香港 2
何とか前衛部隊を振り切り入館すると、そこは僕の想像するホテルとは全く違っていた。
受付なんて無い。
絨毯の敷かれたロビーも無い。
まるでデパ地下の食品フロアの様にショーケースが並んでいる。
その中で、白い長袖のワンピースの様な服を着て、長いヒゲを蓄えターバンを巻いたインド人(多分)が商売をしていた。
ショーケースにはカレーや見た事のない惣菜が入り陳列されている。
その他にも電化製品、アクセサリー、クリーニング屋が立ち並ぶ。
その混沌とした空間の全てをカレーの香りが包み込んでいた。
ここ、ホテルだよね……?
初海外旅行、1カ国目、香港。しかし、そこは完全にインドだった。行った事ないけど。
実は旅に出る前からインドにだけは行こうと決めていた。逆にその他は全く決めていないので、行き当たりばったりで進んで行く旅になる。
軽い潔癖症のある僕には合わない国だと言う事は何と無くだが予想は出来たのだが、一番行きたくないけど、行かなくてはならない国だと思っていた。
そこに理由は無いし、自分でも分からないのだが何と無くそう決めていた。
しかし、早くもインド入国を達成してしまったようだ。
突き刺さる様なインド人のギョロリとした視線が僕のHPをみるみると削っていく。その目は僕を
「ヨソモノダ……」
と言っている。怖すぎるんですけど……。
様々な店や宿が入っているチョンキンマンション。僕の宿は5階にある。あらかじめ日本でネット予約しておいたのだ。
しかしチョンキンマンションの中はネットの情報通り迷宮だった。滅茶苦茶に入り組んでいるのだ。
まず、5階に行く手段が見つからない。
その間も例の
『ヘイ!ジャパニーズ!ホテル!』
と、チョンキンコールは鳴り止まない。更に
『ヘイ!シムカード!』
と、新しいコールバリエーションも増えて始末が悪い。
1カ国目にして出会ったインド。第一印象は最悪。お見合い相手を『インド』に擬人化したら襖を開けた瞬間にお断りしている。そんなレベルだ。
「インド行くのやっぱり辞めようかな……」
そう思わせるには充分な程、インド人の持つパワーは圧倒的だった。
鳴り止まないチョンキンコールの中、ようやく5階に通じるエレベーターを見つけた。
逃げる様にエレベーターに滑りこみ、宿のドアの前に立った時にはもうヘロヘロだった。
疲れた。早くベッドに横になりたい。
目の前には重く冷たいドアがそびえ立っている。その横に早く引退させて下さいと聞こえて来そうなボロくて黄ばんだインターフォンが情けなく貼り付いていた。
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