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立ち上がって、歩く  作者: 葦家 ゆかり
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あこがれ

そのまま宍戸とは接点もなく、春が来て私は大学4年生になった。


宍戸は大学を卒業していき、人づてに東京の病院に就職したと聞いた。飲み会で宍戸と話してからというもの、私は自分が夢中で打ち込めることや興味を持って取り組めることを折に触れては考えるようになった。


リハビリの仕事はどう考えてもそのどちらかではなかった。


しかし大学を辞めたからといって、ほかにやりたいことが思い浮かばなかった。


やがて考え事もできなくなるくらいに大学の方が忙しくなった。


4年生になったとたん、2か月間の臨床実習(実際に月~金曜まで病院に通い、患者にリハビリを行う実習)が2回もあるのだ。


4月から病院通いが始まり、実習が終わるころにはすっかり夏になっていた。


そこから夏休みも返上で就職活動を行い、夏休みが明けると卒業試験を受けた。そのあと卒業研究に入り、数か月後の発表会に向けて研究に追われた。


そして気が付けば季節は冬になっており、それからは国家試験の勉強が始まった。


目が回るような忙しさだった。


ひとつ荒波を超えたかと思うとまた次の波が来て、それも越えたかと思うとまた次の大きな波が襲ってくる、嵐の中の航海のようなものだった。


こんなに忙しく、プレッシャーにも追われる生活をわざわざ学費を払って買っているのだから、自分も含めみんなどうかしていると思った。


忙しさの中で、宍戸のことはすっかり忘れてしまっていた。


周りの学生たちも、ほとんどが自分と同じように、好きだとかやりたいからではなく、ただやらなければいけないからやっているだけのように見えた。


そして国家試験が終わるころにはもう卒業式が開かれた。



大学を卒業し、就職して少し経った頃だろうか。ある日、関東圏内で働いているメンバーで意見交換会でもしようというメールが回ってきた。


もしかしたらという淡い期待を抱いて私は参加した。そこに宍戸の姿があったのだ。


 久しぶりに宍戸に会えて、私は忘れていた胸の高鳴りを感じた。


彼は仕事でいくらか疲れているようだったが、はにかんだ笑顔で私と話してくれた。


上手に笑顔を作れない人なんだと思った。帰り際、今度はきちんと連絡先を交換した。



 それからこまめに連絡を取り、2人で食事に行ったりするようになった。


だんだんと、宍戸に対する憧れが強くなっていくのを感じた。


宍戸と会う日には、今までほとんどしなかった化粧をしたり、履いたことのないスカートを履いた。


私は彼と会う度に、アメリカでの生活のことや、日本を出て行くときどんな気持ちだったのかなど、たくさんの質問を浴びせた。宍戸の人生は、まるで1つの映画を見ているようだった。


それほどに、私には刺激的で、美しく輝いて見えた。


 何度か会って話を聞くことを繰り返しているうちに、次第に会う場所は、喫茶店やレストランから宍戸のアパートの部屋になった。そのうちに身体の関係も持った。


それは私にとっても嬉しいことだったし、宍戸も喜んでいるようだった。しかしどうもそれ以上に関係が進みそうになかった。

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