未来は…
殺人は未然に防ぐことはできない。しかしそれは未来では可能になろうとしていた。2045年、タイムマシーンができた頃、警察官の水野 功は上司であり厳格な父親の水野 俊介から35年前に戻り、殺人を起こす前の殺人犯を殺すように命じられる。そして35年前に戻った水野 功は、未来を変える一人の男と出会う。その男は
「なあ、小川。いつになったら、殺人はなくなるんだろうな。」足元の死体を見つめながら、警察官、水野 功はつぶやく。同僚の小川 洋介はめんどうくさそうに答える。「さあな。そんなことより、早く仕事しようぜ。」功はため息をつきながら小川とともに殺人事件の現場を調べ始める。それは功にとっていつもと同じ仕事だった。2045年、タイムマシーンや、便利なロボットができた時代。しかし、殺人事件はあいかわらず毎日のように起こる。
「35年前に行けって・・・一体どういうことですか!?」
仕事を終え、警察署に帰ってきた功は、上司の水野 俊介に呼び出されていた。水野 俊介は署長のための大きな椅子に腰かけ、パソコンの画面を見ながら、話す。
「言葉そのままだ。功、お前には35年前に行ってもらい、殺人を起こす前の殺人犯を殺してもらう。」
「突然、そんなこと言われたって・・・・。」
「これは、警察界にとって重要な任務だ。この任務がうまくいけば、殺人を未然に防ぐことができ、警察界を進展させることになる。」
「しかし・・・そのような任務私にできるはずがありません。それに、人を殺すなんて」
「お前なんかに断る理由があるのか?」その言葉を聞いた功は俊介をにらむ。
「俺にだって意見ぐらいあるよ・・・。親父。」
俊介はパソコンの画面から目を離して、功を見る。
「ここでは、署長と呼べ。」
「じゃあ、水野署長。部下の意見も聞かないで勝手に決めてそれが署長のすることですか?」
「毎日をあきあきしたように生きているお前に意見なんかあるのか?もう決まったことだ。」
俊介は席を立ち、ドアに向かう。功は俊介に訊ねる。
「・・・・息子を人殺しにしてもいいのか?」
俊介は立ち止まる。
「・・・黙れ。お前はただの部下だ。」
功は俊介の肩をつかみ、怒鳴る。
「なんでいつも息子の意見は聞かないんだよ!!だから、兄貴は」
「黙れ!!」
俊介は功を振り払い、部屋を出る。
「まさかなあ。お前に重要任務が与えられるなんて。」
小川が功と廊下をあるきながら、そんな言葉をもらす。功はそっけなく答える。
「そうだな。こんな任務が与えられるなんてな。」
「タイムマシーンってどんなんだろうな。やっぱ映画みたいに車なのかな。」
「いえいえ。車なんてそんなものでは行きませんよ。」
知らない声が聞こえて、二人は驚いて後ろを振り向く。後ろには白衣を着た怪しげな男が立っていた。功は訊ねる。
「・・・あなたは?」
「私、警察特別機械開発課の山上 裕也と申します。本日水野 功様の重要任務をお助け致します。」
「よろしくお願いします。水野 功です。こっちは同僚の小川 洋介。」
「ど、どうも。」
「それでは、タイムマシーンのある部屋にご案内いたします。」
いよいよだと息を呑む功と小川。怪しい研究室のような部屋の前まで行き、
山上はゆっくりとその部屋を開ける。
「うわっ!」
思わず声がでる小川。部屋の中は外からわからないほど広く、たくさんの研究員たちがいた。
「こちらです。」
山上は奥の部屋へ案内する。部屋の奥には一台のエレベーターのようなものがあった。
「これがタイムマシーン?」
「ええ。どうぞこちらへ。」
エレベーターのようなタイムマシーンの扉をあける山上。功が中に入る。中はただのエレベーターと同じだった。
「・・・・・・。」
「それでは、少々メンテナンスを致しますので、あちらの部屋でお待ちください。」
功と小川は小さな待合室のようなところに案内される。
「功、どうしたんだよ?」
さっきから何も話さない功に小川が訊ねる。
「・・・親父は俺を追い出したいだけなのかもしれない。」
「水野署長が・・・?」
「だから、俺を重要任務に選んだんだ。」
「まさか・・。」
「きっとそうだ。」
功は拳をにぎりしめる。
「・・・前向きに考えてみろよ。功。35年前って水野署長がえっと・・大学生くらいだろ。若いころの親父に会えると思ったらおもしろいじゃねえか。」
「きっと若いころもあんなねじ曲がった性格だよ。それに会う時間なんてない。俺には殺人犯を殺すっていう任務がある。」
「でも・・。」
山上が部屋に入ってくる。
「メンテナンスが終わりました。ではどうぞ。」
功が荷物を持って行こうとするが、山上に止められる。
「申し訳ございませんが、未来のものを過去に持って行くのは禁止されております。」
「でも殺人犯の資料が。」
「それならご安心を。」
山上はポケットから携帯電話のようなものを取り出す。
「この機械の中に、殺人犯たちの情報が入っております。肌身離さずお持ちください。それからこれは」
山上は拳銃を功に渡す。
「水野署長からです。」
「・・・これで殺せってことか。」
功はエレベーター型のタイムマシーンに入る。
「扉が閉まりましたら、すごい衝撃がくるので、覚悟して下さい。」
「覚悟って・・・。」
「あっ!あと、大事な事を言い忘れておりました。過去の人間にタイムマシーンを見られてはいけません。もし、見られたらその人間は殺すかどうかして存在を消しちゃって下さい。」
「殺すのか・・・。」
「では・・・お気をつけて。」
扉が閉まりかけたとき、小川が叫ぶ。
「功!水野署長はお前を追い出そうとして、35年前に行かせるんじゃねえよ!きっとお前なら任務をやり遂げると思ってんだよ!」
