第5話 遺跡の中に眠る名刀
2人(一人と一つ?)は遺跡の中へと足を進める。中は真っ暗だったが、龍聖は無言で、頭上に魔法の火を出現させる。彼の魔力で生み出された暖かな火が、暗闇を明るく照らす。
照らされたことで見えるようになった遺跡の中は、おそらく石で出来ているだろうレンガが積み重ねられ、それが数百メートル先まで続いている。
『気をつけろ、どんなトラップがあるか分からんからな』
「あぁ、分かってるさ」
龍聖はそう言うと周囲に怪しい床や壁がないかを、レンガ一つ一つに気を配りながら進んで行った。
◇
――それから数分後、彼らは驚きを隠せなかった。
「……驚きだな」
『……同感だ』
そう前置きを告げると、二人は同時に発言する。
「『罠以前に、魔法で作動する仕掛けすらないとはな』」
そう、彼らは今、目的の名刀が差された台座の目の前に無傷でいるのである。
罠や仕掛けはおろか怪しい場所すら、「何それ美味しいの?」レベルで存在していなかった。つまりここは、石レンガが数百メートル先まで積み重ねられているだけのただの道だったのである。
そして現在、前から立て掛けられていたであろう松明の光を浴びて、刀身が赤、青、黄色の三原色に輝く名刀からは、業物だと言う気迫が嫌でも伝わって来る。言うなればその手に疎い者すら感動させる美だ。
「……緊張して損したな」
肩の力を抜いて警戒を解く。
『まだ安心は出来ないぞ』
「何でだ?」
『台座からこの名刀を抜こうとした者は、軒並み入り口まで弾き飛ばされているからな』
「……多分その心配はないぞ」
その気の抜けた様子にリーフが水を差すが、龍聖は全く警戒する様子を見せない。
『そうか、やはりか……』
「あぁ、だって……
『さっきから抜いてくれと言わんばかりに光り輝いているからな』」
そのとおりである。名刀はまさしく今、腕輪であるリーフと同じように表情は分からないが、自分を目の前の少年、つまり龍聖が使うことを望んでいるのだ。
その証拠に使ってくれと言う、執念染みた気迫が感じられるまぶしい光を自分で放っている。目が痛くなりそうだ。
普段から昼夜問わずこんなに光っているとは到底思えない。はっきり言って労力の無駄遣いだからだ。
『早く抜いた方が良いぞ。お前の目が持たん』
「了解した」
そう言いながら彼は目を腕で覆いながら名刀に近付き、柄を左手で掴む。そして抜こうとすると、何の抵抗もなく名刀は台座からあっさり抜け、眩しい光も収まった。
刀を抜いてみて分かったことは、刃渡りの長さは約70センチであること、鎬造りであること、そしてこの刀には全く反りがないことだ。短刀や匕首などでよく見られる直刀が、打刀サイズになっている感じである。
「随分あっさり抜けたな。もっと苦労すると思ったんだけど」
『ゴブリンキングの攻撃を素手で難なくいなしていたお前がなにを言っているんだ』
「そうか、今さらか」
その苦言に龍聖は納得する。してしまう。
『それで使い心地はどうだ?』
「ああ、すごく使いやすいな。まるで俺のために作られたみたいに手に馴染む」
そう言いながら、左手に持っている名刀を振る。その言葉通り、ゴブリンキングの剣と比べると、格段に剣筋の速さも精度も上がっていた。
『ところでリュウセイ、その名刀の銘は何だ?』
「……どうやって調べるんだ?」
龍聖には調べ方が分からない。魔法が存在しない世界から来たのだから当然ではある。知識も調べる書物すらもここにはないのだ。
『おっと忘れていた。自分の頭の中でステータスと念じてみろ』
「ゲームみたいだな」
『げえむ?』
「おっとその話はまた今度な」
話を脱線させそうなリーフの好奇心に満ちた声を遮って目を閉じ、ステータスと念じると目の前に半透明のパネルが現れる。
「お、出た。どれどれ……」
―――――――――――――――――――――――
リュウセイ ミカヅキ
17歳
男
Lv94
HP
46090/46090
MP
37787/37800
攻撃力 A 14742
物理耐久 A 10691
魔法攻撃力 B 8329
魔法耐久 A 10049
敏捷 S 15458
状態異常耐久 B 8004
武器
【名刀『極彩丸』】
ランク 10
攻撃+200000
魔法伝導の刻印
自動修復の刻印
防具
【学校のブレザー】
ランク 1
物理耐久+40
【学校のズボン】
ランク 1
物理耐久+25
敏捷+15
【スニーカー】
ランク 1
敏捷+20
装飾品
【深緑の腕輪】
ランク ??
