表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖縁剣  作者: フジスケ
第2章 勇者召喚
16/146

第15話 救い

最初に言っておきます。

私はブルーな締めくくりは大嫌いです(聖母の微笑み)

 謎の人物はミノタウロスの討伐証明部位どころか、遺体にすら手を付けずに去っていった。太陽達は一応討伐証明部位である角を吹き飛ばされていた首から剥ぎ取り、重い足取りでダンジョンを後にしていた。


「……それにしても、あの人は何者なんでしょうね? タイヨウさん」


 アスラトニアに帰る途中、ルジートは自分が望む答えは来ないことは理解してはいたが、聞かずにはいられず太陽に問う。


「……分かんないです。全く」


 太陽は沈んだ声で答えた。当然だ。同級生の1人すら、件の仮面の人物がいなければ助けることが出来なかったのだから。


 その殺されかけた同級生である美姫は、死の恐怖に今も青い顔で震えている。そして朱音は美姫がこんな風になってしまったのはあの時、自分が動かなかったせいだ、とひたすら自己嫌悪を続けている。


 程度こそ違うが、全員が精神をこれ以上なく磨耗していた。


「……とりあえず、ミノタウロスの討伐証明部位を冒険者ギルドに渡して、今日はゆっくり休みましょう」


 辛そうな顔で言うのはルジートだ。彼もまた自分達が無理矢理呼び出した少年達の沈んだ顔を見て、心が罪悪感で満たされているのだろう。


 その言葉を最後に、一同は足を進めはしたが、全く言葉を発しなくなってしまった。




   ◇




 それからしばらく経過し、一同はアスラトニアに到着した。城下町は民の喧騒で賑わっていたが、一同の心は暗く淀んだままだ。


「……滝山、大丈夫か?」

「…………」


 美姫は答えない。心への負担が一際大きかったのは彼女だ。何しろなす術もなく殺され掛けたのだ。声が届かない程に心を磨耗してしまっている。


 太陽はその様子を見て歯噛みする。今の彼女を励ませるのはただ一人の男だけ。三日月龍聖だけだと改めて思い知らされたからだ。


(こんな時、アイツがいてくれたらな……)