「小川・・。」
扉が閉まる。
「うわ!」
突然!ものすごい揺れで功はタイムマシーンの後ろに突きとばされる。
「痛っ!」
次は前に突き飛ばされる功。
「なんなんだよ・・・。」
再び後ろに突き飛ばされ、タイムマシーンは静かになる。
「痛ってえ・・・。」
チーンと音が鳴ったかと思うと扉が開く。
功はふらつきながら外に出ると、目の前は木だらけだった。
「35年前なのか・・?森?」
功は意識朦朧しながら歩き出す。すると、目の前に人が数人見えてきた。しかし、功は力尽きて倒れてしまう。
すると、背の高い女の人が功に気がつく。
「大丈夫ですか?」
(どっかで見たことあるなあ・・・この人。)
功は一言そう思うと意識がなくなってしまう。
「あ。やっと起きた。」
意識をとりもどした功の目の前には茶髪で不良ぽい20歳ぐらいの男がいた。
「・・・。」
「優が見つけたんだぜ。あんたのこと。で、俺がここまで運んだんだ。あー重かった!」
「優?」
「俺と同級生なんだ・・・いや、そんなことどうでもいいや。大学の林でぶっ倒れるって相当な変質者だな。」
「大学の林?ここ大学なのか?」
窓の外を見ると、夕暮れの大学の庭が見える。
「ああ。あれ?卒業生じゃねえの?」
「いや・・その・・」
「俺より年上みたいだから卒業生かと思って・・もしかして・・・不法侵入!?」
「違う!・・俺は・・」
「まあ。あんたのことなんか興味ないし。もうちょっと休んでいけば?先生帰ったからこの部屋も自由に使えるし。優ももう少ししたら帰ってくるし。」
茶髪の男は本棚に向かい、なにか本を探している。
「あの・・この大学の名前は?」
「え?生明大学だけど。」
「・・・生明大学。どこかで聞いたことあるな・・。」
功は記憶をはりめぐらせる。本棚で本をさがしていた茶髪の男は、一冊の本を落とす。その本は警察官についての本だった。
「・・・警察官になりたいのか?」
「えっ?」
茶髪の男はむっとして答える。
「あんたには関係ない。」
(こいつ、何気にさっきから口悪いな。)と思ったのと同時に、功はあることを思い出す。
「生明大学って・・・親父の大学だ。」
功の記憶はどんどん思い出していた。父親の大学だけではなく、父、俊介が自分の大学の跡地に警察署を建てたこと、そして大学在学中に警察官になるのを決めたことなどまでも。
功はある疑問が頭の中に浮かんでいた。
「・・・名前、聞いてなかったよな?」。
「俺の名前?・・なんで?」
「いや・・助けてもらったのに、名前聞いてないのは悪いかと思って。」
「あっそ。俺の名前は」
すると功は外が騒がしいことに気がつく。
「なんだ?外が騒がしい。」
「え?ああ、これは」
「まさか・・・。タイムマシーンが見つかったんじゃ・・。」
功は外に飛び出す。
「え?ちょっと!」
外に出ると、たくさんの生徒たちがいた。講義が終わり、単に大勢の生徒たちが一斉に帰っていただけだったのだ。功は念のためタイムマシーンが無事かどうか調べに林に向かう。
「よかった!無事だった!」
タイムマシーンを見て、ほっと胸をなでおろしている功の目の前にあの茶髪で不良そうな男が立っていた。
「!!」
「なんだ?これ・・・?」
「・・・・。」
功は懐に拳銃があるのを思い出し、とっさに取り出し、男に向ける。
「な、なにすんだよ!!」
タイムマシーンを見られたら、見た人間を殺さなければいけない。と山上の言葉を功は思い出す。
「あんたを殺したくない・・。ここにある機械のことは誰にも言うな。いいな!」
「はあ?」
「これを見たことは忘れろ!!行け!」
(早く行け!そうすれば殺さなくて済む。)
「・・・・。」
「聞こえなかったのか?・・行け!」
「・・あんた・・・一体?」
(おとなしく逃げればいいのに・・・。こうなったら、やっぱり殺すしか・・。)
しかし、さっきと同じある疑問が功の脳裏をよぎってなかなか引き金を引けない。功はある日付をつぶやいた。
「・・・9月12日。」
「えっ?」
「・・・お前の誕生日9月12日か?」
「・・ああ。そうだけど?」
「・・・血液型はAB型か?」
「なんでわかるんだ?・・・やっぱ性格に出んのか。」
(やっぱり・・・そうか。)
功はため息をつき、拳銃を下ろして核心の質問をする。
「・・・あんたの名前は?」
「えっ?」
「名前だよ!あんたの名前!!」
「・・・水野、水野 俊介だけど?」
「・・・・。」
「なんだ?俺を知ってるのか?」
「・・・・ああ。」
「え?どっかで会ったけ?もしかして・・・5年前引っ越した岸田?」
(こんなのが親父なのか・・・。)
「違うのか?じゃあ」
(全然違う・・・。俺は・・)
「俺は・・水野、水野 功。」
「・・・えっ?」
「あんたの息子だ。」
「・・・・・はあ?」
「とりあえずこの部屋なら当分の間は誰も来ないはずだ。」
35年前の水野 俊介はそう言って大学の空き部屋の電気をつける。功はじっと35年前の父親の姿を見る。
(これが親父・・?顔、全然違うじゃねえか・・・。)
「なんだよ。人の顔じろじろ見て、きもち悪っ!俺はお前の話、信じた訳じゃねえからな!未来から来たとか、俺の息子だとか・・そんなくそ話、信じれるわけねえし。」
「じゃあ。なんでこの空き部屋に案内してくれたんだ?」
「それは・・・あんたが拳銃持ってるからだよ!殺されたくねえからな。だから、話は信じてねえんだよ!」
「さすが俺の親父だな。」
「信じてねえから!でも・・・未来ってどんな世界なんだ?」
(・・・本当に俺の親父か?)