??????
発動効果
自動修復
〔損傷した場合、着用者の魔力を使用して自動的に修復する〕
魔法伝導
〔魔法を纏わせることが出来る〕
――目安――
ステータス
E
1~2999
D
3000~5999
C
6000~7999
B
8000~9999
A
10000~14999
S
15000~19999
〔能力上昇に伴い上限解放〕
装備ランク 能力上昇数
1 低 500-
2 ↑ 1000
3 | 5000
4 | 10000
5 | 30000
6 | 45000
7 | 60000
8 | 100000
9 ↓ 150000
10 高 200000+
(あくまで目安。付与されている効果で、多少上下動する)
―――――――――――――――――――――――
「……何この中二武器」
龍聖はショックを受け、項垂れる。その現実は自分の高いステータスの衝撃を遥かに上回った。彼は中二病ではないので、この刀を痛い武器としてしか見ることが出来ない。
『どうした? 分かったんだろう?』
「……極彩丸だってさ」
『――何? 極彩丸だと?』
ブルーな気持ちになりながら、龍聖は質問に答えるが、リーフは訝しげな声を上げる。
「ん? 知ってるのか?」
『知らないはずがないだろう。数百年前に滅亡寸前だったエネロを救済に導いたとされる、名刀の中の名刀だぞ』
少し興奮気味にリーフが説明する。内容から察するにとんでもない快挙のようだ。逸話のスケールとしては、あのエクスカリバーすらも上回っている。
「へ、へぇ。つまりそんなに凄い刀を、俺は封印されていた台座からあっさり抜いてしまったのか」
『あぁそうだ。大手柄だな』
「てことは、この刀を狙ってくる奴は大勢いるだろうな。その名刀を渡せ、みたいな感じで」
『……それは間違いないな』
龍聖の言葉で言われるまでもなく、リーフもその点については考えが及んでいた。それ程に貴重ならば、十中八九その手の輩は現れるだろうとは簡単に予想出来る。
「……まぁ、今までの挑戦者と同じように弾き飛ばすだろうから心配いらないか。持って行こう。面倒事は嫌だけど仕方ない」
『む、意外だな。そこまで言うのなら、てっきり置いて行くと思ったのだが』
「何でか分かんないけど、置いて行くと取り返しが付かない事になる気がするんだ……」
龍聖は苦笑いしているが――実はその予感、大当たりだったりする。もし置いて去ってしまえば、極彩丸は怒り狂って遺跡を崩し始め、龍聖を生き埋めにしていただろう。
この遺跡のレンガ一つ一つは、通常のレンガの10倍程の重さがあるのだ。1、2個程度ならばまだしも、それが数十、数百と降って来るとなれば彼も無事では済まなかっただろう。
「ところで、鞘はどこにあるんだ?」
『そう言えばそうだったな。周りには見当たらないが』
台座には極彩丸のみであり、鞘はなかった。このままでは抜き身の刀を持ち歩くことになってしまい、不審がられること請け合いである。
と、そんな会話をしていると、極彩丸が目映く輝き出した。光が収まると、龍聖の右腰に現れる青空のような蒼い鞘。少し右手で叩いてみると、相当な強度であることがわかった。
ベルトに通すでもなく固定されており、かつ抜くために必要な移動も可能になっている。
「……なんでもありだな」
『貴様が言うか』
龍聖はリーフのツッコミを聞かなかったことにして極彩丸を鞘に収めると、キィンと小気味良い音を響かせ、その音を聞く者を魅了する。
『ふむ、リュウセイ。試しに鞘に魔力を流してみろ。持ち手から手を離さずにな』
「こうか? ……うお?」
龍聖が鞘に魔力を流すとパカッ! と軽い音がして、鞘の刃側がシャコガイのような二枚貝の如く開いた。
「すごいなリーフ。どうして分かったんだ?」
『こういった逸話を持つ刀剣には、鞘にも仕掛けが施されているものがあるのだ。閉じるには再び魔力を流せば良い』
「へぇ、不思議だけど助かるな。これで居合いも咄嗟にやり易くなった」
不思議がりながらも再び魔力を流し、カシュンッ! と別の音をさせて鞘を元の状態に戻らせる。その音は、極彩丸が自分の持ち主を見つけた喜びを表しているようだった。
鞘の性質上、太刀と同じ提げ方をすること決めた龍聖は、しばらくその場で現状を理解するべく立ち尽くしていた。