プロローグ:撮れ高Sのために
私有栖。
彼氏いない歴=年齢 の16歳!
この有栖というキラキラしたネームのせいなのかしら....?
友達一人だって出来ないじゃない!
どういうことなの?私の人生一の謎だわ。
小中学校でついた、あだ名は『不思議ちゃん』
うるさいわね!不思議の国に行ってないわよ!
アリスって名前だからって馬鹿にして......!
小中学校は一貫して同じ人が多い。
地域によって学区が決められているから仕方ないわ。
でも高校ではそれが無い。
「これで新しい人と巡り合って友達ができるわ.......!」
そう思って高校からは真面目に友達作りから始めようと思っていたわ........。
でもこの高校、最初からほとんどコミュニティが出来てしまっているじゃない!
友達が今までゼロの私にはハードルが高すぎるわよ......。
どうせならギアスでも良いから友達が欲しかった......。
中高エスカレーター式だという情報を入手し損ねた私の一生の不覚。
がんばって起こす会話だって内容が内輪ネタばかりで合わない。
その代わりに会話するようになった2chのおまいら達。
掲示板って本当に腐っている世界だわ。
でも私も腐っていて、ここがちょうどよかった世界。
腐乱臭よりドスの効いた、例えるならば死臭ね。そんなものがここにはあったわ。
何かしらを批判する日々。
こんな人生に私は嫌気が刺したわ。
でもそんな人生も変わらず。
昼放課にも結局今日も私は丘の一本ある大きな木の陰で一人でおにぎりを食べる。
スマホ片手にに今日は政治家を批判するわ。
「またこれなのね、野党はちゃんと仕事して欲しいわ」
と言ってはいるが、野党の仕事が何なのかがわかっていないのです。
有栖はただ、なにかを批判して自分を保ちたいだけなのです。
「うふふ、今日もレスバトルは私の勝利ね、完全論破だわ」
私はレスバトルで負けたことは一度もない。
しかし、これは誇れることではないのは明白なのです。
何故ならば、
ネットではレスバトルの女王であっても、
現実では友達だって一人もいない、
彼氏もなしの残念な有栖だからです。
「あら?」
ふと、スマホから視線をあげるとそこには顔を真っ赤にしたウサギがいました。
そのウサギはスマホを持っていました。
プルプルと手が震えていて、今にもスマホを落としそうでした。
「ウサギがスマートフォン!?珍しいわ!ツイッ○ーとインス○にアップしないと!」
有栖は即座にスマホのカメラ機能を起動し、動画を撮ります。
その動きはRTAの如く、世界の有名なインス○ラーやツイッ○ラーを遥かに凌駕する動きでした。
彼女のアカウントはその世界なら誰でも知っているアカウントなのです。
「あっ!ちょっと待って!」
しかし、ウサギは逃げてしまいました。
「待ちなさい!こんな珍しいウサギ逃す訳にはいかないわ!撮れ高Sランクよ!」
撮れ高Sランクとは彼女のネット人生において何よりもその事象を優先し、撮ることである。
「待ちなさーい!!」
彼女は走る。
食べかけのおにぎりを捨て、スマホを持ち走る。
もちろんこの後、午後の授業がある。
それにもかかわらず、彼女は撮れ高Sランクのために走る、どこまでも、どこまでも。
「はぁ....はぁ.....この穴に落ちたわね」
ウサギを追いかけていくと、ウサギは円い穴の中に落ちて行きました。
彼女はここがどこだかもうわからないけれど、そんなことは関係ありません。
なぜなら、そこに撮れ高Sランクがあるのだから。
「とうっ!」
彼女は撮れ高Sランクのためにあまり迷いもせず、穴の中に飛び込みました。
「わぁぁぁぁ」
穴はとても深くジェットコースターの時に感じる浮遊感が彼女を襲いました。
彼女はジェットコースターは大の苦手です。
小さい頃に乗ったらこの浮遊感のせいで意識を失ってしまったのです。
今回もその昔に習って、彼女は気絶しました。
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「んん、ここは.....?」
気がつくと、そこは真っ白な空間でした。
部屋ではありません。
ただ、壁にはひとつだけ小さな扉がありました。
「なによこれ、入れないじゃない!ウサギはここから逃げたんだわ!早く追っかけないと!」
しかし、小さな扉を開けて中をスマホで確認してもウサギはいませんでした。
小さな扉の向こうには、また扉があったのです。
「なによそれ!あそこから出て行ったというの?こんのぉぉスマホウサギ!」
怒りを彼女はあらわにしますが、とりあえず今自分の置かれている状況の理解をし始めます。
周りを見ると、先ほど開けた小さな扉が一つ。
それと、もう一つありました。
「drink meって書いてあるわね、何かしらこれ、私を飲んでって意味かしら?」
観るとそこには試験管に入った虹色に輝く何やら怪しい液体がありました。
それを見て、有栖は気づきました。
「私不思議の国に行ってしまうのかしら、嘘でしょ?ものすごく楽しみだわ」
有栖は不思議の国のアリスという物語を知らないほど世間知らずではありませんでした。
ぼっちがかなりこじらせていますが、それだけです。
「飲むわ!」
彼女は試験管に入った怪しい液体を飲みました。
新しい世界に旅立つべく、その第一歩を踏み出すために。
まーた新しい異世界モノが投下されてしまったのか。