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聖縁剣  作者: フジスケ
第2章 勇者召喚
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第18話 服選び

強くなるための一歩。

彼らの歩みは始まったばかりです。

……打ち切りみたいですね(しませんが)。

 龍聖にとって悪い意味で忘れられなくなった日から数日後――


「そろそろ、三人の服を新調したほうが良いと思う」

「えっと、急にどうしたの? 龍聖くん」


 龍聖のあまりにも急な発言に、美姫は戸惑いながら質問する。あまりに真剣そうなのでなおさら。


「決め手はこの前のポイズンフロッグ捕獲の時だ。あのとき美姫がサンダル以外の靴を履いてたら防げたことだったからな。そう言えばあれから靴は買ったか?」


 確認するように美姫に問う。服を新調しようと考えたのは、これが理由であった。


「い、一応スニーカーを」

「でも、今履いてないんじゃ意味ないぞ? 俺がもし今の格好の美姫と戦うなら、その丸出しのつま先を蹴って体勢崩して終わりだ」


 焦りがちに答えるが、さりげなく服装を見ていた彼の言う通り、まだ新しいスニーカーに慣れておらず、今は足に合っているサンダルを履いている。


 そして龍聖はつばぜり合いながら敵の脚を蹴る技量も当然持ち合わせていた。

 3人は気まずそうに目を逸らし、何も言えなくなってしまう。


「だから、新しい服を俺が3人に作って上げようと思ってさ」

「「「……ゑ?」」」


 思わず呆ける。当然だろう。服を「買う」ならまだしも、「作る」と言う言葉が出るとは思わなかったのだ。


「俺が新しい服を――」

「いや、聞こえてたよ。え? お前作れんの?」

「サイズさえ分かればな。実際俺が今着てる服も自分で作ったんだ」


 その通りである。そしてそれは彼の新たな魔法【クリエイトクロース】として登録されており、とんでもない性能を持つ服を作ることが出来る。

 具体的にすると、太陽のグレートソードで突かれようと穴が空かないどころか、繊維の一本すら傷付かないくらいだ。


「ボク、女としての自信を失いそうなんだけど……」

「私も同意見です、美姫先輩……」


 女性2人は、龍聖との女子力の差にどよ~んと落ち込んでしまう。龍聖は暗雲を浮かべ出した彼女達を、罪悪感を持ちつつ見なかったことにする。


「と、とにかく3人はこの紙に書かれてるサイズと、戦い方の項目を記入して俺に渡してくれ。どんな性能や形にするか変わって来るからな。あ、それとどんな服や靴が良いのかも、これから普段着を買うついでに見に行くから、その時に教えてくれ」

「オレの聞き間違いか? 靴って聞こえた気がしたんだが」

「ストップ! この話は終わりだ、解散!!」


 質問を遮る。珍しくこの話は続くとまずいと鈍感野郎は理解し、解散させたのだった。





 数時間後、龍聖の手元には身長や得意な戦法などの……本人達の名誉のためにこれ以上は控えるが、服と靴を作るのに必要な項目が記入された紙が3枚あった。


 服のサイズをその場でメモしろと言われるかもしれないが、そんなことをすれば太陽ならまだしも、女性である美姫と朱音の場合、即刻周りに変質者扱いされる。


 紙に一通り目を通すと、プライバシーをこれ以上侵害しないようすぐに【ストレージ】に仕舞った。




   ◇




 その後、彼らはこの国で一番大きい洋服店【オールコーデ】に向かう。


 名前をもう少し何とかしろ、などのツッコミは無粋だ。


 『あらゆるオシャレを当店で』が、この店のモットーであり、そのモットーは全く誇張ではない。服やソックス、靴や帽子などを他の店の比ではない程の種類が取り扱われているのだ。ちなみにソックス以外は、全て試着することも可能である。


「先輩先輩! これなんかどうですか?」


 と早速朱音が試着して見せて来たのは、前を開けて気崩し、黒のドレスシャツが見えるベージュのフロントジップパーカーに、藍色のミニスカートとスパッツ。


 そして赤いラインの入った黒のハイカットスニーカーと、スポーティーでありながら、しっかり女性特有に決められた装いだった。服の文化はここでもあまり変わらないらしい。


「うん。元気な雰囲気が出てて、良く似合ってるよ。少し余った袖も、君なりのキュートさを引き立ててる。やっぱり朱音ちゃんには暖色が似合う気がするな。ソックスも加えれば、更に良くなると思うぞ。1つだけじゃ足りないだろ? 色々身繕って見せてくれ」


 そう言って微笑みながら龍聖は朱音の頭を撫でる。


「……! はい、任せて下さい!」


 頭を撫でられたことが嬉しくて仕方がないようで、トレードマークのアホ毛が、風も吹いていないのに犬の尻尾の如くピコピコと揺れている。


 満面の笑顔で元の服に着替えると、次のコーディネートをトテトテ走りながら探しに奔走する。その様子を龍聖は微笑ましく思いながら見ていると、彼の脇腹に微かな痛みが走った。


