第1話 集え、魔法少女に憧れる真の漢達よ!
一話コンにだした一話だけのお話です
桜舞い散る桃色の並木道。
ひらりと舞う花びらのように、ボクの心は軽やかだ。
桜の木々に囲まれたこの一本道。
皆が進むその先には、ボクらの夢の学び舎が待っている。
――国立魔法少女育成高等学校 男子部。
近年日本の将来を揺るがす国家問題として、少子高齢化が叫ばれていた。
数々の問題解決案を模索するも、どれも解決へと至らなかった。
そこで提案されたのが、魔法少女化法案である。
子供がいないなら、子供になればいい。
老人が多ければ、子供になればいい。
一人で男にも女にもなれれば、子供が増えるに違いない。
隣人を愛せよ。さすれば救われん。
全与野党満場一致で可決されたのがこの魔法少女法案である。
なお、現首相自らも魔法少女となり、公の前で可愛らしい姿を披露していた。
アメリカ合衆国大統領と握手する魔法少女総理が全世界に報道され、各国からは「やはり日本はどこかおかしい」や「さすが日本、斜め上を行っている」、「ロリコン日本」、「HENTAI JAPAN」など、大絶賛されていた。
日本の自衛隊は魔法少女隊に改名され、災害救助の際には可愛らしい衣装を着た魔法少女達が、空を飛んで人々を助ける姿を人々はよく目撃していた。
警察も魔法少女警備隊へと組織変更され、フリフリの衣装を着た警備隊が交番に勤めていた。
かのアルベルト・アインシュタインも言っている。
『常識とは十八歳までに身につけた、偏見のコレクションのことをいう』
つまり、魔法少女とは十八歳未満の少女であることが常識であり、一見すると偏見に見える『魔法少女』を愛する心のコレクションこそが、世界の常識なのだ。
そうした常識の積み重ねによって出来上がったのが日本の進むべき原点『国立魔法少女育成高等学校』なのだ。
いまや国立だけではなく、私立の同系列の魔法少女育成学校が併設され、毎年お互いの学校同士で魔法の腕を競っているのだ。
そこに集うは魔法少女を夢見る漢達。
老弱男漢、その垣根はない。
さあ、君達も来たまえ。
恥ずかしがることはない。
ここで君の夢を叶えるのだ。
今なら学長二杜氏豊のサイン入り脱ぎたてパンツをプレゼントだ。
もちろん未使用だから、安心してほしい。好きに使ってくれ。
ボクは美しい桜並木道を、これまた美しい夢物語の詰まった小箱をそっとしまい込みながら学び舎へと辿り着く。
ここが今日からボクが通う学校だ。
建物全体は白く統一されており、紺色の屋根が西洋の高級建築を思い出させる。
太陽の光が反射し、ボクは目を細めて学び舎を見上げる。
「ついに……来たんだ……ボクが憧れの魔法少女になれる日が。ここで、ボクの新たな人生が始まるんだ……」
ボクのクラスは1-D。1クラス20人程だ。AからEまで全部で5クラスある。
今年の新入生は約100名だ。
廊下に張り出された「新入生はこちら」という案内に従って、自分の教室へと向かう。
1-A、1-B、1-C……次か。
『1-D』と書かれたクラス標識を見え上げる。
緊張するな……友達できるといいな……。
可愛い子と友達になれるといいな……。
よし! と気合を入れてそっと扉を開ける。
既に教室には生徒がいっぱいいた。
どうみてもおじいさんにしか見えない人もいる。
あごひげをはやした男の人もいる。あの人は30代だろうか。
太ったオタクっぽい人が周囲をきょろきょろ見回している。
人気男性アイドルグループにでもなれるんじゃないかというくらいのイケメンもいる。
年齢制限を設けていない学校だからか、年齢差はかなり広いようだ。
うへぇ。やっぱり男しかいないよね。
机を見ると、名前が書かれた小さなシールが貼られていた。
なるほど、これなら自分の席がどこかわからなくなる心配もないな。
さて、自分の席はどこかな?
あった。ここか……
よいしょっと自分の席に座る。
右隣の席には、ぼーとした可愛らしい小さな男の子が座っていた。
髪の毛が肩まで伸びていて、一見すると女の子に見える。
ボクと同い年位だろうか。
ボクは今年で15歳。世間でいう高校1年生にあたる年齢だ。
背はボクより低そうで、着ている制服もだぶついている。
ボクはこの子に声をかけてみることにした。
「あの、ボクは由良木 乃江流。隣の席だね、よろしくね」
隣の男の子はゆっくりとボクに振り向き、少し間を置いてから答えた。
「あ……よろしくです。私は皆月 薫」
コクンと頭を下げて挨拶する皆月。
「私……? キミって女の子?」
「ううん、男の子だよ」
「そうなんだ。なんかすごい可愛らしい顔してるね」
「そ、そう? ふ、普通じゃないかな……」
いきなり初対面の男子に可愛らしいなんていったらいけなかったかな。
ここには男子しかいないんだし、この子も女の子らしい見た目を気にしているかもしれないじゃないか。
しばらくすると、先生らしき人物が教室に入ってきた。
かなり筋肉質でがっちりした体格の人で、上下の赤いジャージを着ている。
髪の毛はスポーツ刈りなのだが、不自然に一房だけぴょこんと結んだ長い髪の毛が上へと飛び出ている。そしてあごも大き目で割れていた。
その男は教壇へと進み、腕を組んでボクらを見回して「うんうん」と頷いている。
そして、おもむろに両手を広げて大きな声で話し始めた。
「ようこそ同志達よ! 心に魔法少女への憧憬を持つ選ばれし真の漢達よ!
