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立ち上がって、歩く  作者: 葦家 ゆかり
19/29

私はレールの上を歩いてきただけかも

宍戸と出会ったのは大学生の頃だった。


私は静岡にある大学に通っていて、彼も同じ学科の一つ上の学年にいた。


しかし彼は社会人入試で入学していて、学年こそひとつしか違わなかったが歳は7つ上だった。


彼は歳のわりに若々しい見た目で、年上だと聞くまではすっかり周りと同い年だと思っていた。確かに笑えば少しシワが目立つものの、よく焼けた肌と眼の輝きが、少年のような雰囲気を醸し出していたのだ。


元々学校内ですれ違ったりして顔は知っていたが、仲良くなったのは宍戸が卒業する時の追い出しコンパだった。



 追いコンの日、たまたま宍戸が隣の席にいた。幹事が乾杯の音頭を取り、私は宍戸と、向かいにいた話したこともない後輩の男性ふたりとグラスをぶつけてから揚げを食べていた。



「卒業おめでとうございます」


テーブルに会話が生まれなかったので、私は宍戸に声をかけてみた。


宍戸はお礼を言い、そのあと少し沈黙が生まれたが、学内の雑談を色々としてくれ、卒業論文だったらあの教員が1番無難だとか、あの教授は少しクセがあるだとか、そういうことを教えてくれた。


「そういえば、宍戸さんは社会人入試でこの大学に入ったんですよね。その前は海外で暮らしていたって聞いたんですけど、本当ですか?」


「ああ。俺は、高校を卒業してからアメリカにいたんだよ。陸上の選手だったんだ」宍戸が言った。


「陸上の選手だったんですか。でも、日本でもできるでしょう? どうしてアメリカに」


「どうしても指導して欲しいコーチがいて、アメリカに行くしかなかったんだ。


まだ若かったしね。勢いだけで行ったんだよ」彼が昔を懐かしむように言った。


「すごいですね。私なんかもう二十歳を越えるのに、海外に出たことなんて一度も無いですよ。それを高校生の時点で決めれるなんて。それで、どうしてこの大学に?」


「アメリカに行って4年くらい、練習して、大会に出てっていう生活をしていたんだけど、怪我をしたんだ。それでもう復帰は厳しいのかなと思って帰ってきた。


少しの間実家でプラプラしていたんだけど、いつまでもこんなこと続けていられないし、次は何をしようかって考えてリハビリの世界に興味を持ったんだよ。


怪我をしてからずいぶん理学療法士っていうのには世話になっていたし」宍戸は淡々と喋っていた。


一筋の水滴が、ビールの入った冷えたコップをつたって落ちていった。


自分で選んで、世界を舞台に、夢を追いかける?


それは今までただ流れに身を任せて生きていた私にとっては衝撃的な話だった。


自分はひどくつまらない人生を歩んできたような気持ちになった。

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