第8話『暗闇と声』-3
「メクリ!」
「行きます!」
たとえ音が聞こえていなくてもメクリは反応した。
すぐそばを突風が吹き荒れた。
瞬時に相手デバイサーに接近して、デバイスを直接、叩き割る。
そしてマップからミオンの名前が消えた。これでリタイアだ。
「お前が負けた理由は簡単だ。もっとマンガを読め」
武器を失ったら、もう戦えない。
泣きながらミオンは逃げて行った。追うつもりもない。
「レンガ君、目が……」
「ヨルコが無事なら回復できる。とにかく地上に上がらないと」
片目でデバイスを調べる。
「もっと攻撃に特化したアプリがあれば……」
もしくはコピーによって火力を大幅に増大できるようなアプリ……。
片目を失って、脳が異常なスピードで回転している。
「待てよ……あれなら使えるか?」
可能性があるとすれば、これしかない。
俺は<かけ算>アプリに触れた。タッチしたまま数秒。アイコンの下にいつもと違うメッセージが表示される。
『コピーしますか?』
途端に可能性が見えた。
「レンガ君、階段あったよ!」
これでなんとか地上に行ける。
おぼつかない足取り。ふらつきながら階段を上がる。
地上の光を感じた瞬間、四本目の血の柱が上がった。
もうすぐ封印が解ける。
「また誰かが死んだってことかよ……」
血の槍が空に消える。多少、距離が離れていた。
「ヨルコ……」
無事を祈るしかない。
とにかく階段を上がり地上に出た。
「さっきの場所、どこだ」
「レンガ君、あっち!」
崩れた足場、曖昧な距離感。走るたび転びそうになる。
先に見つけたのは弟のユウト。ケガでもしたのか倒れている。
「大丈夫か!」
なんとか合流できた。
ユウトを抱き起こす。
「僕は大丈夫。ちょっと転んだだけ。あっちでお姉ちゃんが倒れて……」
そこへ。
来た、奴が来た。
マップに飛び込んでくる奴の名前。
「ユウト、下がってろ!」
一気にあの緊張感が背中に走った。
あいつの名前を見た瞬間、俺は駆け出した。
「ヨルコ!」
「邪魔だァ、サコがァァァーッ!」
このままでは巻き込まれる。
とっさにヨルコを抱きかかえシャッコウから離れる。
「しっかりしろ! 気絶してる場合じゃねえ!」
「あれ、レンガ?」
凄まじい衝撃と俺の声に、ようやくヨルコが目を開けた。
「もしかして、ヤバイ状況かしら?」
「正解だ」
見上げた先に、レッドドラゴン。
何度見ても圧倒的な存在感。
「やっと見つけたぜいッ! 壁無レンガァァァーッ!」




