第1話『戦場学園』-4
しかし図書館のドアはすでにガレキに埋もれて脱出できない。
崩れ落ちた壁。一瞬で積み上がったガレキの山。その下から細い腕が生えていた。
とっさに身体が動く。
「先生!」
じわりと床に染み出してくる赤いカーテン。
「すぐに助けねえと!」
「待って、レンガ」
ヨルコの厳しい表情。
「もう助からない」
そこには腕があった。腕しかなかった。
逃げ出せと本能が叫んでいる。
ここにいたら殺される。あっけなく、わけも分からず容赦なく。
苛立ちで頭をかきむしる。
「あー、くっそ、どうしろってんだ!」
正確な状況判断は捨てた。
ひらめき、というよりただの思いつきだった。この状態で真っ先に思いついたのがあの場所だ。きっとこの異常事態につながりがあるはず。
「奥に行くぞ!」
「どういうこと?」
「分かんねぇよ! でも行くしかない!」
三人で図書館の奥へ走り出す。レッドドラゴンの雄たけびが背後で響く。あんな奴に襲われたら確実に命がない。こちらにはまともな対抗手段がないのだ。
響き続ける巨大な足音。かろうじて残っていた内壁は今にも崩れ落ちそうだった。
あの場所まであとわずか。これまで図書館を支えていた銀の柱が耐久力の限界を超えて俺たち目がけて倒れてくる。
「アトラクション多すぎだろうがあああ!」
隣りを走っていたヨルコとアサヒの腕を取り、ちから任せに二人を前方へぶん投げる。
俺に向かって倒れてくる銀の柱。
悪いがこっちは普通のマンガ好き高校生だ。特別な能力なんてない。覚醒もしない。チートもない。
それでも。
「崖っぷちで根性くらいは見せてやらぁ!」
全身をバネにして、ありったけの跳躍。着地も考えずにバランスを崩してぶざまに床を転がる。
その数センチ横を遠慮なくぶっ叩く巨大な銀の柱。
砕け散った破片が盛大に全身へと襲いかかる。
「レンガ君!」
幼なじみの悲鳴じみた叫び。俺はアサヒに言ってやった。
「まだ生きてるっての! 次のページをめくるチャンスはあるらしい」
「立てる、レンガ?」
「おう、ちゃんと足は付いてる。大丈夫だ、自分で歩ける」
あっちこっちの身体の痛みを無視してヨルコたちに追いつく。痛がるのは後回しだ。
背後からの地響き。レッドドラゴンの暴走は続いている。
「ねえ、あれ」
ヨルコのしなやかな指。その先にあった三つの何か。
床に置いてあった物。形状はノートパソコンに似ていた。
だが何かが違う。
だいたい縦も横も二十センチくらいだろうか。一般的なタブレットくらいの大きさがある。
つい数分前、あの幻を見た場所。あの時、飛び散った血も肉も何もない。なぜかそこに落ちているタブレット。絶対、怪しい。
とりあえず手にとってみる。表面に液晶モニターが張り付いており、裏側には何もデザインされていない。
「普通のタブレットみたいね」
ヨルコがモニターをコンコンと叩く。何も反応しない。画面は真っ暗だ。
「なにかの装置か?」
ためしに起動してみようとスイッチをさがしていると、突然タブレットが暴れだした。
「なに、なに、なにコレ!」
うろたえるアサヒ。むしろこっちが訊きたい。
三人の手の中で動きだしたタブレットが、ターゲットを見つけたように左腕に噛みついた。
「いってえ、なんだこれ。取れないぞ!」
「あたしも無理。剥がれない」
「ふえええー」