第11話 異世界
~太陽side~
気が付くと、王宮にあるような高級なカーペットの上に座っていた。周りを見渡すとすぐに中宮と滝山を見つけた。オレと同じように、呆然としながら座っている。
オレ達がいたのは寂れた公園だったはずなのに、今は呆然としながら明らかに高級そうな建造物内の床に座っていることに理解が追い付かない。
そこへ何かのコスプレだろうか、高そうなドレスを着た女の人が近付いてくる。
「お待ちしておりました、勇者様方」
コスプレさん(確定)が話しかけてくる。
「なにこれ? 新手のコスプレイベントですか?」
一応敬語で話しておく。親しき仲にも礼儀ありだからな。他人だけど。
「こ、こすぷれ? とは何でしょうか……?」
「え?」
「え?」
予想だにしない返答に、会話のドッジボールをしてしまう。
「えっと、何かの祭りの勧誘ですか?」
イベントの意味が分からなかったんだろう。祭りと言い方を変えて質問してみる。
「いえ、お祭りごとのお誘いではないんです……」
「え? じゃあ何で?」
尋ねると、王女様は口を少々もにゅもにゅさせてから、なにかの覚悟を決めたような顔つきになり口を開いた。
「……実は勇者様達には、魔物を倒してこの世界を救って頂きたいのです」
「おぉ、すげぇ演技力だ」
拍手をする。一応こっちなりの最大限の称賛だったのだが――
「おい、貴様!! ふざけるのも大概にしろ!!」
王女様の後ろにいた騎士さんが凄い剣幕で怒鳴り、剣を向けてくる。それは明らかに演技ではないし、剣も偽物には見えない。紛れもない刃の付いた本物だろう。
「うおぉ!?」
「待て」
オレが驚きの声を上げ、滝山と中宮も肩をビクッと震わせるのと同時に、威厳のある声が響く。
「王様! しかしこやつは不敬にも程が――」
「――ろくに自己紹介はおろか事情説明もしておらぬのに、ふざけるなとは何事だ?」
「うっ……」
玉座に座っている人が、恐らく王様なんだろう。青い顔をして調子は悪そうだが、その迫力は消えていない。騎士は王様の迫力にばつの悪そうな顔をして下がって行く。
「そなた達にも部下が迷惑をかけた。無礼を詫びよう」
王様はオレ達に頭を下げてくる。
「いや、あの、オレは気にしてませんので」
「……気遣い、感謝する。早速で悪いが本題に入ってもよいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
そう言うと、王は頭を上げながら聞いてくて、戸惑いながらも返事をする。
「では、失礼して。私はアスラトニア国王、メルト・アスラトニア。そなた達を我ら王家に代々伝わる勇者召喚の魔法によって召喚した者だ」
「えっと、私達に魔物を倒してほしいとか言ってたことは本当ですか?」
王様が名乗った直後の中宮の質問に、王様は苦虫を噛み潰した顔をしながら肯定する。
「…………あぁ、その通りだ。我らの自分勝手で連れて来て早々申し訳ないが、そなた達にはこの世界のために魔物と戦ってもらいたい」
「そんな……無理ですよ! ボクたちには戦ったことなんて一度もないのに!」
隣を見ると、滝山が不安に押し潰されそうな顔で発言していた。それに関してはオレも同意見だった。殴り合いのケンカをしたことはあっても、武器を振るって戦ったことなどオレにもない。
「無茶を言っているのは承知だ。我々も罪悪感で押し潰されそうだ。だが、悔しいが他に打つ手がない。そなた達は勇者の適正があるからこそ呼ばれたのだ。心の中でステータスと念じてみてくれ。そうすれば分かる」
王様の声色から本当に悔しく思っていることが伝わってくる。この時オレは心の中でこの王様に協力することを決めた。
(ステータス……)
心の中で念じると、目の前に半透明のパネルが現れる。
「うわっ、本当に出た……」
思わず驚いて声を出す。2人も目を見開いて驚いている。あちらにしか見えないステータスが表示されているだろう。これがオレ達のステータスだ。2人のステータスは本人の同意の下、教えてもらった。
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タイヨウ サキノ
男
Lv40
HP
5878/5878
MP
217/217
攻撃力 C 6402
物理耐久 D 3006
魔法攻撃力 E 157
魔法耐久 E 2495
