第9話『牙、牙、牙』-2
分厚い超巨大コミックが振り下ろされた。
俺とメクリの声が重なる。
奥義、発動。
『コミック・フェス!』
「無駄だ! まだ理解していないようだな。オレにはあらゆる攻撃を回避するスキルがあるってことを! 焼き尽くせ、シャッコウ!」
「分かってないのはお前のほうさ。ターゲットはこっちだ!」
巨大な本がキバのバリアに弾かれ、そのままシャッコウの頭に直撃する。
圧倒的オーバーキル。
最高の一撃がシャッコウの頭部を砕き、首を裂き、胴体を叩き潰し、尻尾の先まで木っ端微塵に粉砕する。地面に巨大なクレーターをつくって吹っ飛ぶキバ。
飛び散ったシャッコウの鋭い牙が足下に転がる。
<アプリ/ブレイク>
同時に、最後に吐き出されたシャッコウの炎を全身に浴びて、メクリが燃え尽きる。
<アプリ/ブレイク>
両者、ブレイク。
撃破後、すぐにアプリをすべてデリート。デリート。デリート。次のためにアプリを三種類インストール開始。
俺の戦略は終わらない。
落下して地べたに張りついていたキバが、顔中を血だらけにして笑った。
「弱い奴が弱いくせに、強いフリして強くなる。上等だなァ、おい。シャッコウ倒すとは大したモンだ。たった九十秒のブレイクだが、認めてやるよ。お前の力をッ!」
ようやく五ブロックのブレイクタイムが分かった。この九十秒ですべてを決める。
「やってくれんなァ、このザコがァァァーッ!」
キバが右腕を見せた。
あれは刑事さんのデバイス。
「オレたちはよォ……嵐の中に投げ込まれたようなモンだ。そしてお前らゴミはちりぢりに潰されて終わる。勝ち目なんざ、ねえんだよ」
すでにアプリをインストールしてあったのか、キバが右腕のデバイスをタッチ。
「出てこい、ザラ!」
発動した瞬間、見上げるほどの大きな影が浮かび上がった。
青い眼、青い翼、青いウロコ。
ブルードラゴン、ザラ。五ブロック。
さらに出現した五ブロックのドラゴン。
「たとえその嵐の中でも、輝けるヤツが本物だろうがあああーっ!」
ありったけの言葉を吐き出す。
こっちのアプリはブレイク中とリキャスト中。もう同じ戦法は使えない。
「やっちまえ、ザラ」
ブルードラゴンの翼が大きく羽ばたいた。
予想以上の強風に耐えきれず身体が浮いた。あえなく吹っ飛ばされて数回コンクリートでバウンドを繰り返す。
聞き慣れない、何かが砕ける音がした。
左腕。デバイスの画面にヒビが走っている。
そっとデバイスに触れる。反応した。
「終わってねえよ、キバ」
俺はデバイスを見せつけるように高く掲げた。たとえヒビだらけでも、このデバイスは次の指示を待っている。
「俺のデバイスは死んでない!」
「言ってろ、一ブロックデバイサー。シャッコウ潰したくらいで勝ったつもりか、ザコがァァァーッ!」
ザラが飛んだ。
あの巨体を揺らし、上空から俺目がけて急降下してくる。
このままでは喰われる。あの人のように。
「俺はもう逆転不可能ってか? 上等だよ。この身がどうなろうと構やしねえ。この俺がお前を倒す。壁無レンガがお前を倒す。もう次のページはめくらせない!」
巨大なブルードラゴンが目前に迫る。
「ハッ、この状況でなァに言ってんだ」
ザラの牙。開く口。突風で再び足が浮いた。
容赦なく噛みつくドラゴン。俺の腹に牙が食い込む。
そして簡単に、噛みちぎられた。
「ホント最ッ高だなァ、ザコがッ!」
吐き捨てられた俺の下半身。足がない。
歩けない。俺はもう歩けない。
喰い残された上半身。
思い出したように痛覚が叫びだした。
「ああああ」
痛い痛い痛い。
なにもかも全部、全身、すべてが痛い。意識が飛びそうになる。
自身から溢れた大量の出血。
目の前で五本目の血柱が吹き上がった。俺の血を吸った槍が天高く空に消える。