 太陽はここにいない幼馴染みに、ただ思いを馳せることしか出来なかった。彼も少なからず心が弱っていたのだろう。


 気が付くと一同は、冒険者ギルドにたどり着いていた。ルジートがゆっくりとドアの取っ手に手を掛けようとすると、ドアの向こうから若い男性の声が近付いてくる。


「「「……え?」」」


 3人は驚く。ドア越しに聞こえてくる声が、本来いるはずのない彼に酷似していたからだ。


 声を上げた三人をルジートはどうしたのかと心配そうに見つめていると、冒険者ギルドのドアが内側から開かれる。


「それじゃあやっと冒険者登録が終わったので、早速ポイズンフロッグの1体捕獲、行ってきま………え?」


 そこには偶然か必然か、羽織った緑色のジャケットをたなびかせた、ボサボサの茶髪で黒い瞳を持ち、常に明るい笑顔を絶やさない男――






















 ――三日月龍聖が、そこにいたのである。


「えっと……え? ど、どうしたんだ皆。随分ボロボロだけど」


 少年、三日月龍聖は彼らがこの世界にいることに戸惑いながらも問い掛ける。


 本当に予想外だった。ここに来ているのは、自分だけだと思っていたから。


「「「……」」」

「……3人のお知り合いですか?」


 3人は何も言わずに呆然としていて会話出来る状況ではなく、代わりにルジートが怪訝そうに龍聖に尋ねる。


「え?あぁ、はい。そうです。三日月……いや、こっちではリュウセイ・ミカヅキって名乗った方が良いでしょうか?」

「「……」」


 その発言に、美姫と朱音はヨロヨロと龍聖の方に歩いて行く。


「あれ、美姫? 朱音ちゃん? 大丈夫か?」


 龍聖は急にヨロヨロと歩み寄って来た2人に、心配しつつ顔を向ける。


「「本当に……?」」

「ん?」

「本当に……龍聖くんなの……?」

「そっくりさんじゃないですよね……?」

「2人が俺をどんな奴だと思ってるかは分からないけど、俺は正真正銘三日月龍聖だぞ」


2人は龍聖がここにいることが信じられず、ついそんな質問をしてしまう。


 それに対し龍聖は胸を張り、自信を持ってそう答える。紛れもなく、自分は三日月龍聖なのだから。


「本当に……本当だよね?(ですよね?)」


 もう一度同じことを尋ねる。彼がこの世界にいるのが余程信じられないのだろう。


 彼は勇者召喚の際にいなかった。他にこの世界に来る術を知らない彼女達に、他人のそら似だと思われても不思議ではない。


「……もしかして2人とも俺の顔を忘れちゃったのか? 確か俺が美姫と初めて会ったのはジョギング中にファンから匿った時で、朱音ちゃんとは満員の駅のホームでだったはずだけど……」


 彼女達の龍聖との出会いは正にその通りだった。ちなみにこの世界にはそもそも駅が存在しない。


 馬車も借用所はあるが、バスのように乗客を運ぶサービスがない。馬車その物が貴重で数が少なく、需要と供給が追い付かないためである。


「「……うぅっ」」


 その返答に彼が間違いなく自分の最愛の人、三日月龍聖だと確信し、顔を歪めると両目から、ポロポロと涙を止めどなく流し出す。


「!? どうして泣くんだ!?」


 慌てる龍聖の質問に答える者はおらず、答えの代わりに――





















「「うわぁぁぁぁぁあああああん!!!!!」」

「え!? ちょちょちょちょっと!? ほ、本当にいきなりどうしたんだ!?」


 号泣しながら龍聖に抱きついた。想定から並み外れた行動に反応出来ず、彼はそのまま尻餅をついてしまう。


「りゅうぜいぜんぱい!! りゅうぜいぜんぱいぃぃぃぃぃいいいいいいい!!!」

「ごわがった、ごわがったよぉぉぉぉぉおおおお!!!」


 もう会えないと思っていた想い人に会えたことへの嬉しさと安心から、龍聖の言葉も聞かずにわんわん泣きながら抱き締める力を強める。


「ちょ、太陽! 助けてくれ!!」

「悪いけどムリ。そのままそいつらが落ち着くまで耐えろ」


 近くにいた太陽に助けを求めるが、ニヤニヤ笑いながら拒否された。以前にこのような騒ぎを止めようとして、酷いとばっちりを受けたことがあるからだ(具体的には鼻フックに加え、パロスペシャルを食らったりした)。


「オイコラ太陽! 幼馴染みを見捨てる気か……ってちょっと2人とも落ち着いて! 俺達今めっちゃ見られてるから! ここギルドの出入り口のど真ん中だから! ど真ん中だからさぁぁぁあああああ!?」

「うわぁぁぁん、龍聖先輩ぃぃぃいい!」

「龍聖くぅぅぅぅうううん!!」


 龍聖の叫びも空しく、2人はしばらく大声で泣き続けた。落ち着いたのは20分程は経った後であった。




   ◇




「……落ち着いたみたいだな。じゃあ、俺は捕獲依頼に――」


 泣き止むのを見届けると、ポイズンフロッグの捕獲へ向かおうとする龍聖。――だが、出来なかった。


「「……」」


 顔を俯かせた美姫と朱音にジャケットの両袖を掴まれてしまったからだ。


「……えっと、2人共?」

「「……」」


 2人は顔を上げ、悲痛そうに瞳をウルウルさせながら上目遣いで龍聖を見る。言葉にはしないが、「今はボク(私)達から離れないで」と切実に訴えてかけていた。


「う~ん、弱ったなぁ……」


 龍聖は自分のジャケットを離さず悲しそうな顔をしている2人に困っていると、受付嬢達からは明日でも大丈夫ですよ、と言う言葉や少しぐらいはその子達と一緒にいてあげなさい、とニヤニヤされながら少しお叱りを受けた。


