第15話 失敗プレゼンと、氷の後輩と、缶コーヒー
プレゼンは、爆死した。
資料は床にばらまき、言葉は詰まり、最後は立ちくらみ。
異世界で魔王と戦っていた頃のほうが、まだマシだった。
榊課長には怒鳴られ、空気は最悪。
今にも会社の空調が止まりそうなくらい寒かった。
会議室を出たあと、俺は廊下の壁にもたれかかって深呼吸する。
「……俺、なにやってんだろうな……」
そのとき。
「お疲れさまです、高野さん」
聞き慣れた、でも少し優しい声。
そこに立っていたのは、葛城ユイだった。
彼女は無言で、俺に缶コーヒーを差し出した。
ほんの少し、ぬるい。
「自販機、ホット終わってました」
「……ありがとう」
俺が受け取ると、ユイは珍しく、目をそらさずに言った。
「……私、知ってるんです」
「え?」
「高野さんって、時々、消えそうなくらい無理してる」
心臓が、跳ねた。
「今日のプレゼンも、きっと“何か”あったんだろうなって。
普通の人にはわからない、何か」
俺は、言葉が出なかった。
まさか、こんなふうに気づかれていたなんて。
「大丈夫です。誰でも、完璧じゃないし」
「……ユイさん」
「ただ──一言だけ言っておきます」
「?」
「次のプレゼンでは、資料ばらまく前に“魔力セーブ”しといてくださいね」
ピクリ、と肩が跳ねた。
「……えっ、それは……?」
「うそです」
ユイは微笑んだ。
それは初めて見た、氷が溶けたような笑顔だった。
「でも──次はきっと、うまくいきますよ」
その一言が、何よりもあったかかった。
《続く》




