第7話『読者モデル』-3
興奮しすぎてヨダレ飛ばしながら叫ぶ読者モデル。きたねえ絵面だ……。
俺はそっと心にモザイクをかけた。
とはいえ、相手が五ブロックなら優秀なスキルを持っている危険性がある。
油断はできない。一手間違えると全滅の恐れがある。
どう対処しようか思案していると、突然マップに近づいてくる名前があった。
思わず我が目を疑った。
地祀・キリル・ユウト。
ヨルコも同時に気がついた。
「ユウト!」
そして読モも気がついた。
全員の視線がそちらを向く。
距離的にはコウのほうが近い。断然、近い。
「お姉ちゃん!」
声を聞き、汚い読者モデルが笑った。
すかさず駆け寄ると、コウが迷わず小学生を羽交い締めにする。
「おおーう、知り合いか、このガキ? いいねえ、いいねえ!」
さすがに単純な力では勝てない。ユウトが暴れても小さい子供では大人に敵わない。
メクリが動こうとすると、コウが叫んだ。
「動くなよ、そこのアプリ。俺のアプリ<コール>の『スキル』は、五秒間触れたものを消滅させることができる能力だ。ターゲットが人間だろうがアプリだろうが関係ない。なんでも消せるスキルだ」
やはり危険な能力だった。
あいつのアプリ能力で、俺たちのアプリはいつでもブレイク可能。
あいつのスキル能力で、触れたものは消滅可能。
だがすぐに実行しないってことは、スキルにリキャストがあって、おそらく一回しか消滅スキルを発動できない。
ここでユウトを消してしまえば、残った俺たちがブチ切れて確実にコウを殺す。
あいつもまだ死にたくはないのだろう。
膠着状態だ。
「レンガ君、どうするの?」
不安が張りついたアサヒの声。
それ以上にヨルコがいつ暴走するか分からない。
なんとか敵を無力化するか、先にユウトを助けるか。
決断するしかない。
同時に気がつく。ユウトの名前がデバイスに表示されたってことは、この子もデバイサーってことだよな?
見れば小学生の左腕にはデバイスが嚙みついている。
「……お願い、黒猫さん」
ユウトがデバイスに触れた。アプリ発動。
小さな光が足下に出現した。とてもとても小さな光。
光が形となる。
普通の子猫に見えた。かなり足の短い、小さな黒猫。
「はっ、何かと思えば、ただの子猫じゃねーか!」
余裕のコウ。確かにカワイイだけで破壊力はない。
ユウトのアプリ<マンチカン>。
ただ、その子猫は四ブロックだった。
足の短い黒猫が、ぷにぷにの肉球でコウの足を押した。
たったそれだけだった。
瞬間、読者モデルの身体が吹き飛び、駅の券売機に直撃した。
四ブロックの圧倒的なパワー。人間が相手できるレベルではない。
その場にユウトだけが残った。
「ユウト!」
駆け寄るヨルコ。
「良かった、無事で……」
「お姉ちゃん、ゴメン……」
ようやく姉と弟の再会が果たされた。
心配が大きかった分、喜びも大きい。
抱き合う二人を見守っていたかったが、少しばかり問題が残っていた。
「あのー、ちょっといいかな」
ヤバイ状況を指さす。
あのマンチカンがみるみる巨大化していく。
「わー……、成長しすぎだよー」
アサヒが見上げる。




