第1話『戦場学園』-7
姿が見えない。小さいあいつはどこ行った。
「デバイスに表示されてないわね」
自分のデバイスを確認。同じくアサヒの名前がない。
はぐれた。さきほどの爆風でアサヒだけかなり吹き飛ばされたらしい。
「五十メートル以上離れたってことか……」
開始そうそうゲームオーバーとか無しだろ、普通。
「ゲームバランス、最悪だな!」
ふらつきながらも立ち上がり、ヨルコを助け起こす。
「走れるか?」
「レンガより体力に自信あるわよ」
「上等!」
ただ無事を祈るしかない。
まだアサヒはそれほど遠くには行っていないはず。デバイサーの位置はこのデバイスで把握できるから、気絶していても近くに倒れていれば確認できる。
とにかくあのドラゴンから距離をとる。
二人で走りながらシャッコウを振り返る。あれほどの威力だったのに、さきほどの爆発はどうやらノーダメージだったらしい。平気な顔してまた動きだした。
つまり。
「アサヒを見つけて、あのドラゴンをなんとかして、他のデバイサーたちに勝って、最後に、ええっとあの悪魔」
「銀色悪魔、シルバーエンカウント。……とか名乗っていたわね」
「そいつの所に行けってか。ノルマ多すぎだろ」
「ごめん、もうひとつ」
ヨルコの表情が変わった。絞り出すようにつぶやく。
「地祀・キリル・ユウト。この学園に弟がいるの。まだ十歳なのよ」
「小学生か」
同じ学園。多少の距離はあるが、小、中、高、と校舎は同じ敷地内に建てられている。アサヒを探しつつ、弟の探索も必要になった。
この状況で小さな子供が……。悪い予感が脳裏にへばりつく。
「大丈夫よね……」
アサヒと弟のユウト。一気に不安材料が増えてヨルコの表情が曇る。
考えろ、考えろ、考えろ。今この状況で何ができる?
「ちょっと待て、ケータイ使えるか?」
色々ありすぎて簡単なことを忘れていた。
制服のポケットから、お互いスマホを取り出してアサヒと弟に連絡をつける。
「ダメみたい。つながらない」
「こっちもだ。そもそも電波が……圏外?」
これじゃメールもラインも無理だ。あの銀色悪魔、この街に何かやりやがったな。
いきなりスマホがゴミになった。
手元にあるのはデバイスのみ。少しでもプラスにつながる何かを引っ張り出さなきゃいけない。
ロクに使い方も分からないが、もう一度デバイスの画面を見つめ直す。
三分割の左側。マップ。
全体状況を確認できるだけなのか?
ためしにシャッコウの名前をタッチ。
「おっと」
相手のアプリ情報が出てきた。
『シャッコウ・五ブロックアプリ』
さっきの火薬が二ブロック。あのドラゴンが五……。
「数字が大きくなるほど強力ってルールなのか?」
「うん、あたしもそう思う」
なんか強そうだとは思っていたが、シャッコウ、五ブロックかよ。
とんでもない奴が最初の相手だが、まさかラスボスがいきなり登場なんてシナリオはないだろう。ないよな? こっちはゴミアプリしか持ってないんだ。
「飛ぶぞ、転ぶなよ!」
「体育会系女子を甘く見ないでよ!」
倒れた本棚を踏み台にして、崩れた図書館の壁を飛び越える。
そこでふと、ヨルコの制服を見て気がついた。
俺たちの制服の襟元には校章が張り付いている。まるで何かを隠すようにデザインされた銀の柱。よくよく見れば封印じみた結界にも見える。
何かを封じていたのか? この学園に?
ホント恨むぜ、会ったこともない創設者。あんたはいったいどんだけ危険なバケモノを隠していたんだ?
「まずは学園を出る!」