第1話『戦場学園』-8
「そのあとは?」
「デバイサーが百人もいるんだろ? 街中、戦場だ」
「ファミレスでまったりクリームソーダとか欲しいわね」
「生き残ったら、おごってやる!」
「弟とアサヒの分も!」
「当然!」
さらに接近してくるシャッコウ。踏み潰される校舎。やむことのない誰かの悲鳴。
そのまま図書館を脱出し、小さな花壇を飛び越えて、グラウンドを突っ走る。
「まだ追っかけて来るのかよ」
「あっちのデバイスにもあたしたちの名前が表示されているんでしょ。五十メートル以内だと隠れても居場所バレるし」
生き残りサバイバルが基本ルール、たまたま近くにいた俺たちを最初のターゲットに選んだってことか。
暴れ続けるレッドドラゴン。その頭上に誰かがいた。同じ学園の白い制服。
名前だけは分かる。デバイサー、赤尾キバ。
なにか悩んでいた表情のヨルコが顔を上げた。
「そうだわ、あの名前どこかで見たことあると思って……」
「どうした?」
「あの人、毎年、成績最優秀で表彰されてた三年生よ」
「最悪のセンパイだな」
ドラゴンの頭上で悠々と腕を組み、俺たちを見下ろす男。
そいつが突然、叫んだ。
「遠慮はいらねえ。さァ、吹き飛べ、ザコどもがァァァーッ!」
成績最優秀が最高にキレている。勉強しすぎてバカになったか。
「焼き尽くせ、シャッコウ! お前らの死に様なんざ、全部ナレーションベースで片付けてやらァーッ」
「デタラメだぞ、あのデバイサー……」
「ダイジェストでカットされるモブじゃないのよ、あたしたちは!」
「同感だ!」
グラウンドに設置された大型の用具室を盾にして、吐き出された炎をわずか数秒でも耐え凌ぐ。
そこへ容赦なくキバの絶叫が降ってきた。
「CM挟んで死んでろ、ザッコがァァァーッ!」
放課後、部活中だった運動部の生徒がグラウンドから逃げ出し一斉に散っていく。
「やりたい放題かよ」
なんとか呼吸を整えつつ、アプリの検索をかける。
「レンガ、これ見て」
ヨルコが自分のデバイスを指さした。
表示されていたのは二つのアプリ。
<探索>人物の探索ができます。一ブロック。
<ガード>五分間あらゆる攻撃を防御できます。二ブロック。
「防御タイプに探索アプリ、すげー助かる!」
「あたしのデバイス、サポート系ばっかりね」
「俺のデバイスよりマシだ」
ヨルコがさっそくインストールしていると、その指先がピタリと止まった。
「リキャストに一時間もかかるわね……」
聞き慣れない単語だった。
「リキャストってなんだ?」
「発動したあとの待機時間ってことみたい。デバイス右側の検索で、アプリが表示されてるでしょ。そのアイコンをタッチしたら、効果メッセージと一緒にリキャスト時間が画面の下に出るの」
俺も適当にアプリをインストールしようとアイコンをタッチすると、メッセージが表示された。
「同じアプリの連続使用はできないのか。じゃあ、さっきの火薬アプリも」
「今、リキャスト中。こっちも一時間は使用不可ね」
同時に別のメッセージが表示された。
『インストール完了までに一分かかります』
他のアプリをタッチすると同様のコメントが流れた。どうやらすべてのアプリ共通で、インストールまでに一分かかるらしい。
「なんか出てこいよ、使えそうなアプリ……」
<導火線>アプリ効果。導火線です。
着火する物がない。ただのヒモ。
「意味ねーよ!」
点火できなきゃ使えない。