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立ち上がって、歩く  作者: 葦家 ゆかり
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両足の動かないおじいさん

「今日もよろしくー」


集団リハビリの患者を送り終わってリハビリ室へ戻ってくると、明るくあいさつしながらさっそく男性が車いすをこいでやってきた。


デイサービスで来ている、まだ六十代後半になったばかりの黒川(くろかわ)さんだ。色黒の肌に白髪の混じる短い髪をしている。


彼は十年ほど前に脊髄(せきずい)にできた腫瘍(しゅよう)で、ある朝起きたら突然両足が動かなくなっていたらしい。


手術はしたものの両足の麻痺(まひ)は残り、それからずっと車いす生活をしている。



「よっと」


黒川さんはオレンジと黒で格好よくデザインされた車いすをベッドのそばで止め、かけ声をかけながらひとりでベッドへ移った。


両足が動かなくとも、腕の力で身体を浮かせて移ることができる。


そのあとはまた腕の力でずりずりとベッドの上を移動し、ベッドの真ん中に横になった。


「では、よろしくお願いします。今日の担当は私です」


私が靴を脱いでベッドに上がった。


黒川さんのリハビリは主に両足のストレッチと関節可動域訓練だ。自分で動かすことができないと、筋肉も関節もすぐにかたくなってしまう。


そうならないためにリハビリで足の先から股関節まですべての関節を動かし、筋肉も伸ばしていく。



「最近暖かくなったね。冬よりは調子いいなあ」彼が言った。


「寒いと筋肉も硬くなりますからね」


「はあ、どっかにこの足を動かせるようにしてくれるお医者さんいないかなあ」彼が独り言のようにつぶやいた。「手術か何かをして、目が覚めたらパッと足が動くようになってるんだ」


「そうですね……」


私は返事に困り、彼の足をストレッチしながらうやむやな相槌を打った。


脳や脊髄といった神経の細胞は、一度壊死してしまうと再生できない。


そして黒川さんも医師からその説明は医者から受けているはずだが、やはり心のどこかでそういう希望を捨てられないのかもしれない。


そのまま当たりさわりのない会話をして、二十分のリハビリ時間は過ぎた。


「じゃあ、ありがとねー」


リハビリが終わると彼はまた自力で車いすに乗り、デイサービスのフロアへ戻って行った。


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