6話「彼の最期」
最近国境付近での他国勢力との戦闘が増えてきた。
それに伴い仕事量は増加。
前線での戦いはもちろんのこと、後ろでの補給やら何やらも慌ただしくなってきている。
そんなある日のこと、元婚約者のアルフリードについて聞く機会があった。
前に私の悪口を言い広めているという噂は聞いたことがあったのだが、それ以上のことは特に聞く機会はないままで。
忙しい毎日の中で彼のことなんて忘れていっていた。
朝から晩まで働いていては元婚約者がどうしているかに思考を巡らせる暇などありはしないのだ。
それに、たとえちょっと暇な時があったとしても、彼が近くにいるわけではないので彼へ思考を巡らせるには至らないことがほとんどだ。
そんなことをするくらいなら、身近な人と遊んだり食べたい物を口にしたりともっと別のやりたいことをしてしまう。
で、今回聞いた話だが、彼は先日亡くなったそうだ。
アルフリードは国境からそれほど離れていない海をヨットで冒険して遊んでいたそうだ。
また、このご時世だからと国境警備隊から複数回にわたり警告を受けていたらしいが、あいつらは心配性のびびりだなどと言うだけでその警告をずっと無視していたそうで。
――その結果、敵国からの砲撃がたまたまヨットに当たったそう。
それにより亡骸も遺らない状態で死亡することとなったのだそうだ。
……自業自得の極みだな、本当に。
隣国との交戦も増えているこのご時世にその周りで遊んでいるとは、馬鹿としか思えない。
◆
「お久しぶりですね。僕のこと、覚えていますか?」
突然現れた高貴な人。
「エスト様……」
思わず渋いものを食べたような顔をしてしまう。
「何ですかその顔、そんなに嫌でした?」
「すみません本心が出てしまって」
「本心、て。しかしまぁ良いですよ、今日は貴女に提案をしたくて来ました」
「王城警備隊への移動、ですか?」
「ええそうです」
やっぱり、またそれか……。
「前もお断りしましたよね」
ここは敢えてはっきりと言っておこう。
曖昧な態度で接して舐められたくない。
「心が変わられたという可能性も考慮して、何度も来てみているのですよ」
「変わりません!」
「凄い形相で断言なさいますね、アイナさん」
「……すみません、無礼でしたら謝罪します」
「いえいえいいんですよ。僕、貴女のそういうところ、結構気に入っているんです」
エストは口角に墨汁のような黒い笑みを滲ませる。
「そういう方だからこそ、貴女が欲しいのです」
彼は時折こういう黒っぽい部分を覗かせる。
基本的には爽やかな好青年なのだけれど……。
「待っていますよ、貴女の心が変わる時を」
「変わらないと思います」
「相変わらず気が強い。……ふふ、しかしそういうところが貴女の魅力でもあるのですよね」
なんのこっちゃらである。
魅力?
何を言い出すのか。
「では本日もこれで、失礼します」
「さようなら」
「また会いに来ますね?」
「もういいですよ……来なくて……」
エストといると何となく疲れる。
彼が王子という高い位の人だからというのもあるけれど、それを勘定に入れないにしても、いつも何となく溜め息が出てしまう。
「それは――何度来られても変わる気はないから、ですか?」
「そうです」
「ではまた来ますね!」
「はぁ……話が成り立っていません……」