君達が長きにわたり持ち続けていた憧憬。そして苦悩。それらがすべてここで一つの変化へと変わる。
少女になりたかっただろう。でもなれなくて悔しい思いをしただろう。だが、今日この日よりすべてが変わる!
君達は、魔法少女へと昇華するのだ!! さあ、共に歩みだそうではないか! 新たなる旅路へ!」
生徒達はみなこの男を輝く瞳で見つめ、そして共に歓声をあげる。
「おお!! なるぞ魔法少女に!」
割れんばかりの大歓声に包まれる教室。
その時、入口の扉が開いた。
顔だけをひょこっと出し、中の様子を伺っている。
少しぼさっとした緑の髪の毛をした、眼鏡をかけた背の低い女性だ。
「魔法少女ばんざーい!」
教室でひときわ大きい歓声があがった。
その女性はその歓声を聞いてビクリと驚き、顔をひっこめる。
しかし、しばらくすると再び覗き込み様子を伺う。
その女性は両手で頬をぺしぺしと叩き、覚悟を決めて教室へと入ってきた。
教壇に立つ大柄な男に恐怖するも、必死に教壇付近まで歩み寄る女性。
「あ……あのぉ……席に……ついてくだ……さい」
赤ジャージの男はその女性をしばし眺め、そして教壇を降りて席についた。
「あいつ教師じゃないのかよ!」
ボクは一人突っ込みを入れて、教壇に立つ女性へと目を向けた。
生徒達も同様の想いだったようで、赤ジャージと先生を交互に見ながら押し黙り、気まずい空気が流れていた。
「あ、あの……私はこのクラスの担任の……綾崎まひるです。よ、よろしく……です」
ペコリとお辞儀をする先生。
「これから皆さんに……変身ステッキを配ります。その後魔法少女に変身するためのセットアップ作業を行いますので、よく説明を聞いてください」
すると先生はステッキを取り出し一振りした。
すると、段ボール箱に入った沢山のステッキが出現した。
ステッキを再び振りかざすと、全生徒の手元にステッキが移動する。
「これが……魔法少女のステッキ……」
全長30センチメートルほどの長さで、先端は三日月のような形状をしていて、その中心には大きな星がついていた。
先端と持つ部分の間には星型の穴が三つ開いている。
「ではみなさん、ステッキを持って『マジカルスターセットアップ』と唱えてください」
生徒たちはごくりと唾を飲む。
ついに自分達が魔法を使うことになるのだから。
「マジカルスターセットアップ!」
ボクは右手に持ったステッキを天に掲げ、大声で叫んだ。
そのとたん柔らかな光に包まれ、全身に温かさを感じだ。
ボクが着ていた服が消え、胸の中心にきゅんと込み寄せてくる強い不思議な感覚を感じ、思わず「あん」と喘ぎ声をあげてしまった。
ボクの視野が少し低くなった。
身長が縮んだ!?
