02 吸血鬼
足元に落ちた封筒に私は首を傾げた。拾い上げて表を見ると、《UFO研の人へ》と書かれている。差出人は不明だ。多分、依頼か何かだろう。
私は鞄に封筒をしまって部室へ向かった。
手鏡にはこう書かれていた。
最近友人が熱を出して練習を休むので家を訪問した。すると、友人の肩には噛み付かれたような跡があり、話によると昨日部活の帰りに学校の廊下で何者かに襲われたという。そしてうなされながら時々思い出したように呟くそうだ。
「血が飲みたい」
と。
背筋が寒くなり、私は身震いした。
「これって、まるで−」
「吸血鬼」
ユウキが私の言葉を代弁して溜息を着いた。
「何時から此処はオカルト部になったの?」
手紙を無造作に机に放る。
しかし、確かに最近私のクラスは欠席が多い。もし本当なら−…
私は頭を振った。まだ信じるには早い。
「その子の話だけで真相を決めつけるのは早いだろう」
文香が言った。
「それでも、事実なら早めに対処するに越した事はありません。そうでしょう、皆瀬さん」
陸の目は再び輝いていた。ユウキは悪戯を企むような顔で笑った。
「いいわ、少なくとも退屈はしないようね」
初めて柔和な笑顔を崩すユウキを見た私は、まともにこの件と対決するだろう事を覚悟した。
その後、私とユウキは下校した。
「ねえ」
「はい?」
不意にユウキが私を見た。一見普段の微笑に見えるが目が笑っていない。
「これから、何か危ない目に遭ったら私を呼んでね」
「え?」
「いいから」
有無を言わせない口調だった。
彼女の考える事はよくわからない。危ない目とは、具体的にどんな事だろう。
この平和な世界に生きる限り危険な事なんてないと思うのだけれど。
そういえば、昨夜の校内探索に来なかった理由を聞くと、ただ単に忘れていたらしい。何ともユウキらしい理由だ。けれど、思いの他申し訳なさそうな顔で謝られた為、陸はいくらか溜飲を下げる事が出来た。
翌日。相変わらず地味に欠席者は増え続け、手紙の内容を裏付けるような事態だった。私は昼休みに図書室へ向かった。
「周りの人が吸血鬼だった、なんて小説ではよくある話よね」
ユウキが背割れしそうな本をめくりながら言った。
「ユウキさんは、実は吸血鬼だったなんて事ないですよね?」
「そうだけど」
私は本を取り落とした。
「…え!?」
「何を驚いてるの?そんな事より何故吸血鬼はニンニクが苦手なのか、体内に摂取しないと効かないのかって事の方が考えるべき事じゃない?」
「血、飲むんですか!?」
まあ人並みには、という妙な返答をされた。
外見的にはユウキはまるで普通の人間だ。私は思わずユウキを凝視した。
目の前の少女はにこりと笑って、
「だから、多分この学校の生徒を襲ったのは私の仲間ね。私は血なんて好き好んで飲まないけど、たいていの吸血鬼は飲まないと苦しいから」
挨拶をするように言った。
陸の《ユウキは人間ではない》という言葉は真実だったのだ。
私は呆然とユウキを見ていた。