 その言葉を聞くと、龍聖は受付嬢の人達に謝罪を入れてから、ポイズンフロッグの捕獲を明日へ持ち越すことにした。




   ◇




 そして現在は、レトロな木造建築の冒険者ギルドの端にある、酒場のテーブルの椅子に座って太陽からこれまでのことを聞いている。


 ルジートは知り合い同士で積もる話もあるだろうと、ミノタウロスの討伐証明部位を渡すと騎士の駐屯所へと帰って行った。


「……なるほど、そんなことがあったのか。……それは災難だったな。仮面の人物も謎だが、それよりもそのミノタウロスがもうこの世にいないのが救いか」


 龍聖はクラスメイトが死に掛けた時に一緒にいられなかったことへの自責と、その下手人であるミノタウロスに対する怒りを露にする。


 この瞬間、太陽達はあの仮面の人物は龍聖ではないことを確信した。何故ならミノタウロスを倒したのは他でもない仮面の人物だ。彼が正体ならば、少しくらいは溜飲が下がっているはずだ。


「あぁ……つ、つーかそれよりもオレ達からすれば、お前がこの世界にいたことの方が驚きなんだが……」

「おっと、つい殺気が。まぁそれに関しては3人と同じように気付いたらここにいた、としか」


 太陽は龍聖が放ち出した殺気に体を震わせながら、露骨に話題を変える。それに気付いた彼は出した話題に反応して殺気を霧散させる。


「そういや、お前がアスラトニアに来る前のことを聞いてなかったな。聞かせてくれよ」


 太陽は興味津々と言った風に頼んでくる。あの龍聖だ。さぞ波乱な幕開けだったのだと太陽は確信する。


 どんなはっちゃけ方をしたのか、普段は頭痛の種でしかないが今はワクワクして仕方がない。


「了解。全部思い出せるかは分からないけど、まずは、俺は気がつくと樹海にいてな――」

《まだ私のこと、ゴブリンキングのこと、極彩丸のことは話すなよ、悪いが私は人を信用するのに時間がかかるタイプだし、後ろ二つは大事になるからな》


 リーフから、話してはいけないことを強調する念話が飛んでくる。龍聖は3人への話を止めずに発信主に念話を飛ばす。何気に高度な技術である。


〈……難儀な性格だな。作者に使いづらいとか言われても知らないぞ?〉

《いい加減やめてくれないか、そう言う裏話は》

〈へいへい〉


 その会話を最後に念話は切断され、龍聖は興味津々な3人へ、自分の話をすることに専念した。


念話で言われた通り、リーフとゴブリンキング、そして極彩丸のことは言ってはいけないとなると、言えることがサニエ村での出来事のみとなってしまった。


 村を襲ってきた悪魔や蜘蛛のこと、復旧作業のことを話し、だがある村娘との夜の浜辺での出来事を話した瞬間、朱音と美姫から両腕に抱きつかれながら非難がましい目で見つめられてしまった。龍聖は何故怒っているのか分からず理由を尋ねると――


「……ふんっ」

「知りません!」


 むくれてそっぽを向かれた。だが決して身体は龍聖の腕から離さない。太陽はニヤニヤしながらこっちを見ていて、止める気配がない。


「お~お~、オレ達がいるのに良くそんなにこの場の空気を変えられるな」


 太陽はニヤニヤ顔をやめずに発言する。太陽の発言に自分達のしていたことに気付いて2人は顔を赤くするが、その腕を龍聖から離すのが名残惜しいらしく、離れようかそのままでいようかとモゾモゾしながら葛藤する。


