4話「引き抜き?」
も、もしかして、これは……引き抜き?
しかしすぐに素直に信じ込むことはできない。
いきなり過ぎて失礼かもしれないが若干怪しんでしまう。
「どうでしょう、考えてみてはいただけないでしょうか」
エストの表情は穏やかさを保ったままだ。
幸い今は彼と二人きり。仲間からの視線や圧に影響を受けることはない。が、それでも、すぐに彼の提案に乗るということはできなかった。そもそも私はここへ移ってまだそれほど期間が経っていない、なのにまた移動だなんて。しかも私一人だけ環境の良いところへ移るなど、第一国境警備隊の者たちに申し訳ないと思ってしまう部分がある。
誰かに何か言われそうだから、とかではない。
あくまで私の心の話である。
「あの……私は今のところここにいることに満足していますので、申し訳ないですが、また移動とかはちょっと」
「このような辺境で危険な任務につくというのは正直なところ嬉しくはないでしょう?」
「ですが私、国境警備隊に思い入れがあるのです」
「……思い入れ?」
「はい。私、婚約者より国境警備隊を選んだのです。愛や家庭より仕事を優先しました」
この際本当のことを言ってしまおう、そう考えて言葉を紡ぐ。
「私事ですみません」
あまり愚痴っぽくならないよう気をつけつつ。
「私は働くことを婚約者に反対されていました。でも働きたかったし自分の行きたい道を行きたかった、私の人生だから。それでここへ来る時に婚約破棄を告げられました。でもそれは仕方ないと思っています、彼を優先できなかったということですから」
エストは黙って聞いてくれていた。
「そこまでしてやって来た場所からすぐによそへ移るというのは……あまり乗り気にはなれません」
最後はそう締めた。
すると彼は。
「そうですか。この部隊に思い入れがあるのですね。分かりました」
理解を示してくれて。
「では、今回は一旦流すことにしましょうか」
優しく応じてくれた――のだが、それで終わりではなくて。
「また来ます。誘いに。僕としては貴女を王城警備隊へ入れたい、だから何度でも挑戦します」
彼はにやりと片側の口角を持ち上げる。
「諦めませんよ」
え、ちょ……なんか……今までのイメージと違う……?
「では本日はこれで。お時間ありがとうございました、アイナさん」