道咲く花に歩みを止めて
「兄様。経過を教えて下さいまし」
「……どっちが本当のお前なんだ?」
「そう言われましても、」
どっちも私だとしか。王子と御令嬢をくっつくけるのに必死なことには変わりないし。御令嬢が固定ルートに入るまでは誰と恋に落ちたのか分からず、きっかけ作りという名の嫌がらせに全力を尽くしていたけど。
「まあいい。今日は──」
御令嬢の支援をすると宣言したはいいものの、兄様から「なら一月は大人しくしてくれ」と言われて泣く泣く外出を控えていた。
茶会も夜会も出ておらず、奇しくもゲーム内の悪役令嬢と同じことになっている。彼女と違って社交界なんて煩わしい私は気楽なものではあるけどね。将来のために必要とは思うも面倒なものは面倒だ。
でもゲームのストーリーは終わったんだよなあ。ハッピーエンドのスチル、見れないと分かっていても生で見たかった。どれも最高に綺麗だったのに。
「あらあら、もう少し殿下は押しにかかるべきですわね!」
家でやれることは高が知れているので、試しに御令嬢達のその後を兄様に訊ねてみた。渋ってはいたものの、当たり障りない話ならと了承を貰ったからこれ幸いと聞きまくっている。
「でもこの焦れったさが二人のいい所なのだけど」
じれじれあまあまの砂糖を吐くような恋愛が二人のデフォルトだ。是非とも末長く爆発してほしい。そして私を身悶えさせて。いや今もそんな感じだったっけ。
「そういえば知っているか?」
「……? なんでございましょう?」
「御令嬢を牽制するために、諸公が王太子妃候補を挙げ始めたぞ」
あーそれかー。
予想よりは遅く来たかな。支援もそうだけど、目下はこれの処理もしないといけない。
どう退場願いますかね。穏便に事を運ばないと御令嬢の身に危険が及んでしまうし。うーん。
「その中にお前も入っている」
うん?
「差し支えなければもう一度言って下さっても?」
「王太子妃候補にお前も挙がっている」
「は?」
ちょっと待ってよなんでさ!
あの連中は令息令嬢から私と王子にあった話を聞いてないの!?
どう考えても上手くいかないでしょうが!
……確かに父様は侯爵で、その令嬢の私とはまだ身分が釣り合う。でもそれだけしかないでしょうに。
と、いうか!
そんなことになったら私がしようとすることも「自分のために他を蹴落とした」としか見えなさすぎる!
なんで私に婚約者がいないんだ。いや分かってる。父様としては王太子妃が狙いだって。
今から相手を見繕うなんて無理。私の悪評が壁になって貰い手がいそうもない。
やだこの八方塞がり。
「仮にも王太子妃候補にと言われているのに浮かない顔だな」
「分かっていながらその言葉は酷いと思います」
不敵な笑みを向けないで下さい。とてもときめますが、こちとら切実に悩んでいるのです。
本当さ、最近の兄様は私をからかいすぎだと思う。
この間なんて私が集めている小鳥グッズの中にスライムを忍ばせていた。空気中の魔力さえあれば何もいらない至って大人しい種だって聞かれてもねぇ……。
今じゃ癒やしのペットだけどさ、ジェリー君。
「どうするつもりだ?」
探るような瞳。
その真摯な眼差しが昔から好きで、ちょっと羨ましいのは内緒。
「候補の御令嬢を抑えつつ、私を貰って下さる殿方がいるか調べてみようと思いますわ」
問題が山積みだけど現状はそれしかないんだよね。頑張ろう。そして今日はジェリー君に癒やされよう。
「それならいい奴がいるぞ」
「…………え」
ナ、ナンダッテー!?
「大丈夫なんです? 私の悪評知ってます? そんな風変わりな方います?」
正気かその人。自分で言うのもアレだけど私かなり瑕がついてるよ?
同格ならともかく、王子に散々言われた私はガラスなら木っ端微塵の品物でしょ?
「丁度所用で今日来ることになっているな。茶でも振る舞うといい」
ええええええぇぇ?
いくらなんでも急すぎます兄様。
そりゃあ突然の来客にも対応できるよう鍛えられてるとはいえ、いきなり面接が始まるようなものじゃないですかー!
もう全部放り投げたい。王子と御令嬢の恋模様をキャッキャウフフと眺めたい。割と切実に。