「おい太陽、美姫と朱音ちゃんは空気清浄機じゃないんだ。家電扱いは止めてあげてくれ」

「お前はそろそろその鈍感を治せ……」

「?」


 龍聖の頓珍漢な発言に太陽はげんなりし、美姫と朱音も少し沈んだ顔になる。言った本人は例の如く全く理解していない。


「あ、聞き忘れてたけどお前ってレベルはいくつだ? オレは45だ」


 数秒後、ここから深堀りは逆効果と思い出した演技をしながら質問する。美姫と朱音の騒動で、落ち着いて話が出来なかったからだ。


「俺か? 確か116だったよ」


 間髪入れずに物凄い数字が聞こえ、ギルドの空気が一瞬で凍った。騒がしかった喧騒も途端に静寂へと変わる。


「……ゑ? 聞き間違いかもしんない。もっかい言って?」


 龍聖の言っていることが信じられず、思わず耳を小指でほじった後にもう一度聞いてしまう。


「聞き間違いなんかじゃないぞ。俺のレベルは116なんだ」

「「「「「「「……えぇっ!?」」」」」」」


 太陽達以外の冒険者集団も含め、周囲の反応は様々だった。


「ちょ、おま、マジか!?」


 太陽のように驚愕する者。


「すごいです!! 龍聖先輩って今そんなに強いんですか!?」


 朱音のように尊敬する者。


「わ、悪いけどステータスを見せてもらってもいいかな?」

「あぁ、構わないぞ」


 美姫のように半信半疑の者もいた。

 龍聖は前方に手をかざし、ステータスだけを他人に見えるように表示する。




―――――――――――――――――――――――


リュウセイ ミカヅキ

Lv116


HP

53200/53200


MP

39600/39600


攻撃力 S 15491


物理耐久 A 11546


魔法攻撃力 B 9685


魔法耐久 A 10327


敏捷 S 16484


状態異常耐久 B 8540


―――――――――――――――――――――――




「うわ~……マジだよ」

「俺コイツに弟子入りしようかな……」

「こんな数値、初めてみたわ……」


 辺りは当然ながら、龍聖の抜きん出たステータスでてんやわんやになる。太陽は半目になりつつ、龍聖の方を向いた。


「……お前、どんだけ実力を隠してたんだ」

「ん~と、大体70%くらいだな」

「……」


 その言葉に遠い目になり、何も言えなくなる。龍聖の底力を自分はほんの一部しか知らなかったと、改めて気付かされたのだ。


「うわ~……ほんとにすごいね龍聖くん。どうやってここまで強くなったの?」


 驚きながら聞いてくるのは美姫だ。彼の自宅での話を聞いてはいたが、まさかここまでとは考えていなかったのである。


「剣道7段の父さんと木刀で散々打ち合って、許可を得ているマシンガンから発射される、大量のゴム弾を全て避けたり弾いたりしてたからじゃないかな?」


 漠然としていたがぶっ飛んでもいる答えが返され、美姫は唖然とする。


「ぼ、木刀はまだ知ってるけどマ、マシンガン?」

「父さん曰く、護身用の技だってさ」

「いやいや、護身用にしては度が過ぎてるだろそれ!! どこにマシンガンの銃弾を避けたり弾けるようになる護身用の鍛練があるんだ!?」


 龍聖の発言に太陽は、椅子を倒す勢いで立ち上がる。


「俺の家にあるぞ」

「揚げ足をとるな!! え、何? つまりお前は銃弾を避けられる動体視力と身体能力を持ち合わせてるってことか!?」


 龍聖を指差しながら、先程よりも絶叫に近いツッコミ。翌日の喉が心配される勢いである。


「そう言うことになるかな。でも父さんには『いずれ俺を越えるだろう』とも言われた」

「えっ!? 今以上に強くなんの!?」

「言われちゃったからには、そうなるんじゃないか?」

「あぁもう昔からお前は楽観的すぎだ!!」


 どこまでも楽観的な龍聖と常識人の太陽が、周りの空気をぶち壊す。まさに『漫才』と呼べる物だ。


(ありがとうございます、龍聖先輩のお父さん……あなたのおかげで私は今もここにいます……)


 そのやりとりを聞いていた朱音は、龍聖の父親に心の中で感謝した。彼の鍛練がなければ、朱音は地球で電車に轢かれて、そのまま死んでいたかもしれなかったのだから。


 しかしそれから数時間後、龍聖はステータスが本物であることを示すため、とんでもないことをやらかしたのであった。


 【ストーンアロー】の形状を変え、鋭いノコギリ状の刃を持ったナイフを作ると、サニエ村でもらったリンゴに突き刺して切れ味を周りに確認させたかと思えば、いきなり自分の右腕に振り下ろしたのだ。


 ナイフは服すら傷付けることなく根元から砕け散ってしまったが、周囲を恐怖のどん底に落とし入れたのは言うまでもない。

今日はキリが良いのでここまでです。

次回からはストックとの相談で投稿ペースが上下すると思うので、1部分の場合もあれば一気に3部分投稿する場合があります。

大変申し訳ありませんが、皆様のご理解、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