第1話『戦場学園』-9
<ハルシネ>ターゲットに五秒間、幻覚を見せます。
たった五秒。少しでも時間は稼げるか……。
でも効果、幻覚って……どっちに使えばいいんだ?
シャッコウに幻覚を使ってもデバイサーが「あっち行け」って指示を出せば俺たちに突っ込んでくるよな?
あのイカレたセンパイに幻覚をかけても、シャッコウが自分で判断して俺たちに突っ込んでくるよな?
「結局、使えねぇ……」
用具室が溶けだした。学園の校門から出るにはグラウンドを抜けるしかない。他に何も障害物がないので確実に襲われる。
「ねえ、このガードアプリ使えば、たぶん安全に移動できるかも」
「いや、あいつの足を止めないと結局、追いつかれる」
五分だけ安全を保障されても、あまり意味がない。すべてを薙ぎ倒して追いつかれ、最後に焼き殺されて終わりだ。
「逃がしてくれそうもないわね……」
「ああ、なんとか一撃かまさないと時間は稼げない」
どうしても攻撃系が必要だ。五十メートル以上離れてしまえばマップからお互いの名前が消える。追跡の危険性が大幅に減る。
とにかく別のアプリを検索。やはり一ブロックしか出てこない。
<メクリ>アプリ効果。メクリを出現させることができます。スキル有り。
新しい単語が出てきた。スキルってなんだ?
「ってか、メクリってなんだ?」
「知らないわよ、ためしにインストールしてみたら?」
情報があまりに少ない。分からないことが多すぎる。
とりあえず<メクリ>をインストール開始。デバイスの右側に表示されているアイコンに六十というカウントが出た。インストールまでにあと六十秒。
とはいえ、状況はのんびり一分も待ってくれない。
ここにいても焼き殺される。飛び出すしかない。
「どこに行っても地獄かよ!」
「異世界でも行く?」
「断る!」
校門めがけて二人で走り出す。
グラウンドを駆けている途中でデバイスが反応した。とりあえず無事にインストール完了。
今まで空欄だったデバイスの中央部分に、インストールされた<メクリ>のアイコンが移動した。
デバイスの右側で検索して、使用可能になったら真ん中にアプリが移動する。
ようやく基本システムが分かってきた。
デバイスの画面中央に移動したアプリに光が灯り、上に表示されていた五ブロックという文字が四ブロックに減った。
数字が減った?
まさか、使えるアプリって最大五ブロックなのか?
「ヨルコ、デバイス見せてくれ」
走りながら覗き込む。
さっきインストールしていたのは<火薬>で二。<探索>で一。<ガード>で二。これで合計五ブロック。
ヨルコのデバイス中央には『ゼロ』という表示があった。
「もうやってみたけど、次のアプリがインストールできないの」
「やっぱ、五ブロックが限界か!」
先に説明してくれよ、あの銀色悪魔!
「とにかくやるしかない!」
シャッコウが再度、息を吸い込むモーション。次のブレスが来る。
もうどうにもならない。
攻撃アプリと信じて、インストールしたばかりの<メクリ>をタッチ。
「…………ん?」
普通にタッチしたが、反応しない。
ちゃんとインストールしたはずなのに発動しない。どうなってんだ、このデバイス。
「くっそ、動けよ、メクリィィィーっ!」
叫びと共にアイコンを拳で叩く。カチンっと引き金を引いたような金属音がした。
光。
それは光の爆発だった。
デバイスから大量の光が周囲に溢れ、その場にいた全員が足を止める。あのシャッコウですら動きを止めた。