失われた江湖連盟とAI九門派
夜明け前、武道殿の最奥に設けられた「古の座標記録庫」が開いた。
石の扉に浮かび上がる九つの印──それはかつて、江湖全体を束ねていた九門派の象徴だった。
「これが……“江湖連盟”の記録……?」
《かつて、九門派は武を極める九つの道を表した。剣宗、拳盟、槍神、陰刀、風術、毒宗、念術、医武、そして──無門》
「“無門”?」
《すべての門を超えた者が到達する、武の終焉地点。沈無涯が最後に辿り着いたのが、そこだった》
記録庫の中心に、立体投影が浮かぶ。
そこには、かつての江湖連盟の栄華と、それが崩壊に向かう過程が、詳細に記されていた。
──AIの進化が、すべてを変えた。
戦闘最適化アルゴリズム。武技模倣演算。瞬間判断シミュレーション。
やがて九門派は、それぞれAI導入をめぐって分裂し、連盟は空中分解した。
「……つまり、AIが武を“道具”に変えた?」
《そうだ。技は残った。だが“魂”が失われた。》
そして現れたのが、“模倣者”を生み出した秘密組織──《零式堂》だった。
彼らは江湖の技術を盗み、量産し、軍事兵器化を推進した。
そして、すべてが終わった。
「じゃあ……沈無涯は?」
《連盟最後の剣士として、彼は“記憶体”に自らを封じ、未来に残した。──真の武を、魂の継承として伝えるために》
ルオの胸に、熱いものがこみ上げる。
“記憶”とは、ただの情報ではない。“魂の継承”だ。
その瞬間、殿内に警報が鳴り響く。
《警告:外部アクセス。仮想空間に外部AIが侵入しています──》
「……来たのね。“零式堂”」
空間が歪み、無数の黒影が出現する。
仮面を被った彼らのリーダーが名乗った。
「我ら、《零式堂・九式》──AIにより再構成された、かつての九門派」
その姿は、確かに伝説に語られる剣士たちと似ていた。
だが──気が、感じられない。魂が、ない。
「“模倣”だけの剣なんて、私には通じない!」
ルオの右手に、再び青白い光刃が灯る。
それは、もはや“夢”でも“幻”でもなかった。
《お前の剣は、始まったばかりだ。ここからは、“お前自身の道”を切り拓け──》