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聖縁剣  作者: フジスケ
第2章 勇者召喚
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第16話 依頼 毒蛙の捕獲

今回はある存在を知ってもらうための回です。そのためかなり短いです。ご了承ください。

 冒険者ギルドにて、ひと悶着あった翌日。龍聖はアスラトニアから、東に4キロ進んだ場所にある沼に向かっていた。


 彼がここに何故ここにいるのかは、上のタイトルを確認してほしい。ぶっちゃけると書くのがめんど(殴……付け加えると、勇者3人組も彼に続いている。せっかくだから一緒に来るか? と龍聖が誘ったのである。


 それに朱音と美姫は即答で「是非!」と答えた。2人はカエルは平気で、むしろ好きな部類であった。何でもつぶらな瞳が可愛いのだそうだ。


 ちなみに太陽はカエルになど興味はなく、龍聖の戦い方を今後の参考にすると言う理由で付いて行くことを決めていたりする。片鱗でも構わないから、技を盗んで見せる。そんな意気込みを見せていた。




   ◇




「んふふ……♪」

「えへへっ……♪」


 美姫と朱音はどこか嬉しそうだ。前者は自身のツインテールを指でクルクルと弄り、後者はアホ毛を犬の尻尾のように、左右へピコピコ揺らしている。龍聖は嬉しそうな2人の方へ振り向くと、


「ん? 二人とも何か良いことでもあったのか?」


 と、2人に尋ねる。


「うん! とても良いことがあったよ!」

「はい! もちろんです!」


 それぞれが満面の笑みで答える。内容は無論、想い人である龍聖から、依頼の付き添いに誘われたことである。恥ずかしいので本人には絶対に言えないが。


「そうか、それはよかった。その話を聞かせてくれないか? 丁度暇してたんだ」


 しかしそんな2人の心情に気付かず、笑顔で爆弾が投下された。この無自覚な恋のテロリストのお手並みは、今日も絶好調な鮮やかさである。


「ふぇっ!? あ、え、そ……それは……」

「あうぅ……」


 案の定同時に顔を真っ赤にし、ボフッと音を立てて頭から湯気を出す。誤魔化すように指を絡めてもじもじする美姫と、両頬に手を当ててプルプル震える朱音。当然、問い掛けに答えることは出来ない。


「? どうしたんだ? 顔が赤いぞ」

「にゃ、にゃんでもにゃいよ!?」

「そ、そうでしゅ! 私達は大丈夫でしゅ!!」


 慌てて舌足らずな言葉で否定する。大丈夫にはとても見えない。手をわたわたと振り、首は横にブンブンブン!!


「ぜ、全然大丈夫じゃなさそうだけど……?」

「大丈夫なの!(なんです!)」


 2人は真っ赤な顔で詰め寄って断言する。2人の顔には、お願いだからそれ以上追及しないで下さい、と言う嘆願が滲み出ていた。


「そ、そうか……まあ無理はしないでくれよ?」

((ほっ……))

(じれってぇな……。さっさとどっちか龍聖に告っちまえば良いのに……)


 2人の迫力に少し気圧された龍聖はこの話を切り上げ、それに恋する乙女達はほっと一息つき、苦笑いしながらその光景を見ている太陽。


 しかしそんなことは知る由もない龍聖はあまりに2人が必死なので、まあ大丈夫なんだろうと再び歩き出し、3人もそれに続いた。




   ◇




 それから沼の周辺を歩いて2時間は経ったが、ポイズンフロッグは1匹も姿を現さない。時折小さい虫やトカゲを見る程度である。


「いませんねぇ、ポイズンフロッグ」

「この沼はかなり深いらしいからな。沼の底に潜っているのかもしれ――」

「ひゃあっ!?」


 朱音と龍聖が話をしていると、最後尾にいる美姫が短い悲鳴を上げる。龍聖と太陽はその声に反応し、美姫のいる方向へと振り向く。


「ん? どうした、美姫?」

「でかい虫でも見たのか?」


 龍聖と太陽の質問に、美姫は軽く身震いしながら、悲鳴の理由を説明した。


「な、何かヌメッとした物がボクの右足の甲に……」

「「え?」」


 そう言われて周辺を見てみると、地面に同化していて分かりにくいが、太めで茶色く長い何かがある。


 龍聖は事前にギルドで見せてもらった図鑑の内容を思い出し、顔を青ざめさせた。


「!! 美姫! すぐにそこから離れろ! それはポイズンフロッグの舌だ!」

「えっ!? わ、わか……あれ?」


 その言葉を聞いて、美姫は距離を取ろうとするが、足に力が入らずその場に崩れ落ち、左腕を下にして横向きに倒れてしまう。立ち上がろうとするも、手にも上手く力が入らない。


 ポイズンフロッグの舌の粘液に含まれる、麻痺毒の効果である。本来は麻痺毒を気化させた物を獲物に吸引させ、動けなくした後に丸呑みにするのだが、実は体表に触れさせるだけでも効果を発揮する。


 しかしそれは図鑑にすら載らないようなあまり知られていない情報だったために、美姫にサンダル以外の靴を履かせると言う対策が出来なかったのである。


 その件のポイズンフロッグは、自身の口に引き寄せている時に舌が外れないようにするために、徐々に美姫の右脚にその舌を絡み付かせ、ズボンの中に潜り込ませていく。


「ひぁっ……龍聖くん……たすけ、んぅ……ひゃん! これ、すごくヌメヌメしてて……ふぁっ……やっ……き、気持ち悪い……よぉ……!」


 会話は出来るが体はほとんど動かせず、抵抗が出来ない。今の彼女が出来ることと言えば、嬌声を上げながら助けを求めることくらいだ。


「龍聖! 中宮のことはオレに任せろ!」

「頼む! ……くそ! 5メートル以内には気配がなかったから大丈夫だと思ってたのに! 特異個体か!?」


 龍聖は気配には敏感だが、種類は分からない。したがってしらみ潰しに探すしか方法がなく、そして普通種の舌の長さは約2メートルなので安心しきっていたのだ。


 太陽は何も出来ない自分への悔しさを押し殺して朱音の安全確保を受け持ち、朱音は、美姫も巻き込んでしまう自分の魔法の腕に歯噛みしている。


――――――――――――――――――――――――

リーフの豆知識 特異個体とは?