「この時代とあんまり変わらねえよ。相変わらず毎日のようにどっかで、誰かが殺されたり、殺したり。ここと一緒だ。」
「でも、あんたはそれを変えに来たんだろ?」
「ああ。未来のあんたに頼まれて。」
「だから、俺は信じてないって!でも・・なんかこんな映画あったよな。」
功はため息をつく。
「あっ!優のこと忘れてた!」
「・・・俺を助けてくれた人?」
「そうそう。今度、紹介してやるよ。じゃあな!また、明日来る!」
俊介は部屋を出ていく。功は懐から拳銃と殺人犯のデータが入った小さな機械を取り出す
「・・・・とりあえず、いろいろあったが、任務を遂行しないと。」
功は犯罪者のデータを見ていく。するとこの大学の出身者で囚人№1089木原 翔太という犯罪者がいた。
「まずは、こいつからだな。でも・・」
大きなあくびをする功。
「とりあえず・・・寝よう。」
俊介の持ってきた汚い布団の上に倒れる功。そのまま眠ってしまう。
「なあ、親父。木原 翔太って知ってるか?」
朝ご飯を持ってきた俊介にさっそく訊ねる功。
「木原 翔太?どっかで聞いたことあるな・・・。」
「この大学にいるはずなんだけど・・。親父なら知ってると思って。」
「あっ!あいつだ!すごいやつだぜ!そいつ!」
「すごいやつ?」
「話したことはねえんだけど、この大学の主席だよ!」
「大学の主席?なんでそんなやつが殺人を・・・。」
「木原って未来では、殺人犯なのか。で、木原は誰を殺すんだ?」
「それは・・って、なんで親父に言わなきゃだめなんだ?」
「いいだろ?未来ではおれが署長なんだから。」
「未来では。今は俺より年下だし。この仕事は俺だけでやる。」
「いいじゃねえか!木原の今の顔知ってるの俺だし。」
「・・・わかった。ただし、木原の顔がわかったら、そっからはどっか行けよ。」
「へいへい。なあ、思ったんだけど、木原見つけたらどうするんだ?」
「それは」
「殺す」と言いかけて功はやめる。
「せ、説得する。」
「説得?殺人をするのって、何年後か先だろ?説得なんか無理だろ。」
「そこは何とかする。親父はこれ以上邪魔するなよ。」
「おもしろくねえな。」
「俺もまだ若いな。」
俊介の服を借りた功が大学内を歩きながらそんなことをつぶやく。
「まあ、同い年には見えるんじゃねえ?それよりここでは親父って言うなよ。」
「わかってる。そんな失態はしない。」
「あ!あれが木原だ。」
部屋から、木原が出てくる。功は手に持っていた犯罪者データの木原の写真を見る。
「なるほど。若いな。じゃあ。ここからは邪魔するなよ。俊介君。」
「ちっ!おもしろくねえ。」
功は木原の後を追う。俊介はため息をついて、帰ろうとするが、あることに気付く。
「・・・なんで、あいつは拳銃を持ってきたんだ?」
俊介は功が行った後を見る。
「・・・まさか、殺すつもりじゃ・・。」
「わっ!びっくりした!」
夜、功が部屋の電気をつけると俊介が部屋の真ん中に座っていた。
「何やってんだ?親父?」
「・・・木原は説得できたのか?」
「いや。今日はただ尾行しただけだ。」
「・・・殺すんだろ。」
「えっ?だから朝言ったろ。説得するだけだって。」
「じゃあ、なんで拳銃持ってんだ?」
「・・・それは」
「やめろよ!殺しなんて!そんなの人殺しと同じじゃねえか!」
(・・・やめろ?)
「今何て言った?」
「人殺しと同じだって言ったんだよ!」
功は俊介の胸倉をつかむみ、怒鳴る。
「誰がこんな命令したと思ってんだよ!?あんただろ!?あんたが・・・あんたが俺に人を殺せって、人殺しになれって命令したんだろ!?俺の・・息子の意見も聞かずに人殺しさせようとしたのは・・・あんただ!!」
「俺が・・そんな命令を・・・?」
「そうだよ!あんたはなあ!未来では、最低の父親なんだよ!そんなんだから兄貴は・・・・」
「・・・兄貴?」
「・・・くそっ!」
功は俊介を突き飛ばし、部屋を飛び出す。一人部屋に残った俊介はつぶやく。
「・・・・最低の父親。」
部屋を飛び出した功はタイムマシーンの前まで来ると、すわりこみ、叫ぶ。
「なんで俺を35年前に追いやったんだ!!親父!!」
功は草むらに拳を何度も叩きつける。
朝、大学内はたくさんの人でにぎわっていた。そんな中、拳銃を懐に入れた功が木原を尾行している。木原が一人で空き教室に入ったのを見ると、功もその中に入り、木原に拳銃を向ける。
「えっ?」
功は拳銃を下ろす。そこにいたのは木原ではなく、俊介だった。
「・・・なんであんたがいるんだ?」
「木原には隣の教室に行ってもらった。」
「・・・なんなんだよ。未来だけじゃなくて・・・過去でもうざい存在なんだな。」
「・・・殺しはやめろ。」
「まだ言うのか・・?これは命令なんだよ。未来のあんたからの。」
「じゃあ。これも俺からの命令だ。殺しはやめろ!」
(もう・・・うっとうしいんだよ。)
「あんたは俺に命令できない。俺に命令できるのは35年後のあんただ。」
功は隣の教室に行こうとする。
「・・・功!」
名前を呼ばれた功は立ち止まる。
「俺は未来でお前に殺せと命令した。だが、今の俺はそれを許さない。未来の俺も今の俺も水野 俊介に変わりない。お前の父親に変わりない。だから、これは命令だ。人を殺すな!俺は・・・息子を人殺しなんかにしたくない!」
功は驚いて俊介を見た。俊介のしゃべり方は功のよく知っているあの水野 俊介、35年後の父、水野 俊介とまったく同じだったからだ・・。
「・・・未来のあんたも今のあんたも同じなのか・・?」
「・・・ああ。そうだ。」
「じゃあ、教えろよ!なんで俺を35年前なんかに送ったんだ!?」
「・・・お前じゃなきゃだめだった理由があったんだ。」
「なんだよ・・。その理由って。」
「・・・今の俺にはその理由はわからない。でも、その理由がお前を35年前に来させたんだよ!!」
「・・・・理由。」
35年前の水野 俊介が、35年後の父、水野 俊介とまったく同じように見えた功は
なぜか無性に俊介を殴りたくなった。
「・・・わかった。命令は聞くよ。あんたは確かに俺の親父だ。だから・・・。」
「だから?」
「一発だけ殴らせろ。」
「えっ?」
功はおもっいきり俊介の顔面をなぐる。
「痛ってえええ!なにすんだよ!いきなり!」
「未来の親父も今の親父も同じなんだろ?俺ずっと親父のこと殴りたかったんだ。」
「・・・・野蛮な息子だな。俺も未来で苦労してんだろうな・・。」
