表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
江湖終焉録 〜最後の武人はAIだった〜  作者: 鳳龍麒亀
第二章
3/14

失われた剣の記憶

 ──その夜、ルオ・イエンは夢を見た。


 風が鳴り、雲が裂け、剣が舞う。 見たこともない古代の世界。壮麗な石の城壁。絹の衣を纏った男たち。飛ぶように地面を蹴る少女。空中で交差する光の軌跡。

 

 そして、ひとり──無言で、剣を抜いた青年。  

 それは、沈無涯だった。


 「──“剣”とは、心を映すもの」  

 夢の中で彼は、ルオにそう語った。

 「刀は怒りを。槍は信念を。だが剣は……お前自身の“迷い”さえも、断つ」


 ルオは言葉を返せなかった。  

 ただ、その背に流れる気配を感じていた。

 武という概念が絶滅したこの時代にあって、それは奇跡のように重く、そして美しかった。



 朝。

 彼女は研究施設の無菌ベッドで目を覚ました。

 「……妙な夢……」


 AI監視装置のパネルが自動的に彼女の意識変動を読み取り、淡々とした音声で告げる。

 《本日の記憶接続率:4.3%。潜在覚醒の兆候あり》

「またそんな評価つけて……あの記憶体、やっぱり危険物扱いになるのかな」


 昨日発見した“沈無涯”の意識記憶体は、いったんルオの個人シェルターに一時保管されていた。上司に報告すれば即没収だろうが、彼女はそれをしていない。

 なぜなら──  夢の中で感じた“剣の気配”が、どうしても忘れられなかったのだ。


 その日の午後、彼女は再び、沈無涯の記憶体と接続する。


《来たか。お前は既に“門”の前に立っている》

「門……?」

《江湖への門。お前が一歩でも中に入れば、世界は元に戻れぬ》

「……私は、ただ知りたいだけ。かつて、世界に“武”があったというなら、その意味を」

《ならば見せよう。剣が世界を救い、剣が世界を滅ぼした、その真実を──》


 次の瞬間、彼女の脳内に──ビジョンが再び流れ込む。  

 無数の門派。飛び交う内功。気の網のような戦闘。  

 その全てが、AIの制御も、論理演算も無効にする、「武」の世界。

 そこにあったのは、倫理ではなく覚悟。  効率ではなく、美学だった。


 《──思い出せ。お前の先祖も、剣を持っていた》

 その言葉とともに、ルオの心にざわりと波紋が走る。

 「……私の先祖?」

 《ルオ家は、江湖の“劍宗けんそう”の末裔。お前の中にも剣の血が流れている》

「そんなの……記録にはない……!」

《記録が真実とは限らぬ。武とは、記録されぬ者たちの記憶だ》


 その瞬間、彼女の右手が、ひとりでに動いた。  

 空を斬るような、不可思議な手の動き。

 気が、走った──。


 思わず後ずさった彼女の目に、蒼い光の刃が、一瞬だけ現れた。

「な、何これ……今の、私が?」

《そう。お前は、剣を思い出し始めている》


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