1話「号令が響く」
「皆、位置につけ!」
今日も明るくなり始めた空の下号令が響く。
「「「はぁーい」」」
そして、何となく間の抜けた返事も。
――私、アイナ・キャンベルは、第三国境警備隊に所属している。
国境警備隊にはまだ女性は多くない。
特に実際に配置されている女性というのはかなり数少ない。
「今日も平和だといいねぇ」
「そうね」
「天気は晴れかなぁ」
「そうじゃない? 多分。昨日の夜予報見たけど晴れになってたわよ」
「おお~、さすがアイナ、詳しいなぁ」
ちなみにこの第三国境警備隊というのは『ヘタレの巣窟』とも言われることがある。つまり、ぱっとしない人ばかりが入れられているのである。基本エリートには程遠い。優秀さで周りより劣る人が多く入れられている印象だ。
私は学生時代比較的優秀な成績をおさめていた。
しかし女性のためにここへ入れられたのだ。
この部隊へ入ることが決まった時にはよく「優秀なのになぁ、残念だな」と言われたものだ。
ただ、女性自体にまだあまり実績がないので、仕方ないことでもあるのだ。
人はどこにいたって輝ける、私はそう信じている。
だから出発地点はここで構わない。
「そういえばさ、婚約者さんどうなったの?」
――そう、実は私には悩みの種がある。
婚約者アルフリードのことだ。
彼は私が国境警備隊に入っていることを良く思っていない。女性が働くなんて、という、少々前時代的な思考の持ち主だからだ。彼は私が国境警備隊加入を目指すと言った時も嫌な顔をしていた。
「まぁ……何となくあのままになっているわ」
「そっか。確か、アイナが仕事するの反対なんだよね? 女の人はそういうところも大変だよね」
「そうね。けど私は仕事をすることを諦めないわ、絶対にね」
「そっかぁ。これからも一緒に働けたらいいね!」
「ええ、そう思うわ」
◆
そんなある日のこと、私のもとへ届いたのは部隊移動のおしらせだった。
「アイナ、君は第一国境警備隊へ移動となった」
「え、えええ!!」
第一国境警備隊、それは、エリートや優秀な者が集められているという部隊である。
同じ仕事、同じような名称でありながら、今所属しているこことはまったくもって異なる位の部隊なのだ。
国境警備隊関係の仕事に就いた者なら誰もが一度はそこへ行きたいと憧れるくらいの存在。
「君の戦闘能力の高さ、優秀さが、認められたんだ」
「そ、そうでしょうか……。私そんなに優秀ではないと思うのですが……」
「しかし移動の連絡が来たのは事実だ」
「はい……」
「一週間後、ここを出てあちらへ行くんだ」
「分かりました」
一つ、運命が動き出す。
――それで、そのことをアルフリードに報告したら。
「はぁ!? 第一国境警備隊に!?」
「はい、そうなりそうです」
「なんてことだ! 状況は悪化しているじゃないか! 第一国境警備隊は優秀だと聞くが……女が入るなど論外だ!」
やはり怒られてしまった。
「危険な仕事だ! 分かっているのか!」
「はい。それでもやりたいです」
さらに。
「ああそうか、よく分かったよ。結局お前は仕事第一なんだな。……じゃ、もういいさ。好きにすればいい。……ただし、婚約は破棄だ」
衝撃的なことを言われてしまう。