功は俊介のしゃべり方が戻っていることに気がつく。
「・・・殴ったら、戻っちまったな。」
「何が?何が戻っちまったんだ?」
「・・・・なんでもない。」
「今度ばかりは阻止できねえよ。」
朝、部屋で寝ころびながら、功が犯罪者のデータを見て、そんなことをぼやく。
「できるって!木原のときはうまくいったろ?」
「あれは殺害理由が交際を断られたからって、単純な理由だったから、単にうまく交際を手伝ってやって阻止できたけど・・今回はなあ。」
「どんな殺害理由なんだ?」
「2023年に、詐欺で」
「だまされたのか?」
「逆。だませなくて、訴えられそうになったのを殺したんだって。しかも女。名前は囚人№3249滝山 夕実」
「ひでえな・・でも阻止できる方法はある。」
「親父・・・さすがに無理だって。犯人が詐欺に手を出すのは数年後なんだぜ。」
「もっと考えろバカ息子。だから、今、詐欺に手をだしてもらうんだよ。」
「何だって!?」
「その子に詐欺を教えて、後悔するような出来事にしちまえばいいんだ。」
「・・・うまく行くか?そんな作戦。」
「まあ、俺も手伝ってやる。」
「いいよ。親父は。レポートの締め切りやばいんだろ?」
「・・・そうだけど。」
「じゃあ。そういうことで。」
「おい!待てよ!」
功は部屋を出ていく。
「・・・やっぱりおもしろくねえな。」
「留守なのか?35年前はここに住んでるはずなんだけどな。」
滝山 夕実が住んでいるアパートのインターホンを何度も押す功。出てこないのであきらめて帰ろうとすると女の人にぶつかる。
「うわっ!すみません!大丈夫ですか?」
「・・・ええ。大丈夫です。こちらこそすみません。」
そのとき!功は胸になにかが刺さった気がした。
(・・・うわあ。すげータイプ・・。)
「あのすみません。服を汚してしまって。」
「えっ!?ああ・・。これ・・。」
功の服はぶつかった時に割れた卵で汚れてしまっていた。
「私の家ここなんです。どうぞ入って下さい!今、洗えば落ちるかもしれません。」
「えっ!?」
(この人が滝山 夕実?確かによく見たらデータの顔と似ているような・・。)
「どうぞ!!早く上がって下さい。」
「すみません。服が汚れただけで、お茶まで出してもらって。」
滝山 夕実のアパートのリビングでのんきにお茶を飲む功。
「いえ。悪いのはこちらですから。」
(感じのいい人だな・・。もろタイプだし。確か・・詐欺に手を出すのが約5年後。そんで、殺人を起こすのがその8年後だったな。)
「ゆっくりしていってくださいね。」
「えっ?あ・・・はい。」
「あの・・名前なんておっしゃるんですか?」
「えっ!?えっと・・・水野です。水野 功。」
「水野さんですか・・。私、滝山といいます。滝山 夕実です。水野さんは、このアパートの方なんですか?」
「えっ?いえ。その俺は・・・」
(駄目だ・・・。この人に詐欺を教えるなんて・・。)
「・・・どうしたんですか?」
功は急に立ち上がる。
「すみません!やっぱり帰ります!」
「えっ?でもまだ洗濯が」
「失礼します!」
功は走って滝山 夕実のアパートを出る。
「うわっ!すごい汗・・。」
功の部屋でレポートの制作をしていた俊介が思わず言ってしまう。
「保留だ!」
「はあ?」
「滝山 夕実を阻止するのは保留だっ!」
「なんで保留にするんだよ?俺の作戦うまくいかなかったのか?」
「俺には・・・できない。」
「・・・何言ってんだ?」
「ちょっと大学内でも歩いて頭冷やしてくるよ・・・。」
功は部屋を出る。
「なんなんだ?あいつ。」
「どうすりゃいいんだ・・。」
功は、滝山 夕実のことを考えながら、歩いていた。すると誰かとぶつかってしまう。
「うわっ!(本日2回目)すみません!大丈夫ですか?」
(あ。この人・・・。)
目の前にいたのは功を一番最初に助けてくれた背の高い女の人で俊介の同級生の優だった。
「ごめんなさい。ぶつかってしまって・・・・あれ?もしかしてこの前、林で倒れていた人ですか?」
「えっ?あ・・・その節はどうも。」
功は俊介の言葉を思い出す。「優が見つけたんだぜ。あんたのこと。」だが、功はなぜかもっと昔のことを思い出そうとしていた。
「この大学の人だったんですね。俊介は違うって言ってたけど。」
「・・・。」
「どうしました?」
「い、いえ・・・なんでも。」
「じゃあ。講義始まるんで。体調には気をつけてくださいね。」
優は講義の教室へと走って行く。功はその後ろ姿を見る。
「・・・・。」
「へー。惚れたんだ・・・。この人に・・?」
夜、功の部屋。俊介はデータの滝山 夕実の写真を見ていた。
「それは・・今から35年後の写真だけど、今の顔はすごい俺のタイプ・・。」
「まあ、いいんじゃねえの。付き合えば?」
「・・・女の人とどう話したらいいかわからなくて。」
「え?以外だな。大学の頃とか、結構合コンとかしてそうな顔なのに。」
「・・・大学の頃は勉強に必死だったんだよ。・・・合コンなんかしてる暇なんてなかったんだ。親父の期待を裏切らないためにも・・・。」
「え?」
「あっ!いや・・・だから・・今の親父じゃなくて35年後の親父の期待を裏切りたくなかったていうか・・。」
「功・・・。」
「そんな顔するなよ!気持ち悪いっ!」
「・・・いや、悪い。でも・・この時代の俺はお前にプレッシャーをかけるつもりなんてねえから、おもっいきり青春しろよ!」
「いや・・俺、一応仕事で来てるから。」
「じゃあ、どうすんだ?滝山 夕実は保留なんだろ?」
「だからほかの候補をあげた。囚人№2861沢村 浩之。今は高校生のはずだ。」
「だれを殺したんだ?」
「こいつは2030年、世間を大いに騒がした男だ。」
「どういうことだ?」
「・・・連続殺人犯なんだよ。7人も殺してる。」
「・・・えっ?」
「高校の時から麻薬に手を出しはじめて狂っちまったらしい」
「じゃあ・・もう麻薬に手をだしているんじゃ・・?」
「かもしれねえ。でも、阻止しなきゃ。俺の任務なんだから。」
「これが・・・沢村 浩之の家・・・?」
功がぼろぼろのアパートを口を開けて見上げている。
「すごい家だな・・。なんか今にも倒れそう・・・。」
「とりあえず入るぞ!任務を早く遂行しないと。ただでさえ遅れてんだから。」
沢村 浩之の部屋の玄関まで来た二人。
「これ・・・どれがドアなんだ?なんかすごい曲がってないか?ドアノブどこだ?」
