第18話 魔力暴発は計画的に。あとコピー機は無事です
異世界帰還者にも、平穏な昼休みはある──と信じたかった。
「ふぅ……今日は穏やかに過ごすぞ」
そう決めてオフィスに戻った俺は、昼休みの時間を使ってこっそり冥想をしていた。
目的は、精神統一。
最近、満員電車での“緊張暴発”が頻発していたので、さすがに対策しないとマズい。
「……吸って、吐いて……呼吸を整えて……」
集中する。
周囲のノイズが消えていく。
自分の内面に沈んでいく──
「高野、それ“仙人モード”にしか見えないけど大丈夫か?」
ツッコミと共に声をかけてきたのは、同僚の村田ジュン。
「うおっ!? いつの間に!?」
「いやいや、目立ちすぎだって。会議室の片隅で結界張ってるような顔してたぞ」
「結界は張ってない! 冥想してただけだ!」
「なおさらヤバいわ!」
◆ ◆ ◆
その直後。
「……ちょっと集中トレーニングしてただけなんだが……」
言い訳をしつつ、コピー機に用があって立ち上がった俺は──
「……ッ!? おい、止まれ……っ!」
感覚がまた揺れた!
結果──コピー機の印刷枚数が、“10枚→2枚→12枚→0枚”と謎の変動を見せる。
紙がベルトコンベアみたいに逆走したあと、吐き出された。
「……ちょっと、なにが起きたんですか」
村田ジュンが両手を広げながら歩いてきた。
「おいおいおい、コピー機が“時をかけた”んだが!? うちの機材、タイムトラベラー!?」
「ち、違う! 俺じゃない、たぶん……ちょっと集中しすぎて……」
「なに!? 集中すると家電に干渉できんの!? 新手のスキルかよ!」
◆ ◆ ◆
さらにその直後。
「高野さん」
「ひいっ……ユイさん……」
葛城ユイが、恐ろしいほど冷静に近づいてきた。
「資料、刷れるのは助かりましたが──
今、業務用コピー機……なにか不調ですか?」
「……いえ、その、若干プリンタが混乱を……」
「最近、機械類がよく誤作動してる気がしますね。体調不良とか、あります?」
「えっと……まあ、ちょっと寝不足というか……?」
「なら、ちゃんと休んでください。あと、会議室の隅で“気を溜めるポーズ”はやめてください」
「見てたんですか……!」
「見えてしまったんです」
──ツッコミが鋭すぎて、精神より心が削られる。
◆ ◆ ◆
その日の夕方。
俺のPCに、謎のメールが届いていた。
件名:心の健康相談・任意アンケート
差出人:社内福祉室
内容:
「最近、幻覚・幻聴・空間の歪みを感じることはありますか?」
……これは、どう見ても俺に向けてのメッセージだった。
《続く》




