最終話『デバイス/デバイサー』
ぶざまに泣いている場合じゃない。
「ああ、そうだな」
立ち上がる。まだそれだけの気力が残っていたらしい。
まだ終わっていない。刑事さんとの約束を果たす。
俺たちはそのまま駅の近くにある病院へと向かった。
「くっそ……」
予想はしていた。街中があの状態だ。
もしかしたら病院も被害にあっていると感じていた。
崩壊した建物。
積み上がったガレキの山。
動かない救急車。医者のいない病院。
「可能性はゼロじゃない」
いつだってそうだ。俺たちは絶望的な状況でも勝利を掴んできた。
ただし、現実、自力で娘さんを探すのは困難だった。
「使えるアプリ……ヨルコ、<探索>使えるか?」
「やってみる」
ヨルコの探索で『青山ユナ』と入力。
「お願い、応えて……」
反応した。ユナが近くにいる。
おおまかな方向は分かるが正確な位置までは把握できない。
すぐそばにいるはずなのに……。
この状況で人間の位置を特定できるアプリ…………。
ひらめきは早かった。
すかさずインストール開始。
デバイスをタッチ。発動させる。
「頼むぜ、<サーモグラフィー>」
これなら周囲の温度を測定できる。
再び反応。人間の体温を探知。その場所が明確にマップに表示された。
俺とヨルコ、ユウトの三人でガレキを取り除く。
さっきのバトルでメクリを削除してしまったので、現在リキャスト中。
ブレイクなら、たった一分で復活するのに、デリートするとリキャスト扱いで一時間も封印される。
そしてなんとかガレキの山から救い出した少女。
青山ユナ。年はユウトより少し下くらいだろう。
ふと、遠くで救急車のサイレンが聞こえた。
あの銀色悪魔が消えて結界が晴れたんだ。街の外からレスキューが来てくれた。
これなら生き残った人たちも助かるはず。俺たちも無事に脱出できる。
「お兄ちゃん、誰?」
「心配ない。俺たちは……お父さんの仲間だ」
「行きましょう、もう大丈夫だから」
ユナの手を引いて歩きだす。
「ヒールのリキャスト解除っていつ? まずこの子のケガを……」
「もうちょい待って。それよりあんたも重傷だからね。分かってるの?」
「……すんません」
と、デバイスが反応した。
右側の検索ページに表示されるアプリ。
アプリ名。
<アサヒ>アプリ効果。照喜名アサヒ。ゼロブロック。
ありえない。自分の目を疑った。
指先が震える。
このアプリに触っていいのか?
本当に発動していいのか?
銀色悪魔が最後に言っていた『プレゼント』。
「レンガ……」
ヨルコがうなずいた。見ていても何も分からない。
やるしかない。
<アサヒ>をインストール。発動。
光が溢れた。まぶしいほどの輝き。
光が集まり人の形となって具現化する。
帰ってきた。還ってきた。
「あれー、気のせいかな。私さっきまでペッタンコじゃなかった?」
小さなアサヒの小さな声。
「アサヒの胸がペッタンコなのは昔からだろ」
「うわ、ひどいよそれ。傷つくよ、レンガ君」
あの悪魔……とんでもねえプレゼントを残していきやがった。
「ん? 放課後になんかあったよね? 微妙に今日の記憶が曖昧かも……」
「アサヒ。まー落ち着け」
本物の肉体は失っちまったが……。
ここにいる。今、アサヒがここにいる。
「今日の物語を語ってやるよ。驚くなよ、お前」
「ありゃー、ヨルコちゃん。どうしたの制服、ボロボロだよー」
「あとで説明してあげる」
状況が理解できないのはユナも同じ。不思議そうに俺の顔を見上げる小さな少女。その小さな手を引きながら。
「ありゃ? どうしたの、レンガ君。半ベソ?」
「ちげーよ、ボケ。泣いてねーし。まあ聞けや」
俺たちは歩きだす。
「この物語にはな、マンガが好きな高校生が登場してさ…………」
そして俺は情けないほどの泣き顔で、とあるデバイサーの一日を語りはじめた。
デバイス/デバイサー END