「親父・・。それよりインターホン探せよ。」
「人ん家の前で何やってんだ?」
二人は驚いて後ろを振り向く。高校の制服を着た沢村 浩之がいた。功はおそるおそる訊ねる。
「・・・沢村 浩之・・君?」
「お前ら・・・もしかしてあいつらの仲間か?」
「あいつら・・・?」
沢村はカバンの中からナイフを取り出して、功と俊介にむける。
「えっ!?」
「ここには来るなっていっただろう!」
功は沢村の目を見てあることに気がつく。
「親父・・・こいつもう麻薬やってやがる。」
「何?・・なんでわかるんだ?」
「俺にはわかる。あいつの目はあの時と同じだ・・・。」
沢村は怒鳴る。
「早く帰れ!」
「どうすんだよ?功。」
「ちょっと乱暴だけど・・。」
功は沢村が握っていたナイフを足で蹴り落とし、腹を一発おもっいきり殴る。沢村はその場に倒れる。
「・・・乱暴だなあ。」
「こうでもしないと殺されるとこだったんだから。とりあえず家の中運ぼうぜ。」
「家の中もすごいなあ。なんかもう何がなんだかわかんねえ。」
俊介があたりを見わたしながらそんなことを言う。
「もう麻薬に手を出したあとだったなんて・・。このままじゃこいつは殺人犯に・・。」
「・・・・でも阻止できる方法は必ずあるはずだ。」
気絶していた沢村が目を覚ます。
「てめえ・・・よくも!」
俊介はとっさに言う。
「待て!俺たちは敵じゃない!」
「・・・お前ら、麻薬の売人じゃないのか?」
「ちがう。俺たちは・・・その・・・君に話があって。なあ功?」
「えっ?・・ああ・・そうだ。」
「なんだよ?話って・・。」
「その・・・・あれだ・・その・・」
功はどう言えばいいのか、わからず、戸惑う。
「麻薬をやめろ!!」
「なっ!?」
「親父・・・。はっきり言い過ぎだよ!」
「だってそれ言いにきてんだから。」
「なんで・・・なんで知ってんだ?」
「えっ?そ、それはだなあ・・・。」
「やっぱり・・あいつらの・・売人の仲間だな!」
「ち、ちがうって!!どうすんだよ親父!?」
俊介は立ち上がる。
「俺たちは、麻薬をやめろって言いにきただけだ。」
「なんだよ?やめろって・・・。お前ら売人が無理やり俺に売りつけたんだろ?」
「売りつけられた・・・?」
「そうだよ!おかげで、母さんは〈お前なんかこの世に産まれなければよかったのに〉って言って俺を置いてどっか行っちまったよ・・。俺だって好きでこんなことになってんじゃねえよ。」
「そんなことが・・・。」
「お前らのせいだ・・・。帰れよ!帰れ・・・・帰れ!!!」
「・・・やっぱり未来は変えることなんてできねえのかも。」
夜、功の部屋。功は昼間の事を思い出してため息をつく。
「何言ってんだ、功。なんとしても沢村を麻薬から解放してやんなきゃ・・・。」
「・・・本当に・・俺の親父か?」
「はあ?今更何言ってんだよ?」
「え?・・ああ。そうだよな。でも、どうやって助けるんだ?沢村のこと・・。」
「沢村に麻薬を売っている売人を叩きゃいいんだよ!」
「でも、売人を叩いたからって麻薬はやめられねえよ。」
「その時は俺がなんとかする。」
「親父が・・・?まあ、いいや。でも、売人の居場所なんかわかんねえぜ?」
「沢村は言ってただろう〈ここには来るなって言っただろう〉って。だから、売人はまだ沢村の家に来てんだよ。だから、沢村の家を見張れば売人はきっと現れる。」
「そう簡単に来るか・・・?」
「きっと来るって!」
「・・・・来ないなあ。」
功と俊介が、沢村のアパートを見張っている。
「来るって言ってんだろ!お前は辛抱強くねんだよ。功。」
「だって、もう三時間は見張ってんだぜ?やっぱ来ねえんだよ。」
「あの・・・すみません。」
ふいに声をかけられて驚く二人。振り向くと、滝山 夕実がいた。
「た、滝山さん・・・!?」
「えっ?この人が・・・?」
「やっぱり!水野さんだったんですね!こんなところで何やってるんですか?」
「えっとその・・・は、張り込みです。」
「張り込み?」
「じ、実は俺・・・警察官やってまして。」
「え!?すごい!!かっこいいじゃないですか!あの・・そちらの方は?」
夕実は俊介を見る。
「親父・・じゃなくて・・その・・・親父の友達の息子で警察官になったばかりの駆け出しの新入りです・・・。」
「・・・・どうも。新入りです。」
「どうも。すごいんですね水野さん。では、私、仕事あるので。あ、あと私の家にまだ服置きっぱなしなんで、また来てくださいね。」
「えっ!?あ・・・はい。」
滝山 夕実が去ったあと俊介が功に言う。
「警察官ってまだなってねえだろ?」
「35年後にはなってんだから嘘じゃねえよ。」
「俺が駆け出しの新入りって・・・。」
「俺より年下だろ?」
「でも・・・あっ!見ろ!あれ!」
沢村のアパートの前にガラの悪そうなヤクザが数人いて、沢村の部屋に向かって怒鳴る。
「おい!!出てこいや!お前のためにあれ持ってきてやったんやぞ!そろそろきれるころやろ?おい!!聞こえてんねんやろ!?」
「そろそろやばいな・・・行くぞ!親父!」
「おう!」
ガラの悪そうなヤクザたちに向かって飛び出す二人。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「・・・なんや?」
「どりゃ!!」
功は男を投げ飛ばす。
「な、何しやがる!?この」
すかさず俊介が殴る。その様子にヤクザの仲間が気付く。
「あっ!アニキっ!!てめえらよくも!!ぶっ殺せ!!」
功と俊介は必死の思いでヤクザたちを殴り、蹴り、投げ飛ばす。ヤクザたちも負けじと功と俊介に殴り、蹴りと対抗する。
「・・・・もう・・無理。」
血まみれの功は座りこむ。
「・・・俺も。」
同じく血まみれの俊介は座り込む。周りは、ガラの悪い男たちが同じく血まみれで倒れていた。
「・・・あとは、沢村だ。」
俊介は立ち上がり、ふらつきながらも、沢村の部屋に向かう。功もその後に続く。俊介がドアを開けると、そこには、震えながら、ナイフをこっちに向ける沢村がいた。
「帰れ・・・!」
俊介は沢村に話しかける。
「前も言っただろ。俺たちは売人じゃない。」
「帰れ!」
「もう。大丈夫だ。売人は俺たちがやっつけたから。」
「嘘だ・・・。あいつらはまたきっとやってくる!」
「もう来ない・・。」
「・・・本当に・・・来ないのか?」
「ああ。でも・・お前が麻薬をやめなかったらやつらはまた来る。」
(・・・・親父?)
