第14話 異世界の扉は閉じたけど、プレゼンの心の扉は開かなかった
「……ここが反応源?」
日曜の昼。
都内の住宅街にある、謎の空き地。
地面の一角だけがやけに光っていた。
「間違いない、ここです」
柚葉が魔力感知の構えを取る。
俺も、久しぶりに《時制感覚》を展開した。
──異世界の“裂け目”が、まだ微かに開いている。
「浸食範囲はわずか……でも、放っておけば拡がる」
「行きますよ、高野さん」
「おう」
《時制加速》《風の収束》
二つのスキルが、現代の街角にほんの一瞬だけ展開された。
風が止み、空気が震え、地面の光がスッと収束する。
「……よし、閉じた」
「これで今日の異変も、処理完了です」
──だが。
その代償は、でかい。
俺の魔力ゲージ、ほぼゼロ。
柚葉も、額に汗を浮かべていた。
◆ ◆ ◆
翌日、月曜。
会社で、俺には“大きな仕事”が待っていた。
「高野くん、午後一のプレゼン、よろしくね」
そう、社運をかけた大口クライアント向けのプレゼン。
俺が、担当だった。
だが──
「……えー……こちらの資料が……その……えっと……」
HPゼロの状態で立つプレゼン会場。
言葉はどもる。視界がぼやける。画面の文字が、古代語に見える。
完全に魔力切れ。
異世界で言えば“毒+睡眠+鈍足”状態。
「……失礼、少し……水を……」
その瞬間、立ちくらみで資料を床にばらまいた。
──グダグダである。
◆ ◆ ◆
プレゼン後。
会議室の隅で、榊課長の怒声が飛んでいた。
「何なんだ高野!準備したんじゃなかったのか!?
何が“予定より時間操作できませんでした”だ!? 日本語かそれ!」
「……すみません……ほんとに、すみません……」
頭を下げながら、俺は心の中で叫ぶ。
(昨日、世界を守ってたんだよ俺たちはあああ!!!)
──だが、そんな叫びが届くはずもなく。
今日もまた、俺は「現代」という名のボス戦に、敗北したのだった。
《続く》




