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――なんで?
自分でも何故そんなことをしたのか、まるでわからなかった。
しかしまさとは、こう考えた。
――一枚くらいなら、いいか。
そうしてごく自然に、もう一枚のお札に手をかけた。
引っ張ると、お札はいとも簡単に剥がれ落ちた。
――二枚くらいなら、いいか。
まさとの手が、もう一度お札に伸びていった。
――三枚くらいなら、いいか。
どれくらいの時間が経ったことだろう。
まさとがふと我にかえると、お札は全て剥がされて地に落ちていた。
その間の記憶が、全くないのだ。
――……。
まさとは改めて扉を見た。
すると扉が音もなく開いた。
夕飯の支度はもう出来ている。
夫ももうすぐ帰宅することだろう。
しかしまさとがまだ帰ってこない。
康子は落ち着かなかった。
何かあったのだろうか。
それとも遊びに夢中で遅くなっているだけなのだろうか。
どうしたものかと考えていると、玄関から声がした。
「ただいま」
まさとの声だ。
それは間違いない。
間違いはないが、その声には思いっきり違和感があった。
康子は玄関に足を向けた。
するとそこには殺気立った目で康子を見て、鍬や鎌を構えたまさとが、十人いた。
終




