⑧王子殿下とその浮気相手たる令嬢を破局させるため、側近が王子殿下に『相手が隠してる物事が見えるようになるクスリ』を飲ませた結果。
「ああああ…………困ったぞぉぉぉぉ……」
エノーレ王国の第1王子であるアルヴァン殿下の友人の1人であるこの俺――ユーリ・ザインホークは苦悩していた。
両親の紹介で殿下と知り合って側近となり、将来は王位を継ぐ彼を良き方向へ教え導く……そんな使命を全うせんと今まで頑張ってきたっていうのに、いつの間にか殿下が……エレメア・トゥインクレイト公爵令嬢という、殿下と釣り合う身分にして傍目で見てもお似合いの婚約者がいる身でありながら、最近できた後輩であるリリアンヌ・サーディス男爵令嬢にうつつ抜かしてるというとんでもねー状況になってたのだ。
頭を抱えん方がおかしい。
それ以前に殿下の頭もおかしいけどね!!
というかどうやって俺を始めとする側近の監視網から逃れた??
まさか途中で影武者と入れ替わってたとでもいうのか。
でもって入れ替わっている間にリリアンヌ嬢との仲を深めたと??
そう言えば、最近王都には『アリバイ屋』なんて裏家業が存在するとかいう、王都伝説が生まれたらしいけれど……い、いやそんな事はどうだっていい!!
今はあの脳味噌お花畑な殿下だ。
リリアンヌ嬢にうつつ抜かしてるとは何事だ!!
もしホントにそうなら次期国王の座から引きずりおろされるぞ。
まさか、まだ幼い……殿下とは10歳以上も年の差がある弟のエルヴィン第2王子殿下に王位を継げとでも?!?!?!?!
「殿下にも困ったもんだよねぇ」
王立学園の教室で苦悩している俺に、突然そんな声がかけられた。
見ると、いたのは見知った相手。
俺の幼馴染にして、俺と同じく親の紹介で殿下の側近となったコリン・バーチェ子爵令息だ。
ちなみに、言ってなかったが俺は伯爵令息だ。
「笑い事じゃないぞコリン」
俺が突っ伏す机の隣の机に座ってニコニコしてるコリンに注意をする。
その顔は普通顔の俺と違い、どっちかというと殿下並みに整ってて、学園では殿下の次に人気があるらしいが俺はそんなニコニコフェイス……一部の貴族令息や令嬢に癒し系と言われる顔には絶対ダマされん!!
「もしエレメア嬢が婚約破棄されたら俺達側近のメンツは丸つぶれだ。責任を取らされることもあるかもしれんぞ」
最近海外では婚約破棄をテーマにした物語が流行ってて、そしてそんな物語の通りに婚約破棄する王侯貴族が増えていると聞く。
もしもこの国でもそんな事が起きたら……想像しただけで怖ろしい。
今のうちに殿下をどうにかしなきゃ、俺達までどうなるか分かったもんじゃあない。
「ああー。それもそうだねぇ」
しかしコリンは、事態の重大さが分かっているのかいないのか。
うっすらと目を開け微笑みながら俺に、
「だったらぁ、僕がお世話になっている人に相談するぅ?」
と、のほほんと言ってきた。
くっ、その声やめろ。
なんだか聞いてるとふわふわして集中して思考できん。
嫌いじゃないけどね!!
「というか、誰に相談するって?」
コリンが誰かを頼るなんて珍しい。
ある程度の物事……と言っても主に肉体労働系だけど、彼は普段、それらを自分でこなしてしまうのだが。
「ユーリも知ってる人だよぉ」
俺も知っている人、だと?
うぅむ、誰だろう……心当たりはない。
「クルーエル・サニーティア様だよぉ」
「ッ!? おいおい……かの【発明卿】に相談て……」
クルーエル・サニーティア。
その女性の名を知らない者は我が国にはいない。
国内屈指の才女であり。
その頭脳を以ってしてこの世にありとあらゆる発明品を生み出し、その功績を称えられ男爵位を与えられたという、歴史の教科書にも載る事が決定してる偉人だ。
だがしかし、その一方で。
時々であるが周囲を騒がせるような発明品を作るトラブルメーカーとしても知れ渡ってるという困った女性だ。
例を挙げればきりがないが。
特製の肥料を作ったら野菜や果物が逃げ回るようになったり毛生え薬を作ったら国中が毛に覆われたり頭が良くなる薬を作ったら知恵熱で使用者が全員ぶっ倒れてしまったりと……とにかく彼女はよくも悪くも発明家なのだ。
ゆえにその二つ名は、いい意味でも悪い意味でも、発明卿。
ついでに言えば、その発明品が国の危機を救った事も何度かあるため、エノーレの切り札や安全弁などとも呼ばれている。
「なんで発明卿と知り合いなんだコリン?」
「ちょっとねー」
言葉を濁すコリン。
だが彼の意見にも一理ある。
サニーティア卿に自白剤でも作ってもらえたら、リリアンヌ嬢の企みを白日の下に晒せるかも。
「よし。とりあえず彼女に相談だけはしてみるのもいいかもしれない。一緒に来てくれないか?」
「うん、いいよー」
そうして俺は、コリンがお世話になっているサニーティア卿のもとへと行く事になったのだった。
★ ☆ ★ ☆
「初めまして! オイラがクルーエル・サニーティアにょろ!」
訪れたのはサニーティア卿の住んでいる田舎の屋敷だ。
ちなみに周囲に民家はない。
実験のせいで周囲に問題が起こらないようにと陛下がこの土地をサニーティア卿に与えてくれたのだ。
そしてそんな玄関前で、俺とコリンはサニーティア卿と向き合ってるのだが。
「…………サニーティア卿? まさかこんなに小さい子が?」
目の前にいるのは、どう見たって青髪ツインテな10歳前後の少女だった。
「博士はねー、若返りの薬を試しててこうなっちゃったらしいんだー」
「いやー、照れるにょろ」
〇ポト〇シンかな?!?!?!
というか照れるとこじゃないよね?!?!?!
「そんで、オイラのトコにわざわざ貴族様が来るってことは、相当ヤバい事態が起こったって事でよろしいにょろ?」
貴族への態度以上にオイラという一人称が気になる俺。
だがそれはなんとか無視し、
「じつは、ですね」
と話を切り出した。
するとサニーティア卿は、
「そっか~、そんなことが~。つ・ま・り、相手の秘密が分かるようになるクスリが欲しいにょろ?」
「ま、まぁそんなところだ」
薬ではなくクスリと書くとなんかヤヴァイ感じの奴を連想してしまうがそれはともかく。
「できますか?」
「フッフッフ、貴族さん、聞き方が間違ってるにょろ」
得意気な顔でサニーティア卿……いやこんな生意気な奴は普通にクルーエルとでも呼ぼうか。とにかく彼女は得意気な顔で俺に言ってきた。
「できますか? よりも、いつできる? と聞かれたいにょろ」
つまり、作ることは可能ということか。
その事実を知り俺は深く溜息を吐いた。
少なくともリリアンヌ嬢の……おそらくは国母の地位に就こうとかそんな陰謀を暴けるチャンスが巡ってきたぞ!
「三日もあれば余裕にょろ」
「三日?!」
まさかそんなに早く作れるとは……やはり天才か。
だったら善は急げだ。
俺はすぐにクルーエルに、
「よろしく頼みます」
と頭を下げた。
感想は甘口で。