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聖縁剣  作者: フジスケ
第1章 規格外の少年
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第1話 奇妙な出会い

ここから9話までは、1時間ごとに連続投稿します。

「ちょ……ちょっと待て。異世界? は? どういうことだ?」


 突然のカミングアウトに龍聖は戸惑いを隠せない。当然だろう。小説やアニメの中だけだと思っていた異世界転移が存在し、ましてや自分がされたなど想像出来る訳もない。


『言葉通りの意味だ。貴様は何かによってこの世界へと連れて来られたのだろう』

「何かって?」

『貴様がここに来た経緯を話してくれれば、多少は分かるかもしれん』

「あ、そうか。俺がどうやってここに来たか話してなかったな」


 それでは原因も判断しようがない。話してもあまり損はないだろうと、龍聖はここに来るまでのことを話すことにした。




     ――十数分後――




『……なるほど、知識等を学ぶ学校とやらに行く最中、何の前触れもなく光があらわれ、気が付くとこの樹海に一人きり。そしてあてもなく歩いていたら、足に私が当たったと』

「あぁ、そんなところだ」


 間違いは見当たらず、龍聖は首肯した。


『ふむ、どうやら世界が、貴様を必要だと考えたらしいな』

「どういうことだ?」


 世界が自分を必要としたと言う部分に疑問符を浮かべ、そして実感する。ここは本当に異世界なのだ。魔法が夢物語である、現代日本ではないのだと。


『世界は、直接物事を解決出来ないのだ。だが、物事を解決出来る()()()()()()()()()()は可能だ』

「つまり、この世界に何かが起こっていて、それを解決してもらうために俺を連れてきた、ってことか?」

『おそらく、間違いないだろう』

「……帰ることは?」

『聞いたことはないな。私が聞いていないだけなのかもしれないが』


 腕輪が肯定すると龍聖は腕を組み、疑問に満ちた顔をする。帰る云々は今はどうしようもないとして一旦置いておき、何故呼ばれたのかが分からないと言わんばかりの顔だ。


「うーん、何で俺なんだ?」

『む?』

「俺は見た技術や能力、知識を周りより少し上ぐらいにしか使えないぞ」

『……何!?』


 その言葉に、腕輪はあからさまに驚いたような声を出す。それを期待外れによる物だと判断した龍聖はそのまま続ける。


「な? そんな反応になるだろ? もっと才能のある奴を連れて来たら――」

『そうではない!』

「え?」


 言葉を腕輪が即座に遮ったことで、てっきりそうだと思っていた龍聖は呆ける。


『貴様、周りより少し上ぐらいに使える、と言ったな?』

「あぁ、そう言ったけど?」

『先程から貴様はただ者ではない気配を出していると思っていたが、そういうことか……!』

「えっと、どうしたんだ?」


 確認するような腕輪の質問に頷くが、腕輪はどこか深刻そうな雰囲気である。


『良いか良く聞け。貴様は周りが強者や賢者だらけならば、それらを上回る戦闘能力や知識をいずれ持つようになる、と言うことだ!』


 と、叫ぶように告げた。


 つまり、周りがどれだけ強かろうといずれそれらを凌駕する、それが三日月龍聖なのである。


 そして龍聖は周りより少し上と言っているが、これは少し語弊がある。彼は他人の技術を自分でアレンジ、改良することで自分の技術にしてしまうことが出来るのだ。


 それだけではない。その得た技術を組み合わせ、周りが出来ないことを平然とやってのけるのがこの少年なのである。


「……マジで?」

『こんな重大なことに嘘など吐くはずがないだろう……貴様、自分で気付いていなかったのか?』


 呆れたように腕輪が訊いてくる。周りより少し上へ行けることが分かっているのに、今の今まで自身の特異性に気付いていなかったのだ。呆れるのも無理はないだろう。


「俺のいたクラスの定期テストの平均点は、毎回60点後半ぐらいだったんだ」

『……それで貴様の点数は?』

「たしか、全部100だったな。教科書と先生が話す授業の内容を記憶しとけば、発展問題もそう難しくはなかったし」

『……貴様、小さいときに賢いところに行っておけば、もっと伸びたのではないか?』


 普通の人間ならばその現実に悔しがるはずだ。だが彼の導き出した答えは――


「あぁそうかもな。まあ過ぎたことはどうでも良い」


 一蹴であった。


『どうでも良いで済む問題なのかそれは……』

「何より面白いと思うものしか手を出してないんだ」

『……具体的には?』

「武道、家事、物作り、勉強、コンピューター、あと――」

『幅が広すぎだ!』


 などと他愛ない話をしていたが――


「あ、忘れてた」


 と龍聖は何かを思い出したような声を上げる。


『ん? どうした?』

「ここ危険じゃないか?」


 今・更・案・件である。悠長に話している暇などない。日本であっても、夜の山や森は非常に危険なのだから。


『あぁ、ワースト5に入るくらいに危険だぞ。狂暴な魔物がうじゃうじゃ出るからな』

「……………」

『……………』


 しばらく沈黙が続く。周りの草むらや樹木が風で揺れ、その沈黙を強調するようにガサガサと音を出す。


