第6話『墜落炎上』-2
「死んだかなー」
相手の<墜落>アプリは四ブロックだ。破壊力はある。
「ありゃ、生きてら」
確かめに寄ってきた男。ヨレヨレのジャージ姿。まるで緊張感がない。
俺たちの姿を見て、あまり接近せずに歩みを止めた。
「いやー、僕のアプリって遠距離で使えるんだけど確認ができないんだよねー。鷹の目みたいな高性能の視認アプリとか欲しかったなー」
飄々とした態度。墜落で人を殺した、という認識がない。
「お前、なんてことしやがるんだ……自分が何をやったか分かってるのか?」
「仕方ないでしょ。それが僕の墜落アプリだもん」
やはり同じアプリを連続使用していた。リキャスト条件が俺たちのアプリとはどこか違う。なにが条件なんだ?
「さっき、はじめてアプリ使ったら家ごと吹っ飛んでさあ、キミたち見た? この辺の吹っ飛び方すごいでしょ」
まるで罪悪感のない語り口。
「他に使えそうなアプリがなくってさー。これ優秀なんだよ。使ってみたらさ、スキル発動で自分だけオートバリア付くの。最初の一発で家族も吹き飛んじゃって。いやー、まいったまいった」
「お前……人間として、やっちゃいけねえことがあるだろうが!」
「だーかーら、なに言ってんの。これは悪魔が造ったアプリでしょ。あいつは人間の命なんてどうでもいいんだよ。ってか、いくら墜落したって、僕らの知らない誰かが死ぬだけでしょ。むしろ僕の勝利のために貢献できるんだから、光栄に思ってほしいよね」
心の底から湧き上がる胸クソ悪くなるこいつの理由。
「なに言ってやがる、てめえ……」
「んー、ちょっと実験してみたんだけどさー。この街にしか落とせないってのが不便だよね。きっとルールを決めた悪魔は、ここだけを戦場にしたいんだろうね」
沸騰していた頭が急に冷えるのを感じる。
このサバイバルのことばかり気にしていたから気づかなかった。
あの銀色悪魔は確かにネットワークへ干渉している。
電波をさえぎり圏外に変え、最初にケータイやスマホをゴミにした。
さらにデバイスには定期的に新作アプリがダウンロードされる。そこから俺たちはアプリを検索して、こうやって生き残ることができた。
悪魔の存在。ネットに干渉する能力。
だがそんな悪魔、本当に実在するのか?
このサバイバルの犯人が、実は人間の仕業……。
いや、考えにくい。
バトルの裏側に、本物の悪魔が存在する。
このデバイスは普通じゃない。もはや魔法みたいなモンだ。
それを人間にばら撒いて血の封印を解く。
この街『五本市』。俺たちがいた『銀書学園』。
名前の由来を考えると、シルバーエンカウントを完全に解放するには血の槍が五本は必要になるだろう。
いるはずだ。悪魔はいる。
「ま、とにかく僕は生き残りたいだけさ。一気にバーンとやって終わらせようと思ったのに……」
なにより、今こいつを確実に戦闘不能に追い込むためのアプリが必要だ。デバイスに検索をかける。
「ね、我慢はよくないよね。知ってるかい? 痛みを我慢すると人は弱くなる。我慢を続けると心はもろくなるんだって」
なんとか声が届く絶妙な距離。あいつのアプリが四ブロックってことは、あと一ブロックで何か仕掛けてくる可能性もある。うかつに飛び込めない。
「飛行機を武器とし、飛行機を操り、飛行機を墜とし、飛行機で地獄をつくる。僕こそ最強のアプリを持つ者。そう思わないかい?」
広範囲への攻撃。圧倒的な火力。安全な自分。
確かに、生き残るには理想的なアプリだった。人として屑になれるなら。
「対人戦において銃やミサイルはとても優秀だ。でもね、普通の射撃兵器ってのは射程距離っていう最大の弱点があるんだよ。でもこのアプリは違う。この街が戦場であるかぎり、僕がターゲットした場所に、いつでもどこでも素敵なプレゼントを落とすことができる。まさに圧倒的。さながら神の力! これぞ神アプリ! ああ、神よ、神よ、神よおーう!」
「神よ、神よと、うっせーわ、ボケ!」
「分かるだろう? 僕のアプリは強すぎる。負けるのはキミたちのほうだ」
「負け戦、上等! それをひっくり返すのが王道だろうが!」