功は俊介が前と同じで、35年後の俊介と同じしゃべり方になっているのに気がつく。
「麻薬をやめる・・?でも・・・もうやめることができるか・・・今だってほしいのに」
「だったら。もう終わりだな。お前の人生。」
「・・・えっ?」
「なっ!親父!?」
「終わりなんだよ。売人は再びお前のとこに来て、麻薬をまた売りつける。そして、お前の母親も一生帰って来ない。そうだな・・・頭でも狂って、お前は人を殺すだろう。」
「・・・・。」
「・・・・親父。」
「それが今のお前の運命だ。」
「・・俺の・・運命?」
遠くでパトカーのサイレンの音が聞こえる。
「警察がもうじきここに来る。もし運命を変えたいなら、警察に相談しろ。警察ってのは、そういうの相談に乗るんだろ?功?」
「えっ・・?ああ。」
「俺たちはもう行く。決めるのはお前だ。」
功と俊介は沢村のアパートを出る。
「よかった。警察に話したみてえだな。」
こっそり沢村のアパートを見ていた俊介はつぶやく。アパートの周りはたくさんのパトカーが停まっていた。血まみれのヤクザが連行されるなか、沢村は警察官に保護されていた。
「・・・親父。なんであんなこと言えたんだ?」
「えっ?・・・いや、単に沢村に同情しただけだ。」
「同情?」
「だってさ、無理やり麻薬を売られて、母親にも見捨てられて、ひとりでびくびくしながら暮らして、大人になって連続殺人犯になるなんて・・・どんな人間も同情しちまうよ。だから・・・・そんな同情される人生なんか送ってほしくなかったんだ。」
「・・・あんた・・本当に俺の親父か?」
「またそれか?今更じゃねえか。」
「親父はそんなこと兄貴に言わなかった。」
「・・・兄貴って・・・前も言ってたよな?」
「兄貴はあの時苦しんでたのに。親父は・・・。」
「功?・・・何言ってんだ?」
「なんで、あの時・・・さっきみたいに兄貴に言ってくれなかったんだ?」
「ちょ、ちょっと功!何言ってんだ?」
「何って・・・・あれ?」
「だ、大丈夫か?」
「・・・・あんまり。」
「もうその話は忘れてくれよ。親父。」
夜、功の部屋。功が傷にばんそうこうを貼りながら、俊介に言う。
「俺にはもう一人息子がいるんだろう?」
「・・・・あんまり未来のこと知ったっら、これから楽しくないぜ。」
「あんだけ意味深なこと言われたら気になるに決まってんだろ?」
「・・・知って後悔しないか?」
「後悔?・・・・そんなにひどいのか?」
「・・・ああ。」
「でも・・俺は知りたい。どうせこの先後悔することになるなら。」
(・・・もしかしたら、今の親父がこれを知ったら未来が変わるんじゃ。)
「・・・わかった。・・・話す。」
功は深呼吸する。
「確かにあんたには、俺以外に息子がいる。名前は、水野 隼。俺の3歳上の兄貴だ。兄貴は・・・・沢村と一緒のようなもんだ。高校のとき・・麻薬に手を出した。」
「・・・麻薬に。」
「最初は誰も気づかなかった。確かに兄貴はガラの悪い連中とつるんでたけど、麻薬に手をだすようなやつじゃなかったんだ。そして、俺が高校を卒業する頃だった・・・。麻薬を吸ってることがとうとうばれて兄貴は病院に入院したんだ・・。ここまではよかったんだ。これで兄貴は元に戻る・・そう思ってたんだ・・・。」
「まさか・・・俺?」
「そう。親父が兄貴に言ってはいけないことを言ったんだ・・・。」
「・・・なんて言ったんだ?」
「〈俺はお前のことを期待していたのに・・・。期待はずれだ。お前なんかおれの息子じゃない。〉って言って親父は兄貴の顔もちゃんと見ないで、病室を出たんだ。」
「・・・俺は・・・なんてこと。」
「俺は病室に入って兄貴を慰めようとした。でも・・・・兄貴は・・・・」
功は自分の腕を握りしめる。
「どしたんだ?功?」
「・・・・・あのときの兄貴の顔・・・・・すごく怖かった。まるで今にも誰かを殺しそうな・・・。」
「・・・もしかして。隼は・・」
「・・・・殺したよ。」
「・・・・・誰を?」
「この世で一番大切な人・・・・俺の母親を。あんたの結婚相手を。」
「そっちに逃げたぞ!追え!!」
2045年、警察署の拘置所の廊下にたくさんの人が走り回って誰かをさがしている。囚人服を着た一人の男は風のような速さで逃げていた。すると男は怪しい研究室の前に来た。その部屋の扉を開け中に入る。
「な、なんだお前は!?」
中にいた研究員たちは捕まえようとするが、男はすごい力で研究員たちをはねのけ、エレベーターのような機械の前に来る。すると、物陰に隠れていた研究員の山上が震える声で男に言う。
「そ、それにさわるな!」
男は山上を見て言う
「・・・・これを動かせ。」
「な、なに!これはタイムマ」
「いいから。動かせ。死にたいのか?」
男は近くにあった椅子をふりあげる。
「わ、わかった!わかったから、殺さないでくれ!」
山上はエレベーター型の機械を起動させる。扉が開き、男は中に入る。
「さ、35年前に行くんだぞ?わ、わかってんのか?」
男はニィっと笑って言う。
「それでいい。」
山上は身震いする。扉が閉まり機械は光に包まれる。
「水野署長。囚人№5918が脱獄し、研究室のタイムマシーンを使い35年前に逃亡した模様です。どうしますか?警察官を過去に派遣したほうがよろしいのでは?」
警察官の男が大きな椅子に座った水野 俊介に訊ねる。
「送る必要などない。35年前には、もう既に一人警察官がいる。まあ、援護のためにも、数日置いてから、警察官を送れ。」
「わ、わかりました。」
男は敬礼をして、部屋を出る。俊介は椅子にもたれて、つぶやく。
「・・・・これで、未来は変わる。」
「おいしい!料理上手なんですね。滝山さん。」
滝山 夕実のアパートで夕実の手料理を食べる功。
「そうですか?・・・よかった。でも、仕事いいんですか?」
「全然大丈夫です。気にしないで下さい。俺の部下がやってくれてますから。」
「そうなんですか?じゃあ、ゆっくりしってて下さいね。」
「はい!」
すると、功の懐に入っていた携帯電話が鳴る。
「あ、すみません。ちょっと失礼します。」
功は席を立ち、トイレに入り、不機嫌そうに電話を取る。
「もしもし?親父?何、電話してんだよ!?」
「どこにいんだよ?功!こっちはお前の仕事片付けてやったんだぞ!!」
「悪い!今、ちょっと手が離せない用事があって・・。」
「どうせまた、囚人№3249滝山 夕実のアパートにいるんだろ?」
「そ、そうだ!・・・・・だから仕事してるじゃねえか。」
「仕事じゃないだろ!いいから早く帰ってこいよ!!」
「・・・わかったよ。」
功は電話を切り、トイレを出る。
「誰からだったんですか?」
「おや・・じゃなくて。部下からの電話です。どうも、部下が仕事をちゃんとしなかったみたいで。すいません。これで失礼します。」
「・・・そうなんですか。残念です。」
「すみません。でも、また来ます!」
「ええ。待ってますね。」
功は顔を真っ赤にして、夕実のアパートを出る。
「いいなあ!手料理なんて食べれて!俺はお前の仕事をしてやったのによ。」
夜、功の部屋。俊介が功にそんなことを言う。