敏捷 D 3411
状態異常耐久 E 361
魔法
〈何も覚えていない〉
技能
・ツッコミ
この技能を使うと、どんな状況であっても対象の力を抜くことが出来る。力を貯めて大技を放とうとする敵に有効。
称号
勇者
ツッコミ役
弄られキャラ
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アカネ ナカミヤ
女
Lv31
HP
2586/2586
MP
2243/2243
攻撃力 E 220
物理耐久 E 1085
魔法攻撃力 C 6526
魔法耐久 C 6010
敏捷 E 437
状態異常耐久 E 144
魔法
〈まだ何も覚えていない〉
技能
・ボケ
どんな状態であっても敵の注意をこちらへ向けさせる。味方が大技を放つための時間稼ぎに有効。
称号
勇者
恋する乙女
ブラウンハニー
―――――――――――――――――――――――
ミキ タキヤマ
女
Lv35
攻撃力 D 3525
物理耐久 D 3134
魔法攻撃力 E 2950
魔法耐久 E 2447
敏捷 C 6481
状態異常耐久 E 520
魔法
〈まだ何も覚えていない〉
技能
・オフェンスソング
味方全体の士気を上げる歌を歌う。
攻撃力+それぞれの攻撃力÷10
魔力+それぞれの魔力÷10
称号
勇者
サワースウィート
恋する乙女
―――――――――――――――――――――――
「へー、便利だな」
オレも皆も技能と称号の欄は何も見なかった。OK?
「確認出来たようだな?」
「あ、はい。一応は」
王様の確認する声に滝山が戸惑いがちに肯定し、それに中宮も頷く。何が何やら分からないと言う顔をしているが、恐らくオレも似たり寄ったりな顔をしているだろう。
「よし、今日はいろいろあって疲れたろう。明日の鍛練に備えてゆっくり休んでくれ」
王様はそう言い残すと、ヨロヨロと玉座を去っていった。オレ達は多くの予想外の出来事に、呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。
異世界と言っていたが……元の場所に、帰れるのだろうか。胸中に浮かぶのは、それだけだった。
◇
~三人称side~
太陽達は見たこともない豪華な夕食を食べ終えて風呂も済ませたが、今日はいろいろと濃すぎて、ろくにリラックスすらも出来なかった。
明日に備え、案内された部屋で太陽が寝ようとした時、外側からドアがノックされる。
「咲野くん、いる? ボクだよ」
ドア越しに聞こえるのは美姫の声だ。その言葉には不安が入り雑じっている。
「滝山か。開いてるぞ」
返事をすると、ドアの隙間から声と同じような不安そうな顔が現れた。いつものツインテールを今は下ろして、腰まで伸びたストレートヘアになっている。
「……龍聖にまた会えるか、考えてんだな」
「うん……全員生き残ることはまずあり得ないし、何より地球に帰れる保証もないしね……送還の魔法陣も、今は失われてるって話だし」
美姫の顔はどんより曇ったままだ。これから先のことが何一つ分からないのだ。不安になるのは当然である。実際に太陽もそうだ。顔には出さないが負けず劣らず不安に押し潰されそうになっている。
朱音は2人以上に情緒不安定になっていたので、この会話をする前に2人がかりで何とか寝かせている。
「……まあ、安心しな。あの規格外のことだ。もしかしたらこの世界に既にやって来てたりしてな。そして、易々と帰れる手段を作る」
「あはは、そんなまさか」
太陽達は龍聖と一緒にいる時間が長いので、彼のオーバースペックをほんの一部だが知っている。
あと、これだけは言わせてもらおう。
大 当 た り で あ る 。
その後、太陽との話で少しは元気が出たのか、美姫はお礼を言うと自分に割り当てられた部屋へ戻った。
太陽も美姫との話で緊張が取れたのか、ベッドに入って数分後には寝息を立てていた。
◇
一方その頃龍聖は……
「……ぶぇっくしょんっ!!」
『ぬぉ!? 私を着けている左手で押さえるな! 飛沫が付くだろう!』
「あぁごめん。なんか鼻が急にむずむずしてな」
『風邪か? 健康には気を付けろ』
「あぁ、そうするよ」
大音量のくしゃみをしていた。
読んでいただきありがとうございます。
さて、4人が揃うのはいつ頃になるのでしょう(ニヤリ)。