第9話『牙、牙、牙』-1
メクリだけを残し他のアプリを総入れ替えする。
こいつを倒すために練り上げた戦略をためす時がきた。
「そろそろケリつけようぜェェェーッ!」
相手のテンションと裏腹に、とにかく冷静であることを自分に言い聞かせる。
「ヨルコ、デバイスのアプリ全部これに入れ替えてくれ」
短くうなずく。
「リキャストはどうなってる?」
「あと数分ね、ギリ間に合うと思う」
数メートル後方、アサヒが震えながら後ずさりをはじめた。
「私、こんなバケモノと戦えるアプリなんてないよう……」
「……僕の、僕の黒猫さんなら!」
ユウトがデバイスを叩くが、アプリは発動しない。
「さっきの猫さん、リキャスト中みたいね。ユウトも下がって」
「お姉ちゃん、でも……あのお兄ちゃん一人じゃ……」
「おいおい、なんだお前ら、今さらどーしたァ? テンション落ちてっぞ! 吸い込んだ息は吐き出したか? 次はハラワタ引きずり出してやっぞォーッ!」
「レンガは人の重さを知っている。命の重さを知っている。その重さを知ってるあいつが、あんたに負けるわけがない!」
巨大なレッドドラゴンを前にデバイスを構え、俺は立つ。
「全員下がってろ。俺とメクリでこのバケモノをぶっ飛ばす!」
「いい度胸だ。なァ、一ブロック。死ぬと分かっていて、なぜ戦う?」
「ガキの頃からマンガ読み続けて染み込んでるんだよ。守る仲間がここにいる。悪い奴がここにいる。そして俺がここにいる。戦う意味がここにある!」
「最ッ高だな、お前。だったら熱血気取って死んでこいやァーッ!」
迫るシャッコウ。
本当にこの作戦で正しいのか。
たった一手の失敗で俺たちは皆殺しにされる。
考えろ、考えろ、考えろ。
どう戦う?
どのアプリを使う?
見ているだけじゃ勝てない。読んでるだけじゃ倒せない。知恵を絞り出せ。
リセットは効かない。死んだら終わりの一発勝負。
さあ、人生を賭けてページをめくろうぜ。
「答えを出せよ、壁無レンガァァァーッ!」
「お前のアプリは強い。だがお前は知らないだろう、種類によって同じアプリがコピーできるってことを!」
これが俺の答え。
一ブロックからはじまった、俺が選んだ最強のアプリ連鎖。
「メクリで一!」
たとえ小さな二の段でも、アプリが三つで効果は一変する。
「行くぜ、かけ算三発! 一かけ二で二ブロック!」
メクリの攻撃力が上がる。
「二かけ二で四ブロック!」
まだ上がる。
「四かけ二で八ブロック!」
仕上げのアプリ。
「これでラスト! <奥義>発動!」
さらに三倍。
一、二、四、八、二十四。
これでメクリの攻撃力は二十四ブロックに相当する。
空に巨大コミックが出現した。メクリが高く高く跳躍する。
「シャッコウが最強の五ブロックだってか? 言ってろ、ザコが!」
アイコンをタッチ。
「最高のフェスにしようぜえええーっ!」
「イエス! マァイ、トリガアアアァァァーッ!」