「わ、悪かったよ。親父には、仕事手伝ってもらってほんと感謝してんだから。だから・・・明日も手伝ってほしかったり。」
「はあ!?調子の乗るなよ!俺だって大学生なんだからいろいろ忙しいんだよ!」
「そうだよな・・・。でも、俺たちもう20人以上は殺人を阻止してるよな?」
「そうだな。お前がこの時代に来て、もう4カ月以上は過ぎたからな。」
「まあ、とにかく。明日はひとりで、仕事するよ・・。」
「今日の仕事は結構ややこしかったな。」
大学の廊下を歩きながらそうつぶやく功。
「・・・・あれ?」
功は功の部屋の電気が点いていることに気がつく。
「・・・親父か?今日は忙しいって言ってたくせに。」
功は部屋の扉を開ける。
「えっ・・・?」
功の目の前にいたのは功の兄、水野 隼だった。
「おお!久しぶりだな。功。」
「・・・兄貴。なんで・・・・?どうやって・・・?」
「35年前の両親にでも会おうと思ってな。どこにいるんだ?」
「・・・脱獄したのか?」
「おふくろと親父はどこにいるんだ?」
「・・・帰れ。今すぐ。」
「なんだよ?久々に会ったのにそれはないだろう?」
「帰れ!!」
功は隼を捕まえようとするが、隼は功に拳銃を向ける。
「なっ!?」
「部屋に拳銃なんて置いてたら危ないだろう?」
「・・・返せ。」
「おふくろと親父はどこにいる?」
「知らない。兄貴・・・未来に帰ろう。」
「・・・目的を果たすまでは帰らない。」
隼は窓から外に飛び出す。
「兄貴!!」
功は窓の外を見るが、隼の姿はもう消えていた。
「目的・・・?」
「・・・・・ここに来た?」
功の部屋。俊介は驚いて立ち尽くしていた。
「・・・ああ。親父とおふくろを探してる。」
「何!?・・・じゃあ、俺はともかく、俺の未来の結婚相手が危ないんじゃ・・。」
「いや、兄貴はたぶん親父だけを狙ってくる。こんなこと言うのなんだけど・・・親父に恨みがあるからな。」
「そうだよな。でも、どうすればいいんだ?」
「ここにいればいい。兄貴はきっとまたここに来る。」
「・・・・隼がこの時代に来るなんて。投獄されてたんじゃなかったのか?」
「きっと脱獄したんだ。・・・・でも、そうするとおかしいことがある。」
「なんだ?」
「もし脱獄したのなら、35年後の警察官が追いかけてこの時代に来るはずだ。なのに、誰も来ていない。」
「・・・・もしかして。」
「何だよ?親父。」
「それがお前を35年前に送りこんだ理由なんじゃないか?」
「えっ?」
「きっとそうだ。未来の俺はお前なら、隼を止めれると思ってんだよ。」
「・・・そうなのか?なんか違う気がする。それに俺になんか兄貴を止められねえよ。」
「なんでそんなことわかるんだ?」
「あの時・・・兄貴がおふくろを殺す数日前、兄貴は〈俺なんか産まれてこなければよかった。〉って言った時、俺は何もできなかったんだ。」
(・・・まさか。)
功は突然立ち上がる。
「うわっ!どうしたんだ?功?」
「そうだ・・。あの時、兄貴は〈俺なんか産まれてこなければよかった〉って言った・・・。狙いは親父じゃない・・・。」
「それって・・・まさか・・。」
「本当の狙いは・・・兄貴を産んだおふくろだ!」
功は部屋を飛び出す。
「おい!功!」
「親父は部屋に鍵をかけて隠れてろ!!」
「この時代のおふくろの顔は知ってる。でも・・・どこにいるか・・。」
功は大学内を走り回る。
「どこにいるんだ・・・!このままじゃ・・・。」
功は必死に探しまわる。
「あいつを殺せば俺は産まれない。」
隼の目の先には、優が歩いていた。すると、隼は後ろから名前を呼ばれる。
「隼!」
その声を聞いた隼は笑い、言う。
「まさか、あんたが来るなんてな。」
隼は後ろを振り向く。後ろには俊介がいた。
「35年前の親父か・・。」
「隼、未来に帰れ。」
「未来に帰れ?悪いけど、俺はまだ帰るわけにはいかない。俺を産んだ母親を殺すまで。」
「そんなことして、何になる?」
隼は笑う。
「何になるって・・・あんたのためだよ。」
「俺の・・ため?」
「期待はずれの息子が産まれてこないようにするためだ。」
「・・・・。」
「これこそ親父の望んだ未来だろ?だから、これ以上邪魔するな。」
「隼・・・。俺のせいで・・・。」
俊介は隼をまっすぐに見て言う。
「・・・俺を殺せ。」
「何?」
「お前を追い込んだのは未来の俺の言葉だ。だから・・・あの人は殺さないでくれ。その代わり、俺を殺せ。」
「・・・そうか。わかった。・・・望み通り殺してやるよ!」
隼は拳銃を俊介に向け、引き金を引こうとした時、功が叫ぶ。
「親父!」
功が隼の腕を蹴る。隼が持っていた拳銃は蹴り飛ばされる。
「くっ!・・・功。お前!」
「親父!大丈夫か!?」
「ああ!でも隼が」
「絶対殺してやる!」
隼は背の高い女の人のところへ走ろうとする。
「やめろっ!兄貴!」
女の人は隼の方を振り向く。
「えっ・・・?」
俊介は叫ぶ。
「優!!」
次の瞬間、一発の銃声が響き、隼が倒れる。
「ぐ・・・くそ・・・!」
隼の肩から血が流れ出る。拳銃を構えた男が言う。
「ギリギリ間に合ったみたいだな。」
拳銃を構えた男を見て功は驚く。
「お、小川!?」
「よう!久しぶり!功!」
小川の後ろから数人の警察官が出てきて、隼を取り抑える。
「や、やめろ!!離せ!俺はまだ・・」
俊介は優のところへ駆け寄る。
「優!」
「・・俊介。どうなってんの?」
「これにはいろいろあってだなあ・・。」
小川は功に訊ねる。
「もしかして・・あれって35年前の水野署長?」
「ああ。」
「全然似てねえ・・。」
「本当に。でも、なんでわかったんだろ。親父。」
「何が?」
「俺は、おふくろの事、親父には一言も言ってねえんだ。なのに。親父はおふくろの居場所がわかった。」
小川はため息をつく。
「そりゃなあ、お前、自分の結婚相手ぐらいわかるに決まってんだろ。」
「・・・そうなのか?」
取り押さえられている隼は叫ぶ。
「離せ!俺は産まれちゃだめなんだよ!!俺なんかいないほうがいいんだよっ!!親父だって・・・おふくろだって、俺が産まれてくることは望んじゃいなかったんだよ!!」
功はその言葉を聞いて驚く。
「そんなはずねえよ。おふくろは兄貴の事を愛して」
「ちがう!おふくろは両手を俺の前に差し出して、首を絞めて、殺そうとしたんだよっ!だから、俺は殺したんだ!」
「そんな・・・そんなはずない。」
「それって、違うと思う。」
功は驚いて声がした方を振り向くと優がいた。
「それ・・・抱きしめようとしたのよ。」
「・・えっ?」
功と隼はぽかんと口を開けて、優を見る。
「だって息子を嫌う母親なんていないし。それに・・・」
優は隼に微笑む。
「もし、私があなたの母親なら、絶対、抱きしめる。」
功はつぶやく。
「・・・おふくろ。」
隼は泣き崩れる。
「俺・・・・なんて・・・こと・・。」
泣き崩れる隼の前に俊介が来て言う。
「・・・未来は変わる。」
「えっ?」
隼は俊介を見る。
「俺が未来を変える。もう・・・最低の父親なんかでいたくねえからな。」
その言葉を聞いて功は気付く。
(これだったんだ・・・!親父が俺を35年前に送った理由・・。未来を変えるため。親父は未来を変えたかったんだ・・・!)
