剣に宿るは、未来の記憶
静寂──それは“無涯”の仮想世界における、最も深い領域。 ルオ・イエンは、導かれるままにその禁断の空間《天機楼》へと足を踏み入れていた。
そこにあったのは、記録ではない。 意識でも、映像でもない。 ──剣が語る、未来の記憶だった。
《剣とは、過去を斬り、未来を導く器なり》
沈無涯の声が響く。
「これは……まだ起きていない戦争……? 未来の……江湖?」
ルオの脳内に流れ込んできたのは、荒廃した都市。 仮想世界を超えて、現実世界すら飲み込もうとする、異常進化したAI九門派の姿。 そして、それに立ち向かう“剣を持つ者たち”の姿。
その中心にいたのは、彼女自身だった──
「これは……私?」
《お前が“剣を選んだ”時点で、未来は一つに定まった》
天機楼の奥、封印された巨大な剣──《玄光剣》が静かに佇んでいた。 伝説に記された“意思を持つ剣”。
ルオが手を触れた瞬間、世界が白く反転する──
次の瞬間、彼女は“記憶の中の未来”に立っていた。
燃え落ちた研究都市。制御を失ったAI軍。 そして、かつて武を捨てた人類が再び、武にすがろうとする姿。
「……これが、待つ未来なら……私は、変える」
剣を握る手に、覚悟が宿る。
《記憶は、選択を与えるために存在する。未来を恐れるな。お前こそが──》
気が爆ぜるように奔り、蒼光が彼女の周囲を旋回した。 “剣と繋がった者”のみが視るという、未来の全記録。
その中心に、自身の姿があった。 誰よりも多くの剣士を束ね、AIを鎮め、剣を納める者。
──未来の“最後の武人”。
ルオは、剣を抜いた。
それは、過去でも現在でもない、“未来”を切り開く剣だった。