プロローグ
始まり始まり~
重たい水桶をどんっ、と地面に置き、一息つく。
家にある水瓶に補充する。これが一日のうちに一番早くやらねばいけない仕事だ。
普通の農村の村娘、ジルケは、現状に若干の不満と、退屈を持っていた。
ジルケの村は、屑のような上流階級が蔓延っている中では運が良く、比較的ましな領主が治めていた。
そのため、ある程度は貧しくとも、皆食べていけていた。そんな村で生まれたジルケは長い茶髪をお下げにした、普通の娘だ。
だが、ジルケには不満があった。
それは、
結構良い歳になったのに結婚できていない!
その一言に尽きる。
実際のところ、ジルケは別に不細工だとか、家事が全然できないだとか、気性が凄く荒いとか、そんな事は一切無かった。むしろ、花嫁修行は頑張っていたし、器量だって悪くは無かった。
故に、両親や友人はしきりに首を傾げていたのだった。
だがもうその両親は亡くなり、友人はほくほく顔で嫁に行った。ジルケはそれをハンカチを噛み締めながら見送るしかなかった。
だがそれでも親戚は夫をあれこれ探してくれていたし、ジルケもそれほど深刻に構えていなかった。
しかし18を越えた頃、さすがにうかうかしていられなかった。ジルケ本人も、本腰をいれて探し始めた。
しかし、しかし、夫となりうる、条件に当てはまる男性は見つからなかった。
同年代の男は皆既婚か、婚約者がおり、それ以外に残っているのは「さすがにこいつはちょっと……」となるような男ばかり。気づいた頃には手のつけようがなくなっていた。
そんなこんなで、今に至る。
それに、ジルケも終わらない夫探しにうんざりして、近くの教会の神父に「23まで売れ残ったら修道女になる」と言っておいてある。ジルケは今20歳。タイムリミットは後3年。とは言っても諦めつつあった。
そんなジルケの生活が一片するのは、もう少しだった。
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今日も今日とて仕事に勤しんでいると、パカラッパカラッ、と馬の蹄の音がした。思わず顔をあげると、遠くに2つの人影が見えた。
じぃっ、と目を凝らすとどうやら男二人連れらしい。土煙のせいでよく見えないが、どうやらこちらに向かっているようだ。
なぜ?
見たところ、領主様のようなオジサンではなく、若い男、それも身分が高そう、というのが見てとれる。
やがて、段々と土煙が薄くなり、相手の様子が見えてきた。
1人は、若い男。もう1人は、壮年の男らしかった。