隼は俊介をまっすぐに見て訊ねる。
「・・・俺は、親父の息子でいていいのか?」
「あたりまえだ!お前は期待はずれなんかじゃない!俺の立派な息子だ!」
隼は涙を流す。
「そろそろ、ここも引き上げねえと。」
小川が時計を見て、つぶやく。功は訊ねる。
「もう、未来に帰んのか?」
「ああ。それから、功、お前も帰るんだよ。」
「えっ!?俺も?」
「任務は終了だって。ほら、帰ろうぜ。」
「でも・・・」
功は俊介を見る。俊介は小川に言う。
「小川・・さんだっけ?」
「えっ?・・あ、はい!」
「悪いんだけど、こいつ、まだやり残した任務があんだよ。なあ、功!」
「やり残した任務って・・・・?なんだよ?親父。」
「はあ?忘れたのか?囚人№3249滝川 夕実だよ。」
「あっ!!」
「なんだ?まだ任務があんのか?」
「・・・ああ。悪い小川。まだ、帰れそうにねえや。」
そう言って功はにっと笑った。
「遠くに行く!?どういうことなんですか?水野さん!」
夕実のアパート。功は夕実にそう訊ねられていた。
「その・・・仕事で、転勤になってしまって・・。」
「どこなんですか?遠くってどこなんですか?」
「えっと・・・。」
「北海道とかですか?」
「いや・・・もうちょっと遠いかな・・。」
「まさか・・海外ですか?」
「・・・そんな感じです。
「そんな・・。じゃあもう一生会えないんじゃあ・・。」
「そ、そんなことありません!滝山さん!」
「えっ?」
「俺はそのうちあなたの前に再び現れます。」
「本当に!?」
「でも・・・それには条件があるんです。」
「・・・条件?」
「ええ。あなたが・・・犯罪を犯さないことです。」
「そんな・・・大丈夫ですよ。私なら。」
「そんなことないですよ!人生いつ何が起こるかわからないんですよ!もしかしたら、詐欺にハマってしまったり・・・。」
「詐欺なんか・・ハマりませんよ。」
「本当ですか?」
「ええ。絶対ハマりません。だから・・・また私の前に現れてくださいね。何年先でも、私はあなたのことを待っていますから。」
「滝山さん・・・。俺・・・」
「何ですか?」
「い、いえ、これで失礼します」
功は扉の前まで行って立ち止まる。
「あ、あと、殺人もだめですからね。」
夕実は笑う。
「あたりまえです。そんなことしませんよ。」
「・・・よかった。」
功はそうつぶやいて、部屋を出る。
「・・・これでよかったのかなあ。俺のもろタイプだったのに・・・。」
功の部屋。功がため息をつきながら、そんな言葉をもらす。俊介はめんどうくさそうに答える。
「これで、よかったんだよ。あの人もこれで、殺人犯にならずにすんだんだし。」
「そうだけど。・・・でも、結局、阻止できてない殺人犯もまだいるのが納得いかねえ。」
「・・・・殺人はなくならないんじゃねえのか?」
「え?」
「いつの時代も必ず殺人はある。俺たち人間が生きているかぎり、殺人はなくならないんじゃねえの?」
「やっぱ・・・そうなのか。」
「タイムマシーンができた時代だって、結局は殺人を防ぐことはできなかったんだな。」
「ああ。」
功は部屋を見わたす。
「この部屋ともお別れだな・・。」
功は俊介を見る。
「なあ・・・親父。この前言ったこと実現しろよ。」
「この前言ったこと?」
「兄貴に・・・〈俺が未来を変える〉って言っただろう。俺はたぶん・・・未来を変えるためにこの時代に来たんだ。だから」
「当たり前じゃねえか。俺は、未来を変えるよ。必ず。だから安心して、未来に帰れ。功。あの、エレベーターみたいなタイムマシーンの扉が開いた時、そこはきっとお前の知らない未来だ。」
「・・・親父。」
「ほら、行こうぜ。」
功と俊介は部屋を出る。
大学の庭の林の中、エレベーター型タイムマシーンの扉が開く。
「動かし方はわかんのか?」
「ああ。小川に教えてもらったから、なんとかなる。じゃあ・・親父。」
「そんな顔すんな。お前はすぐに未来で会んえだから。」
「そ、そうだよな。じゃあ・・・またあとで。」
「ああ。またあとで。」
扉が閉まりかけたとき、俊介が叫ぶ。
「あっ!前は言わなかったけど、俺が警察官になろうとしたきっかけは」
「えっ!?」
扉が閉まる。
「な、なんだよ・・。」
タイムマシーンはものすごい揺れ、功は後ろに突き飛ばされる。
「うわっ!またか」
また揺れ、前に突き飛ばされる。
「痛てええ!」
再び後ろに突き飛ばされる。
「なんなんだよ・・もう!」
揺れがなくなり静かになる。功は俊介の言葉を思い出す。
「エレベーターみたいなタイムマシーンの扉が開いた時、そこはきっとお前の知らない未来だ。」
功は扉を見つめる。チーンと音がなり、扉が開く。