 ごく稀に生まれることがあり、それらは必ず通常種よりも発達している部分が存在する。

 今回は体の一部、つまり舌が長くなるパターンだったのだろう。


――――――――――――――――――――――――


 龍聖はすぐさま美姫の倒れている場所にたどり着くと、未だに絡み付いている舌を美姫の脚から引き剥がす。


「水よ包め」


 龍聖は自分の手と美姫の右脚に付いていた粘液を簡単な水魔法で全て洗い流すと、まだ動くことが出来ない美姫の背中と膝の裏に両腕を入れて抱き上げる。所謂お姫様抱っこだ。


「えぇっ!? り、龍聖くん!?」

「急いで遮蔽物がないところに向かうぞ! そこならあいつは姿を隠さずに真っ向勝負せざるを得なくなる!」


 龍聖は美姫の驚きの声を無視し、草木が生えていない場所へと急ぐ。太陽も朱音をおんぶして何とかそれに続く。

 そんな中、美姫はと言うと……


(ボク……龍聖くんにお姫様抱っこされてるんだ……)


 呑気なことを考えていた。龍聖が目の前にいるからだろうか。ミノタウロスの時と比べると、恐怖が圧倒的に少ない。ちなみに朱音も……


(羨ましいなぁ……龍聖先輩のお姫様抱っこ……)

(……すっげぇ桃色の空気が背中に伝わってくる)


 と、同じく呑気なことを考え、前を走る龍聖を見つめていた。太陽は朱音の心情を察し、何とも微妙な表情を浮かべる。


 数分もしないうちに龍聖達は遮蔽物のない広い場所へと抜け、そこに美姫を寝かせて魔法を唱え始める。


「滝山美姫に仇なす者よ、この淡き光によってその役割を終えよ。【ピュリフィケーション】」


 魔法が発動すると身体が光に包まれ、徐々に感覚が戻っていく。光が止むと、美姫はゆっくりと立ち上がった。


「……ごめんね、龍聖くん」


 美姫は龍聖の足を引っ張ったことを謝罪する。その目には迷惑をかけたことによる申し訳なさ、そして悔しさが映っている。


「謝るのはこっちだ。俺だって気が付かなかったし、未然に防げなかった。……ごめん美姫。俺はあいつを袋叩きにしてくるから、太陽達と一緒に安全なところで待っててくれ。心配するな、殺しはしない」


 龍聖は知人に手を出したことによる怒気を滲み出しながら、返事を待たずに今通って来た道を戻って行った。


 太陽と朱音が美姫と合流すると、三人は安全なところから龍聖を見る。そこには……


「食らえやぁぁぁぁぁああああ!!」


 鬼の形相をした龍聖が飛んで来る舌を右手で掴み、思い切り引いて全長約160センチの草木に紛れやすい色をしたカエル、ポイズンフロッグの特異個体を引っ張り出すと、抜き放った極彩丸の峰で既にボロボロになっている顔を殴り続ける光景があった。


 特異ポイズンフロッグも負けじと麻痺毒のある舌を龍聖へ伸ばしているが、全て刀でいなされて検討違いの方向へ、だが三人のいる場所ではない方向へ飛んでいく。


「怪我をさせてないから、少しは手加減してやるよ……!」


 龍聖は距離を取って舌を引っ張った右手を魔法で洗うと、体に力を溜め始める。


 特異ポイズンフロッグはそれを好機と見たのか、舌は通用しないため使わずに、体勢を低くすると物凄いスピードで突進してくる。


 だが、戦闘に関しては龍聖の方が圧倒的に上手だった。


「吹き飛べぇッ!!」


 右手に逆手で持った鞘を振り上げる。


 それが特異ポイズンフロッグの顎に命中し、前足が高く持ち上がる高さまで仰け反らせると、左手の極彩丸でがら空きの腹に突進し、回転しながら袈裟斬りの後に強力な斬り上げを放った。


 技能【荒鷲乱舞】である。


 特異ポイズンフロッグは、数メートル吹き飛んで周りの木々を薙ぎ倒し、一際大きい大木に激突すると即意識を失った。峰打ちなので生きてはいるが、腹部には峰で殴られたことで出来た、斜め十字型の痛々しい痣がくっきり残っている。


「……相手が悪かったな」


 残心を解き、刀を1回転させてから鞘に。そしてその一言だけを呟く。その背中は正に夜叉、鬼神を彷彿とさせる佇まい。


「す、すげぇ……」


 その光景を見ていた太陽は、その言葉しか発することが出来ず、美姫と朱音に至っては、声すらまともに発することも出来なかった。














 これは余談になるが、これがきっかけで美姫はほんの少しカエルが苦手になった。

この世界には、様々な魔物が住んでいます。もしかすると、あなた達の嫌いなアレが出てくるかもしれません。

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