「おっと、俺の命が危険だな」

『随分冷静だな貴様……』


 もっとも、それも長くは続かなかったが。


 だがそこに、人間ではない何者かの気配が漂った。龍聖は一瞬でそちらを向き、身構える。それは明らかに素人の身構え方ではなかった。


 そして服からは分かりにくいが、普通ならば付かないであろう、全く無駄のない筋肉が身体中に付いているのが分かる。


 魅せるために付けられたのではなく、鍛練が使うために与えた肉体。そんな言葉が当てはまる代物だ。


『貴様、やはり一般人ではないな……』


 その言葉の後、気配の持ち主が暗闇から姿を現す。体長は約2メートル。錆色の皮膚に剥き出しの牙、右手には少し錆びた両刃剣を持っている。


『ゴブリンキングだ! 貴様でも荷が重い、逃げろ!』

「……無理だな」


 腕輪は逃げるよう促すが、龍聖は冷静な態度と構えを崩さず拒否し、その場に留まる。


『何のつもりだ!』

「キングって言うぐらいだ。ゴブリンの指揮官みたいな奴なんだろ?」

『……あぁ、そうだ、常に何体かは部下を連れている』


 腕輪の叫びに龍聖は慌てずに答え、その返答に薄く笑みを浮かべる。


「このリーダーを潰せば、連中は尻尾巻いて逃げるか、やけくそで飛びかかってくるかのどちらかだ。前者なら大いに結構。後者でもやけくそな攻撃なんて、俺には当たらないし」

『貴様、本当に何者だ……』


 そう、龍聖にとって、父親の手加減抜きの威圧と攻撃に比べたら、雑魚も良いところなのだ。


 ゴブリンキングは戦闘体勢をとり、ジリジリと近づいてくる。それに対して龍聖は一歩も動かない。何かを狙っているかのように。


「グオオオオォォォォッ!!」


 やがて痺れを切らしたのか、雄叫びを上げながら振り下ろされる武骨な刃。それは風を切りゴォッ! と音を出しながら、龍聖の脳天へと向かって行った。


 それは地面まで振り下ろされ、周りに砂塵が舞う。ゴブリンキングは目の前の獲物を殺したと確信し、ニヤリと笑った。


 ――しかし、その確信は裏切られる。


「おーい、どうした?」


 殺したはずの獲物が気配も出さず、無傷で背後を取っていたからだ。


『……は?』


 腕輪の唖然とした声が響く。


 その現実にゴブリンキングも驚くが、すぐに気を取り直し、剣を持っていない左手で殴りかかる。


 一方龍聖はその拳を冷静に左へ避けると右足を払い、左腕を自身の右手で掴んで引き倒した。俗に言う蹴手繰りである。


 予想外の反撃に対応しきれずゴブリンキングは顔から思い切り倒れ、強打した鼻からは血がボトボト溢れ出す。


「おぉ、相撲の技を真似ただけなんだが、意外と通用するもんだな」

『それで何とかなるのは貴様だけだッ!』

「え? 父さんもこんな感じで倒せると思うぞ?」

『貴様等は何なんだ……冒険者の立場がなくなるだろう』


 龍聖が人外ならば彼の父親も人外だった。腕輪はツッコミ疲れた様子だ。


「あ、冒険者いるの?」

『いるぞ。ただな、雑談しながらゴブリンキングの攻撃をいなす貴様程強くはないッ!』


 腕輪が言ったように龍聖は雑談しながらも、すぐに起きあがったゴブリンキングの攻撃を剣の腹に手を添えて逸らし、拳も難なく避けて行く。


 時折襲いかかってくる手下であろうゴブリンも、アクロバティックな蹴りで全て吹き飛ばしていた。


 それがしばらく膠着状態になると、次第にゴブリンキングに焦りと疲れが見え始める。鼻血を流させたことで誇りを傷つけられたことが、ますます拍車をかけているのだろう。


「グギャギャアッ!!」


 一気に勝負をつけようと思ったのか、剣を思い切り振りかぶり、唐竹割りを放つ。


 しかし焦りに身を任せ、予備動作丸出しな攻撃など龍聖に見切れないはずもなく。半歩下がって易々と避けられてしまい、勢い余って剣は地面にめり込んだ。


「くらえッ!!」


 その僅かな隙に、がら空きの脇腹に放たれる渾身のドロップキック。さすがにその一撃は応えたらしく、うめき声を上げながらゴブリンキングは数歩後退る。


 龍聖は地面に刺さったままの剣を利き手である左手で抜き取り、腹を押さえているゴブリンキングに向ける。対してゴブリンキングは痛みに顔をしかめながら、失った剣のかわりに鋭い爪を構える。


 ――その場にただならぬ緊張感が漂う。これで全て勝負を決める。そんな気迫が、相対する両者から迸る。


  風が吹き、木が揺れた瞬間――


「しっ!」

「ギャオオオオオッ!!」


 お互いに最大級の一撃を放つために疾走した。ゴブリンキングは鋭い爪を疲れきった体に鞭打って振りかぶり、龍聖を引き裂こうと突進する。


 一方龍聖は剣を中段に構え、ゴブリンキングが突進してきた一寸後に駆け出し右薙ぎを放った。風を切る音が鳴り、その鋭い鉄の刃で相手の命を刈り取らんとしている。


 ――両者共に一歩も譲らなかった全力攻撃の後、肉が千切れ飛ぶ音と共に一つの命の火が消え、体が倒れる音がした。


 そこに立っていたのは――




「俺の勝ち、だな」


 ――召喚された、少年だった。

コメント、誤字脱字報告大歓迎です。私自身でも確認はしているのですが見逃すことも多々ありますので、お手間をお掛けしますがどうかよろしくお願いいたします。

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