理学療法士として働き始めた女の子が、仕事や恋愛に奮闘する物語
バシン!
リハビリ室に、パズルを思いっきり床に叩きつける音が響いた。日本の都道府県が描かれたピースが、割れたガラスの破片のように飛び散る。
「なんで! なんでこんな簡単なものもできなくなっているんだ!」
車椅子に乗った白髪頭の男性が叫んでいる。3か月ほど前に脳卒中によって手術をした患者だった。窓の外には分厚い雨雲が立ち込め、激しい雨が草木を打っていた。
「おい! お前らリハビリだろう! なんとかしてくれよ! なんで! なんでこんなことになったんだ!」
彼のこぶしが前に置かれていたテーブルを殴るように叩いた。周りにいる誰も、何も言えなかった。
彼の担当のセラピストは私だったが、自分に彼を「なんとかできる」可能性がないことくらい分かっていた。
国家資格である理学療法士という肩書きを振りかざしたところで、結局我々は無力なのだ。
一度負った障害を治す魔法なんてない。ここにいる人たちは壊れかけの脳とからだを引きずりながら、死を待つしかないのだ。
私には自分の存在意義がわからない。
この人たちに何をしてあげられるのだろうか? すぐそこに迫る「死」という避けられない終局を前に、何ができるのだろうか。
私はそんな深い悩みの湖の底でもがきながら毎日を過ごしていた。