背骨が柔らかくなった感じがして、お尻がちょこんと突き出る。
胸がふわっと膨れる感触を感じ、ボクの胸がみるみる膨れ上がってきた。
肩幅や足幅などが狭まり、太ももをはじめ、ひざ、ふくらはぎが内側を向いた。
「これが……女性になるってことなのか!」
自分でしゃべったはずなのに、まったく聞いたことのない綺麗な高い声が替わりにボクの言いたかった言葉をなぞった。
「あれ?」
一瞬声が出なくなったのかと混乱したが、次に発生した声でそれが自分の声だと知覚する。
「これ……ボクの声なの!?」
可愛らしい声だ。これがボクの声になったのだ。
こんな衝撃的な事はない。
体中から感じる女性への変化。
男の時のように、自分の体を雑に扱ったらいけないようなか弱い身体。
変身しただけで今まで予想もできなかったような変化が訪れたのだ。
その時、ふと隣の皆月君が視界に入った。
思わず息を飲み、その姿に釘付けになる。
すっぱだかのとても可愛らしい少女がそこにいたのだ。
周囲を見渡すと、更に驚愕の状況に置かれている事に気が付く。
なんと、クラス中全員が美少女になっていて、全裸なのだ。しかもどの子も全員物凄い可愛らしい。
自分の置かれた状況に気が付いた人の中には、鼻の下を伸ばして周囲の少女をガン見している者もいた。
しかし、気が付いていないのだろう。自分が物凄い美少女になっていることに。
とても可愛らしい美少女が鼻の下を伸ばして、頬を染めながら嫌らしい顔をしながら別の美少女を眺めているのだ。
「みなさん、今日からみなさんの性別が変わります。男でも女でもありません。性別は『魔法少女』になります。
結婚は魔法少女同志でしかできませんので、ご注意ください。
あと、今はまだ慣れていないでしょうけれど、同性の裸を見ることで興奮しないようにしてください。
今後これはずっと付きまといますので、早いうちに慣れてくださいね」
何かとてつもないことを言われた気がした。
だけどボクは素っ裸の少女に囲まれたインパクトが強すぎて、頭に何も入ってこなかった。
ボクは裸を見ているという事、自分の裸を見られているという事をわかった上で思い切って皆月君を見ることにした。
この状況に置かれなければきっとわからないだろう。
裸が見たいんだ。でも自分も裸なんだ。君も同じならわかるだろう?
きっと以心伝心で伝わっているに違いない。
だけど、皆月君はボクの視線に気が付くと「きゃ」と小さく叫んで体を隠してしまった。
そうだよね。ボクが馬鹿だった。
ボクもそっと自分の胸と股間を手で隠してしまう。
はじめて経験する女性としての恥じらい。
自分の胸を隠そうだなんて思ったのは初めてだった。
「皆月君、すごい綺麗だね……」
皆月君は真っ赤に頬を染めながら、ボクをチラリと見つめる。
「由良木くんも……とても可愛いと思う」
可愛いって言ってもらえた。
嬉しいことは嬉しい。
でも……ボクってどんな顔なの?
ボクはボクの体を知らない。
鏡が見たいけど、どこにもない。
こんなにもどかしいことはない。
一体ボクはどんな顔なのだろう。
他の人みたいに可愛い顔になれたのだろうか。
「続けて衣装のセットアップ作業に入ります。『マジカルドレスアップ・ベーシック』と唱えてください」
ベーシックということは、基本衣装なのだろうか。
他にも衣装があるのかもしれない。
「マジカルドレスアップ・ベーシック!」
ボクは言われた通りに唱えると、体が光に覆われフリルのついた白いセーラー服の衣装が現れ、ボクの体に装着された。
周囲のみんなも全員可愛らしいセーラー服に着替え終えていた。
裸じゃなくなったのは残念だけど、このセーラー服も非常に可愛らしい。
「それでは、セットアップ作業の続きを行います。これからみなさんには3つのキーワードを選んでもらいます。この3つのキーワードの組合せでみなさんの魔法が決まります」
先生が黒板に『炎』『熱』『爆風』という文字を書いた。
「この3つのキーワードで生じる魔法は、炎と熱と爆風です。どれも相性が良く、強力な魔法になります」
続けて先生はまた文字を書きだす。
書きだされたのは『炎』『氷』『風』だ。
「炎と風は相性がいいですが、炎と氷は相性があまりよくありません。炎と水で水蒸気爆発という連鎖も期待できますが、氷ではあまりよくないですね。
なので、できるだけ3つとも相乗効果を持たせたキーワードの組合せが強力な魔法を扱えます。
しかし、逆にこの3つだと、炎、風、氷、炎風、氷風といった複数の魔法が扱えることになります。
一極集中した威力重視型、汎用性を持たせた型、独自性を持たせた型と様々ありますので、みなさんどうしたいか考えておいてください」
先生は小さな星の形をした宝石を一人3つづつ配布した。
黄色に輝く透き通った綺麗な宝石だ。
「一つのキーワードをこの一つの宝石に組み込みます。今はまだ3つしかありませんが、今後みなさんが実績をあげると配布されることもあります。
ですので、付け替えも考慮した組合せを考えておくといいですよ」
なるほど。ボクはどういう魔法少女になりたいのかを決めてからキーワードを決めないといけないな。
魔法少女になって扱う魔法は、学校を卒業すれば人命救助で使うだろうし、在学中や卒業後も魔法バトルで活躍したいなら戦闘向けにしないといけない。
魔法少女になることがボクの夢だったから、それ以降の事は何も考えていなかった。
でも今はその先を考える時なんだ。
ボクは魔法少女になって何がしたいんだろう?
ボクは魔法少女になってどんな魔法を使ってみたい?
空を飛ぶ? 人々を治療する? 大量の物を運ぶ? ニッチな魔法を選んで専門家になってみる? それとも最強を目指してみる?
さあ、考えるんだ。こらからはじまるボクの物語が、そこにはあるんだから!
TS物を書いています。
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