5話「毎日は忙しい」
王子エストからのお誘いを一旦断った私は、第一国境警備隊での仕事に戻る。
私がエストより誘いを受けた――その情報はあっという間に隊内で広まった。
中には「そっち行ったら?」と言ってくれる隊員もいたが、私は「今はここでの仕事で精一杯ですし移動する気はありません」と毎回そう答えた。
だってさらなる移動なんて考えられないんだもの。
第三国境警備隊から第一国境警備隊へ移動になっただけでもいろんなものが変わってそこそこ苦労しているというのにここからさらに別の場所へ移動するなんて。
さすがに厳しい、心理的にも身体的にも。
「アイナは荷物を全部運んでくれ、倉庫まで」
「はい!」
「で、その後は、あっちの建物の掃除を頼む」
「承知しました!」
今はただ毎日の仕事をこなすのみ。
用事が途切れることは基本的にない。
最低限の食事睡眠などの時間はきちんと与えられているが、それ以外は基本的にずっと仕事である。
「あそこもう掃除できた?」
「はい」
「オッケ。じゃ、今度はあの火薬のもと、運んで」
「第一倉庫へですか?」
「そうそう」
「はい! では行ってきます」
「もし重すぎたら何回かに分けるか誰かに協力してもらうかすればいいから」
「分かりました!」
でも私にはそんな生活が向いている。
朝から晩まで何かしている。
そのくらいの方が私としてはありがたいのである。
「火薬のもと、運び終わりました。次は食料を運びますか」
「そうだね、頼むよ」
「はい、ではそちらへ行ってきます」
「ごめんな色々。それが終わったらちょっとコーヒーでも飲んできな? 休憩していいから」
「ありがとうございます!」
戦闘が行われていない時でもやるべきことはたくさんある。
「よぉアイナ! 今から休憩か?」
「はいそうです」
「そんなタイミングでわりぃんだけどよ、ちょっくら手伝ってくれねぇか」
「何でしょう」
「薪割りしなくちゃなんねえんだけどこっち持っててほしいんだ!」
「構いませんよ」
だから暇な時なんてないのだ。
戦いのある日も、戦いのない日も、いずれにせよ私の一日は忙しさに満ちている。
「ではお手伝いしますね」
「ああ頼む! 後でコーヒー奢るからよ!」
「紅茶の方が好きなんです私」
「おう!? じゃあ紅茶奢るわ! それでいいだろ!」
「はい。というより、べつに奢っていただかなくても構いません。ちょっとしたお手伝いですし」
加えて。
女性だからとさぼっていると思われたくはないし、女性だから手を抜いて許されるだろうと思っているというように皆に感じてほしくない――そういう思いも実はあったりする。
「いやーほんと助かったわ、ありがとな!」
「いえいえ」
「これでも感謝してるんだぜ? ほんとだぜ? そこんとこ、分かってくれよな!」