「いてっ……美姫か。どうした?」


 痛みを感じた方向へ向くと、そこには不機嫌そうな美姫が龍聖の脇腹をつねっていた。理由は簡単。龍聖が朱音の頭を撫でているところをガッツリ目撃してしまったからである。


「……ボクのことも見てよ」


 龍聖を上目遣いで見上げながら頬を風船のように膨らませ、ボク怒ってますアピールをする。だがそれは傍から見れば、微笑ましい光景にしか見えない。


「おっと、ゴメンゴメン。……それで美姫はどんなのを見つけて来たんだ?」


 美姫に謝りながら聞くと、少し恥ずかしそうに試着室に入り、自分で持ってきた服に着替えるとカーテンを開ける。


「えっとね、これなんだ」


 見せて来たのは、大きな襟元の黄色いハーフコートに黒いデニムのショートパンツ、そして膝下くらいの長さのロングブーツだった。


 美姫は地球にいたときも似たようなコーディネートをしていたのだが、いざ想い人に見せるとなると恥ずかしいらしい。美姫の顔には、恥ずかしさと龍聖の感想に対する緊張が入り交じっている。


「おぉ、美姫らしいセクシーな感じでかわいいじゃないか。ハーフコートのまさに出来る大人の女性! って雰囲気が素敵だ。前に見せてくれた夏用のコーディネートみたいなのも、是非見せてくれないか? あの時の格好も良かった。期待して待ってる」


 どうやら緊張は杞憂だったようだ。龍聖は美姫のコーディネートを、混じり気のない笑顔で絶賛する。


 確かに客観的に見ても、肌の露出が一部のみ激しい、と言う部分が彼女特有の大人らしさと子供らしさが釣り合い、言葉に出来ない素晴らしさを演出している。


「えへへ……ありがとう。待っててね、すぐ戻るから」


 その笑顔に当てられた美姫も照れ笑いをしながら、それでいて嬉しそうにその場を去って行った。


 余談だがこの細やかな披露祭りは地球での出来事に由来する。


 朱音が学園祭で着た衣装を龍聖に似合っているか聞いたところ、先程のように軽い言葉なしで絶賛したために、彼のファッションチェックが学校の女子生徒のちょっとした恒例行事になっていたりする。


「……ん? 太陽はどこだ?」


 その顔にこちらも当てられていた龍聖だったが、周囲に太陽の姿が見当たらないことに気付く。美姫に気を取られているうちに、どこかへ行ってしまったようだ。


「……嫌な予感がするな」


 一方その頃太陽はと言うと、良くも悪くも予想通り目を離した隙に、適当にこれで良いかと何をトチ狂ったのか赤いロングレザーコートを選んで周囲をドン引きさせていた。いくら何でもセンスが壊滅的である。


 その後太陽がいないことに気付いた龍聖が騒ぎを聞きつけやって来て、赤のギンガムチェックのシャツと、ワインレッドの革ベストにジーンズ、そして黒いランニングシューズのコーディネートに無理矢理変更させた。珍しく妥当な判断であった。


「あんなもん適当で良いだろ?」

「あれは適当って言わない! 質の悪い嫌がらせって言うんだ太陽!」


 この瞬間、オーロラ並みのレア度を誇る、『龍聖と太陽の、ボケツッコミの立場が逆になっている瞬間』が発生した。明日は刀槍の雨でも降るのだろうか。いや降れ(願望)。


「……さて、俺も何か探してみるか」


 太陽のファッションチェックが一段落つくと、龍聖は1人呟いて自分の普段着を探しに向かった。と言っても探すのはモデルで、自分で作ったものを着るつもりである。




   ◇




 数10分後、龍聖以外の全員が試着室に集まっていた。


「龍聖くん、どこ行ったんだろ……? この時間この場所に待ち合わせだったはずなのに」

「迷子でしょうか……?」

「……」


 美姫と朱音が心配して辺りを見回している中、太陽だけはカーテンが閉まった試着室をガン見していた。


(これはあれだ、こっから龍聖がちゃっかり試着して出て来るな)


 彼の予測通り、試着室のカーテンがひとりでに開いて龍聖が姿を現した。女性2人は彼の着ている服を見ると、ポ~ッとした顔で見惚れてしまう。


 龍聖が試着していたのは、黒い長袖のロングシャツにチノパン。シンプル故にセンスが問われる服を、これ以上なく着こなしていた。


「どうだ? 似合ってるか?」

「「……」」

「おぅ、まあ似合ってんじゃね?」


 美姫と朱音は見惚れていて答えられず、太陽が適当に返事をする。


「服のセンスが壊滅的なお前が言っても、説得力は皆無だ」

「女になる薬を注文するぞ」

「止めろッ! それだけは止めろォッ!!」


 効果抜群な脅迫に耳を塞ぐ。よっぽどトラウマになってしまったらしい。


 その後も様々な服を見て回ったりしたのだが、最終的に美姫と朱音は、戦闘用の衣類は最初に披露し、絶賛された物を作ってもらう衣類として選んだ。


 それ以外の物は遠慮したが、積極的に様々なギルドの依頼を達成して懐が潤っていた龍聖が、無理やり自腹で会計を済ませると言う暴挙に。


「本当に、大丈夫なの?」

「そこまで無理しなくても……」

「いや、大丈夫さ。このままじゃ腐らせるだけだったし」


 鈍感で太っ腹。もう訳が分からない。リーフはそうこぼしたとか。


 そして夜の帳が落ちた宿の中で、脳内に鮮明に焼き付けておいた最初の服の記憶を頼りに、瓜二つの絵を市販の画用紙に描いていく。そして魔力を放出し、【ストレージ】から靴の材料とする魔物の素材を少量出した。


「さあ、裁縫の始まりだ!!」


 一方今宵も、遠隔操作で太陽の胃痛は絶好調だった。


「食い過ぎたか……? やっべ腹痛ぇ……」

幼馴染の勘の良さ。

ここではデメリットもあります。アニメキャラのくしゃみのように。

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