魂の気脈と武道遺伝子
──青い光の刃が走り、模倣者の一人が膝をついた。
が、次の瞬間。
背後から別の模倣者が飛びかかってくる。
「っ──!」
反射的に身体が動いた。ルオの剣が、地を這うように横一線に走る。
金属音。火花。空気が裂けた。
一撃で仕留められなかった。模倣者は跳躍し、逆手に握った短剣を振り下ろしてくる。
「こんなにも……速い……!」
剣を構える隙もなく、防御の型が浮かばない。──だが、その時。
《感じろ。お前の“内側”を》
沈無涯の声が、胸の奥に直接響いた。
思考を手放し、“気”の流れに身を委ねる。
瞬間、剣がひとりでに動いた。
──咄嗟の返し技。斜め下からの抜き打ち。
刃が模倣者の肩口を掠め、動きを止めさせる。
「いまの……私の剣、じゃない……?」
《いや、それは“お前の中”にあった。眠っていた“型”だ》
模倣者たちはなお、次々と現れる。
五人、六人──包囲が狭まっていく。
ルオの呼吸は荒く、両足は鉛のように重くなっていた。
──怖い。けれど、退けない。
「沈無涯……あなたが最後に守ったもの。私が、継ぐ……!」
“気”が、迸った。
青白い光が、剣先から尾を引く。
その軌跡は、舞のようでいて、殺気に満ちていた。
ひとり、またひとり──模倣者たちが斃れていく。
そして最後の一撃を放ち、地に沈めたとき──
《よくやった。これで、“入口”には立てたな》
静かに、沈無涯の声が重なる。
炎と煙の中、剣を手に立ち尽くすルオの視界に、遠く“武道殿”の尖塔が映る。
《魂の気脈と、武道遺伝子──お前に、それを伝えよう》
戦いのあと、瓦礫に立ち尽くすルオの耳に、沈無涯の声が再び届いた。
《感じたか。“気”は技術ではなく、“魂の気脈”から流れる》
「魂の……気脈?」
《お前の中に眠る武道遺伝子──それが気脈を目覚めさせた。》
都市“無涯”の奥深く、古の武道殿へと誘われるルオ。 そこには、自身の先祖が記したという“剣の型”が記録された壁画があった。
その一つ一つの型をなぞるたび、彼女の中の何かが目覚めていく。
《型とは記憶。だが、型に囚われてはならぬ。型を超えたとき、“真の剣”が生まれる》
かつてAIが到達できなかった“創造”の領域──そこにこそ、“武”の核心があるという。
その夜、ルオの身体の中で、“気”が円を描くように巡り始めていた。 仮想と現実の境界が、静かに崩れ始めていた──。