6.夕食の席で
次の日。
相変わらず私はイライラしていた。
彼が突然家に来てから、もう1ヶ月ほどが経とうとしていた。
この1ヶ月、ずっと無視し続けてきたんだ。
どんな顔をして会えばいいのか、何を話せばいいのか。
彼はどんな反応をしてくるのか。家族は…。
全てが憂鬱だった。
早く終わってくれ。
いろいろな考えが頭の中でぐるぐる回りすぎて、
結局無表情になる。
これじゃこの1ヶ月間と同じだけど、
自分の気持ちが、表情を繕うところまで追いつかないのだ。
無難な服を着て、夕飯を待つ。
なんだか今日は、仕事も手につかなかった。
◇
夕方になり、父が帰ってくる。
彼も一緒だ。一応、玄関で出迎える。
彼は私を見て笑顔になる。
何か言いたげだったが、
無表情の私が「どうも」と告げてスタスタ行ってしまったので、
何も言わなかった。
彼と私はテーブルのはすかいに配置された。
これまで顔を合わせなかった私への気配りだろう。
これがいきなり連れてきたのが結婚相手じゃなければ、
私だって名前や趣味を聞いたり、形式ばった挨拶ぐらいできた。
だけど、今いる相手は違うのだ。
私の気持ちを踏み躙り、家族との関係も変な感じになったのは、
彼がきたからなのだ。
いろいろ考えるとまた腹が立ってきて、無表情でご飯を食べる。
今日は私の大好物の唐揚げだ。
でもそんなのは知らない。
夕食の空気がお通夜状態になっても構わない。
私は一緒に過ごしてご飯を食べるという約束は守ったのだから。
………まだ話してはいないけど。
一向に話さず黙々唐揚げを食べる私を見て、
喋りまくる父と母。
なんなんだこの空間は。
「唐揚げ、いっぱい食べてね。
この子の大好物なの!」母が彼に言う。
やっと彼と私が対面したことが、
よほど嬉しかったようだ。
父が彼に話す。父はすでに結構お酒を飲んでいるようだ。
「最近仕事の方はどうなんだ、
ボランティアも続けているんだろう。」
「仕事は、楽しいです。
最近は部下もできて張り合いが出てきました。
ボランティアも楽しいですよ。
週に1回程度ですが、息抜きになっています。」
……初めて聞いた彼の声は、
低くて落ち着きのある声だった。
この間駅で見かけたのは、そのボランティアをしているところだったのだろう。
確かに、楽しそうだった。
だけど…
だからって、私の心には入ってこない。
へーすごいなってくらいに、他人事でしかないのだ。
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