ◆ ◆
この世界と、かつての世界が──再び、重なろうとしていた。
《続く》




